公園の守り神

無限飛行

ある春の日、私は公園のベンチに座りながら、あまりにも混沌とした気持ちに苛まれていた。

最近、仕事やプライベートでうまくいかないことが続いていた。どうすればいいのかわからず、心が揺れ動いていた。


公園にいる人たちは、みんな笑っているように見えた。それでも、私はどこか寂しい気持ちがして、泣きたくなってきた。


そんな時、隣に座った古風な和服のおじいさんが話しかけてきた。

不思議と長い白いアゴヒゲが印象的で、何だか物語に出てくるような人物である。


「お孫さんと一緒に遊んでいるんですか?」

「いいえ、子供はいません」


私が答えると、おじいさんは不思議そうに私を見た。


「そうだったんですか。そんなに深刻そうな顔をしていたので、何か悩みでもあるのかと思ってつい声をかけてしまいました。私も昔は仕事や家庭で悩んだことがありましてね。深刻そうなあなたの顔が昔の自分に見えてしまって……でもね、時間が経つと解決策が見つかりますよ。だって今悩んでも解決しない事もありますから。そんな時は、悩む事を忘れる事も必要ですよ」


おじいさんの優しい声に私は、少し心が温まるのを感じ、何か、ぐちゃぐちゃにこんがらがった自分の気持ちが軽くなった気がした。


単純な事。そう、時間が解決策を見つけるための近道なんだと気づいた。



きっと私に欠けていたものは、小鳥たちの鳴き声や花の香り、風の匂いに包まれながら、時間を掛けてゆっくりと、自分の気持ちを整理する事なのだろう。



「おじいさん、何か気持ちを落ち着かせる事ができました。おじいさんのお陰で……?」



そう言いながら、おじいさんのいた方に振り返った私だったが、何故か、たった今まで耳元で聞こえていた筈のおじいさんは、その声と共に姿が消え失せていた。


ふと、先を見つめると、公園で一番大きい桜の木が満開になっており、その根元に何か、石仏がある。


近づいてみると、その石仏は先ほどのおじいさんソックリなアゴヒゲを蓄えた彫像だった。


もしかすると先ほどのおじいさんは、この公園の守り神だったのだろうか。



彫像のおじいさんは、桜の枚散るその場所で、静かに公園を眺めていた。

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公園の守り神 無限飛行 @mugenhikou

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