永遠の約束Ⅱ~侍女になった私は、年下騎士に溺愛されるようになりました~
第1話 騎士団、辞めます
「ダニール、あなたにはサラがいるのに……」
「サラ? サラはただの同僚だ。そんな仲じゃない」
ん? 誰か私の噂をしている?
騎士団の練兵場へ向かう途中、庭園の茂みの方から声が聞こえてきた。
二人ともよく知っている声だ。
一人は従姉妹のアニタナ。
一人は騎士の同期であるダニールだ。
茂みの向こう、抱き合う二人の姿が見えた。
私の名はサラ=エルシア。
現在マウル王国四騎士団の一つである白狼騎士団に所属している。
王国を守る騎士団の中でも白狼騎士団は最強と称えられていた。
そんな騎士団に所属していること自体はとても名誉なことだと思っている。
だけど。
「ダニールってサラと仲良かったんじゃないの?」
「あんな凶暴女、女だと思っていない。やっぱり女は守ってやりたい存在じゃなきゃ」
くすくすくす……。
くすくすくす……。
馬鹿にしたように笑いながらイチャつく二人に、私は溜め息を吐いた。
ダニールは騎士としても実力があり、伯爵家の令息だ。しかも顔もいいから普段から女性にはモテていた。
ダニールの言う通り私達はあくまで同僚だ。
同じ騎士団の同じ部隊にいる仲間として軽口をたたき合う仲。
特に恋愛感情を抱いていたわけではないが、凶暴女という言い草にはさすがに傷ついた。
確かにこれまで多くの魔物を倒してきたし、敵兵も悉く蹴散らしてきた。戦いに縁がない貴族や令嬢が私を恐れるのはまだ分かる。
だけど騎士団の仲間であるダニールまでそんな風に思っていたなんて……。
アニタナは確かに愛嬌があって可愛らしい。
それに比べ私は幼い頃から表情が硬く、それでいて愛嬌のかけらもなかった。
騎士になってからは、ますます可愛らしさからは縁遠くなったような気がする。
実の兄であるケイルもアニタナのことばかりを可愛がっていた。
嫁ぐことが女性の幸せと信じて疑っていない両親も騎士として働いている私を苦々しく思っている為か、常にアニタナと比較するようなことを言っていた。
女性がする化粧やドレスもあまり着ずに、いつも剣ばかり振り回していたから、同性からはモテたが、異性からは恋愛対象として見られたことはなかった。
まぁ騎士として国に仕える以上、騎士仲間から女として見られるのも困るのだが。
私はそっとその場から立ち去る。
とにかく今の光景は見なかったことにしよう。
ああ……気分が悪い。
その時私は知らなかった。
密かに立ち去った私に気づいたアニタナが、クスリと笑ったことに。
◇◆◇
学生時代親友だったハイネルが結婚した。
相手は私が尊敬する上司であるケンリック=リーベル白狼騎士団第一部隊隊長。
あ、今は将軍を補佐する副官として働いているので隊長ではないのだけれど、我が白狼部隊がマウル王国の精鋭と呼ばれるようになったのは、ケンリック=リーベル隊長の活躍があってこそだ。貴族からは鬼とか悪魔とか恐れられていたけれど、殆どが隊長の活躍による嫉妬によるものだった。
そんな隊長が私の親友だったハイネルと結婚するという話を聞いた時、私は飛び上がりたいくらい嬉しかった。
ハイネルなら、きっと、きっと隊長を幸せにしてくれる!! そう思っていたから。
予想通り二人は幸せな結婚生活を送っているみたいで、社交界では仲睦まじい姿を見せることが度々あった。
そんなある日ハイネルから一通の手紙が届いた。
内容は、自分の侍女として側にいて欲しい、マノリウス家にはサラ=ヱルシアが必要だという、熱意が伝わる文章がしたためられていた。
学生時代、ハイネルが大公令嬢だと知らなかった私は、彼女といつも一緒に行動していた。今にして思うと相当馴れ馴れしかったかもしれないが、ハイネル自身はそれがとても嬉しかったらしい。
ハイネルの侍女か……。
私は手紙を見詰めながら考える。
正直、リーベル隊長がいなくなってからの白狼騎士団は居心地が悪かった。
「女は大人しく家を守るものだ」
「女が剣を振り回した所でごっこにしか見えん」
「女は雑用でもしていろ」
新しく隊長に就任した人は女である私を明らかに見下していた。隊長に気に入られようとしている連中も私のことを小馬鹿にしたり、雑用を押しつけたりするようになり、正直騎士を辞めたい気持ちになっていた。
だからハイネルの申し出は、私にとってまさに渡りに船だった。
◇◆◇
一週間後――
「サラ、君が出て行くことはない! あんな奴らのこと気にしなくてもいいから!!」
「……」
隊長室のデスクに辞表を置いて出て行く私を引き留める人物がいた。
ダニールだ。
彼とは仲間として仲良くしてきた。
私のことを案じている言葉が嘘だとは思わない。
私達は気の合う仲間だったし、戦いに置いては実力もあり、安心して共に戦える人だったから。苦楽を共にした仲間であったことは確かだ。
アニタナとの会話を聞いていなかったら、引き留めるダニールの言葉に耳を傾けていたのかもしれない。
「さようなら、ダニール」
「……っっ!」
笑顔で別れの挨拶を告げる私に、ダニールはショックを受けたかのように目を見開いた。
自分が引き留めたら思いとどまってくれるとでも思ったのだろうか?
冗談じゃない。今のあんたじゃ何の説得力も無い。
アニタナと一緒になって陰で私を嘲笑っていたあなたに私を引き留めることは出来ないから。
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