リヴィラン ~どう進んでも死ぬ予定の悪役貴族、思い出した前世も悪人だった~

回道巡

悪の覚醒・少年編

第1話

 「も、もう勘弁してください……」

 

 目の前にうずくまった男が弱々しい声で何か言っている。かんべん? なにを?

 

 「まさか……本気でそんなんで許されると思っちゃあいねぇよな? 寝惚けてんのかァ!」

 

 地の底から響くような、低く、ドスが効いた声。迫力がある、というよりはもっとどろどろとした怨嗟みたいなものを強く感じる。……この声、まさか僕の口からでているのか?

 

 「おらっ! おいっ! これで目ぇ覚めるか!?」

 「うっ、ぐぅっ……、ううぅ……」

 

 既に赤く濡れていた拳が、さらに赤く汚れていく。他人を殴ると自分の拳も痛いって誰が言ったんだ……? 痛いどころか気持ちがいいじゃないか……っ!

 

 「テメェで借りた金も返せねぇクズは死んだ方がいいよなァ!」

 「ええええぇぇぇっ! そこまでいう!? てか何も借りてないよぉ……」

 

 え? 声が急に高くなった……というか、声変わり前の子供の声?

 ……。

 …………。

 ………………。

 いやいや、僕は何をいっているんだ。十歳の僕の声が地の底から響くほど低いはずだなんて、どうしてそんな勘違いをしたんだろうね?

 それに借りた金? 本当に僕は何を勘違いしていたんだろう。

 

 「あ、そのー、アル君は調子が悪いみたいだしー、僕はもういくね?」

 「アル?」

 「え? う、うん……。アル・コレオ君……だよ、ね?」

 

 何……? アル? だって僕は……俺は……ショウトで……名字はサ……あれ? 違う、僕はそう、アルだ。コレオ家の次男アル様だ。

 今日もこの目の前の舎弟一号こと、シェイザ家の三男坊グスタフにアル軍団の心得を叩き込んでやってたんだ。そう、迷いの森への探検ごっこ程度で怖がるグスタフを引きずっていく途中……だったはずだ。

 

 「いや、ちょっと待てグスタフ!」

 「え!? あ、そのー、帰っちゃだめ……かなぁ?」

 

 小柄なグスタフは僕が見下ろした視線の先で、気弱な笑顔で御機嫌をうかがってくる。十歳の子供にこんな表情をさせるのも申し訳ないけど、今はそれより大事なことがある。

 

 「アル・コレオ、十歳。僕もお前も十五歳になったら、学園都市ヴァイスに行って……入ることになる……ヴァイシャル学園に」

 「え、う、うん? きっと入学試験は受けさせられるよね? 二人共貴族の子弟ではある訳だし。……僕はひ弱だし……頭もあんまりだし、きっと無理だけど……」

 「いや、グスタフは実技で上位の成績を叩き出すから、かなり余裕の合格をする。僕の方がぎりぎり……、コレオ家の権力での裏口入学って噂を流されるくらいだし」

 「何言ってるの? えと……大丈夫?」

 

 さっきまでと違ってグスタフがわりと本気で心配そうな顔を向けてくる。“今の”こいつにとっては意味不明なことをいったんだから当然だ。だけどこれは事実だ。そう、ゲーム『学園都市ヴァイス』に登場する悪役貴族アル・コレオと、腹に一物あるその悪友グスタフ・シェイザの“設定”は、そうなっているのを俺は知っているからだ。

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