048

 彼が居ない事に気付いたのは転移した直後だった。やらかした? と考えたが、ミーゼリオンに転移に介入するだけの力は無い。あの遺跡に何かあったかとも考えたが、そんな機構が無いのは知っている。


 ならば一体誰が? ……見当は既についている。敵じゃないのは分かるけど、どうしてそんなことをしたのかは知らない。彼がそうしたのだから、きっとライラックは無事だろう。


「最初から一人でやるつもりではあったけど……」


 ミーゼリオンと五つ目を同時に相手取る事になるかもしれない。いや、五つ目の召喚さえ防げれば良いが、しかし既に手遅れにも思う。サウストルガニスで行っていたあの儀式とも呼べる。


 しかし、彼をこのままにしておくのはどうなのだろうか。私に邪魔させないよう、魔力感知の難しいオヴィレスタフォーレに送り込んだのは容易に想像が付くが……。まぁ、彼の事だ。きっと見守っているのだろう。


「なら、ライラックが帰ってくる前に終わらせたいな」


 教会前、ユメちゃんに会う為にここに転移したが、どうやら彼女は不在らしい。別に不思議な事じゃない。ミミララレイアとの会合だとか、他国との会談だとか、あの子にはそういう仕事だって沢山ある。彼女には頼める事は頼んである。進捗を聞くつもりだったけど、彼女を信じるしかないだろう。


 五つ目。久々に、ダウナーウィッチとしての大仕事だ。肝に銘じろ、アリシア。お前はこれから沢山のヒトを不幸にする。努々忘れるな。誰かの希望は誰かの絶望の上に成り立っている。それを壊そうってんだ。感情を棄てるな。その上で、お前は罰を受けるのだ。


「………………分かってる。分かってるよ、エリー」


 息を吐く。この国に張った結界は何の為か。外からの進行を防ぐ為? 馬鹿言え、それだと誰も来なくなる。逆だ、閉じ込める為。確かに外からの侵入を阻む要素もほんのりと香る程度に含ませてあるが、本質は真逆。


 空に暗雲が立ち込める。明らかな局地的な雲だ。何かしらの魔法が発動したのだと考えて良い。


「…………、感知が、死んでる?」


 そうだ、魔力の流れが読めてない。本来なら、天候操作なんて高いレベルの魔法であれば、感知出来るはずだ。それが出来ていないとなると、この国の機能の一部が麻痺していると考えた方が良いかもしれない。


「面倒な事をしてくれる」


 今度は溜息。魔力感知によるヒト探しを当てにしていたが、そりゃあ潰されるか。相手は私の事を限界まで警戒しているはずだ。


「けど残念、それじゃ甘いんだ」


 魔力感知が使えない? それは他人の魔力だからだ。国の地下に張り巡らされた血管が如し魔力回路。あれに備え付けたモノが使えなくなったに過ぎない。


 無許可は怒られるかもしれないけど仕方ない。私の愛には無理をさせるけど、後でスイーツでも持って帰って謝ろう。


「精霊炉、接続開始」


 私の持つモノじゃ足りない。というか私に炉心は無い。魂をエーテルに還す? いやいや。


「疑似魔力回路、生成開始」


 領域外から叩く。暗雲、雨雲。つまりは結界の外だ。もっと言えば術者も外。


「摘出、放出、拡散。ファブナーの外なら安全だと? 寧ろ、外からの恐怖に対し設置したんだ、思い知るが良いッ!」


 星が輝く。疾うの昔に捨てた指輪は青く光るだろう。遥か昔、忘れられた魔法の再現。


「砲台よ、起きろ。仕事の時間だ」


 挨拶替わりに存分に受けていくが良い。これは私からベスターへの宣戦布告ッ。全てを過去に、全てを正し、全てを前に一歩進ませる為の決戦だ。その下準備として沈み逝け。


 杖を空へ飾ず。──合図だ。全ての砲台は起動される。同時に形成された魔法陣は、砲台一つ一つに設置されていく。出力三パーセント。これで十分。あの程度の雨雲は払える。そう、問題と言えば、各国への通達を怠った事。ユメちゃんの仕事が少し増えるかもしれないが、そこは流石に私が出向く事にしよう。


「カウンタースコープ、省略。狙い撃つは雨雲のみなれば、撃ち払うのに砲台だけで十分」


 遥か空、絶巓に輝く星々のその一部。その全てを反射し魔法と成す。聖方、ある一点を除けば確かにあれは完璧な魔法式だったと言える。あぁ、あの時代ではというだけだけどそれでも優秀だったと言える。だが、それじゃダメだ。足りない。魔法として存在するにはあれらは威力が低すぎる。グラーヌス、岩石の剣。あれで聖方最高威力? 笑わせる。建物一戸も壊せないで何が最高威力だ。


「魔法とは、こうやって使うんだ。篤と見るが良い……ッ」


 カルイザムの滅びをこの眼で見た。あの日、王は私に言った。魔法の真髄とは、魔法の理念とは、お前に眠る忠義とは。


 魔力の糸を結ぶ。それでも全力に満たぬ一撃はファブナーリンドを砲台として放たれる。砲台から形成された魔法陣は十三基合わせて一つの魔法を成す。火球? 雷撃? 風刃? 岩剣? 否、否、否、否ッ! 真に属性を排斥した究極の魔法その再現。そして更にはそのたった三パーセントの出力。


 あの雲自体が魔法の様なモノだ。そんなモノに魔法をぶつければどうなるか分からない。だから領域外からぶちのめし、その影響ごと飲み込む。衝撃は空の彼方へと消えるだろう。魔力障害は天脈に流され消えるだろう。だったら憂う事は何も無い。


 空に翳した杖を横へと動かす。それが発射の合図。輝きの砲台のその異名はもう無くなっちゃったけど、そう呼んでくれたヒトが居るから私は、今こうして。


 発射されたそれはまさしく忘れ去られた魔法の絶巓。結界をすり抜け、一筋の光は雲へ着弾し、闇を祓うが如き輝きその暗雲を一掃する。


「…………検索開始」


 放たれた魔法から拡散された魔力を使い、サーチに転用する。弾けた魔力はファブナーはもちろん、オヴィレスタフォーレ手前までの範囲にまで及ぶ。それによる探知はファブナーに張り巡らされた魔力回路由来の探知よりも精密となる。


「見つけた」


 同時に杖をこつっと突いて転移を起動する。魔法使いが十人。まあ妥当な人数だと思う。これだけ居たらそりゃああれだけの暗雲は作れるだろう。


 急に現れた私に悲鳴を上げた魔法使いが逃げようと悲鳴を上げる。


「聞いてないッ! こいつが出て来るなんて聞いていないッ! クソ、あの野郎騙したのか……ッ!」


 怒りの叫びだったが、私には関係ない。


「逃げても無駄だよ」


 というかもう逃げられない。破れるのであれば破って見ろ、そんな事を誰かに言う為に作った結界。閉じ込める為ならば、私の結界は何十倍にも強度を増す。


「さて、キミ達がしようとしているのは時間稼ぎって事くらいは分かる。拘束した後、ミーゼリオンを直接叩く。視てるんでしょ、ミーゼリオン。…………今からお前を殺しに行く。首を洗って待ってろ」


 こいつらに聞いてもごねるだろう。時間の無駄だ。


「悪いけど記憶をそのまま抜き取るよ」


 廃人になるだろうけど、まあいいでしょ。生きる価値はこいつらには無い。雇われただけだとか、俺達は騙されたんだとか、うるさいな。関係無いだろ、そんな事。


 目についた男の頭に手を翳す。


「────────────────────そうか」


 ミーゼリオンめ、ぬかりの無い奴だ。呪いを扱うとは言え、この上手さはレンデオンに匹敵する。使い方は最低最悪だが、技術だけなら評価出来る。他人の記憶にロックを掛けるなんて芸当、私でもその構造は読み解けない。


「けど、まあ、必要な情報は見つかった。自分の目的にロックを掛けろよ」


 呆れて溜息を吐く。この場合、目的ではなく手段を切に思っている様に見える。実際そうなのかもしれない。あっさりとライラックに目的を打ち明けたのも目的は二の次で、手段を実行するという事に意味を見出している可能性がある。そうなると厄介だ。完成したモノをぶち壊せばあいつは止まると思っていたけど、残念ながらそうじゃないらしい。


 魔女にとって、結果は大切だろう。何を思ってこんな事をしているのだろうか。それに、思えば記憶のロックなんて最早呪術の域を超えている。魂に干渉しているのと大差無い。それだけの力、あいつのどこにある?


 いや、もっと言えばあの人形。あれには魂が宿っていた。子機である事はすぐにわかったが、見るまで分からなかった程の純度。そんなモノ私にも作成出来ない。


「──────────────」


 一つ嫌な考えが過ぎる。けどすぐにあり得ないと一蹴して考えを改める。


「まあ良いか。それじゃ、サヨウナラ」


 杖をもう一度突く。起動された魔法は転移では無く『シャクティ』。岩石を作り上げ地中から突き上げ串刺しにするモノ。残念ながら現代魔法に取り入れられなかった悲しい魔法。ぶっちゃけこれ、魔法というより物理だもんな……。串刺しにされたら誰だって死ぬし。


 再び転移でファブナーの敷地に戻る。ミーゼリオンの気配が先ほどからしない。まさかこの国には居ない……とか? だけどあの発言確かにファブナーに居るはずだ。必ず見つけ出して、この手で……ッ!


「…………、しまった。あの子は……っ」


 ライラックに託され、そして同時にシグが文字通り命を張って護った少女。贄、と言っていた。あの子がトリガーの可能性がある。シンジュルハベスターの内情はあまり詳しくないけど、それでも贄にされるのだから何か特別な事があったんだろう。あの子から感じるものは何も無いが、例えば、血とか。全てを調べ切っている訳じゃない。彼女がどういう血筋でこのファブナーに生まれたのか。一度調べた方が良いかもしれない。


 孤児院前、いつもなら子供達の声で賑わっている時間。けれど妙に静かで、まるで誰も居ないかの様。…………、最悪な状況を想定して動け、麗愛の勘を取り戻さなければ。


「子供達は無事か……けれど、やっぱり、あの子だけが居ない」


 想定通りではあるがマズイ事になった。何故彼女なのだろうか。贄の条件は何だ? 血を捧げ続け、最後にその魂と肉体を捧げる。その方法は、特殊な儀式を用いた投身自殺。けれどその魂は絶対にベスターには届かない。五つ目を顕現させる為にあの子が必要だと? いや、そもそもシンジュルハ全体において重要な役割を担っているのか? ……目的は分かるが手段が分からない。


 オリちゃんと約束した一週間という時間制限、ここに来て少し苦しくなってきたかもしれない。


 あの子を追いかけてももう遅いだろう。私がファブナーから居なくなった時点で計画は実行に移っていたと考えて良い。だったら既に彼女は贄にされている可能性だってある。追いかけるべきはあの子では無くミーゼリオン。いや、この国にはびこるシンジュルハベスターの信者共。向かうべきは居住区、か。あの子が住んでいた──監禁されていたあの場所。あそこから彼女は移送されていた。そこをシグが助けたとなると、場所は……。


 監禁場所から東に向かっていたとなると、凡その位置は把握出来る。ただそこに無策で突っ込む程私もバカではない。


「…………、私の愛、私の全て、私でなくあの子に負担が掛かってしまうのは申し訳ないけど、あの子から出た錆びみたいなモノなんだ。多少は許容して貰わないとね?」


 聖方は星々の光を反射し魔法を扱う。そういう設定で広がっていた。けれど実際は古き魔法のとある部分を真似ただけの意味の無いモノ。現代魔法はそれら両方と隔絶した魔法であるが、しかし、それでは威力が落ちる。


 私にはあれじゃ物足りない。国一つを崩壊させる程の一撃。グラーヌスだとか、グランビュードとか、キュクロープスだとか、昔の私なら満足していただろう。それこそ麗愛の時であれば、私は満足していた。その終わりと同時にこれじゃあだめなんだと気付いたが。


「麗愛の時代の話は語り継がれ、その形状は大きく変わった。ヒトはあの冒険に憧れ、そして脚色し新たな物語としてしたためた。ならば、魔法使いという名の意味は、私が得たあの称号も形を変え、この世界に生き続けている。意味を失ったあの日、理由を失くしたあの日、されど人々はその言葉を口にした。英雄は死に、陽は昇る。影は消え、忘れ去られるべき私達の物語は白昼に晒された」


 無辜となる。私があの日犯した罪。世界を殺そうとした大罪人を愛し、生きながらえたその罪さえも、やがて消えた。


「…………、神を相手取るならば、私は怪物でなくてはならない」


 そうだ、怪物になる。それこそ、最後の刻の様に。あの日、僧侶ちゃんを殺そうとしたあの刻の様に。


 動かぬ心臓が痛む。握り潰されているかのような痛みが断続的に続いている。いきなり使って怒っているんだろう。私の体では無く私の愛が。精霊炉、星を管理するモノが持つ炉心に似たモノ。麗愛にてその座と役割、権能を譲り受けた。


「────────これは、私の役割の一つでもある。世界を救う。例え、システムとしての役割を終えたとしても、私というヒトの意思はまだ終わってないんだ」


 全く以て不愉快だ。世界を救う一環として、自分の国くらいは守って見せる。お父様が見せたあの背中を私が再現出来るなんて思っていないけれど、民の為に生きようとしたあの志ならば、何とか。


 私は怪物だ。語り継がれ、『そうであるべきだ』と人々の理想を押し付けられた私は、最早あの刻の私ではなくなったけれど、それでもこの記憶は間違ってない。


 もう遅い、と分かっている。ベスターは諦観した。偽りの神の癖に戦って、それで勝ってしまった。目的は達せられそしてその意味を失った。何の為に戦ったのか、何の為に進んだのか、その全てを忘れ失って、辿り得た頂点には何も無い。


 それがベスターだ。


「長期戦になる。ライラックの事を気にしてる余裕は無いし、ミーシャちゃんに今の状況を伝えるのも逆効果か」


 五つ目の顕現、その前哨戦として、ベスターは顕現されるだろう。五つ目の神の素体として、ベスターは使われるのだろう。カミを作るにはカミが必要という訳じゃない。けれど大幅にショートカット出来るだろう。


「ミーゼリオン。どうしてキミはそうなってしまったんだ」


 大陸全土を探したとしても魔女の家系はそう多くない。彼のレンデオンはその終わりを迎えたが、ミーゼリオン、アインセル、グリムライト、イグニマス、ヴィヴィアン、フランソワーズ等の魔女の家系は何百年と続く。その中でミーゼリオンは何度か顔を合わせた。現当主である、あの子は初対面だったけど、ミーゼリオンという家系自体なら初対面ではない。


 魔女、特にミーゼリオンは過去に何度か共に仕事をした仲だった。どこで歪んだ。どこで間違えた。それに、私の知っているタイミングじゃない。少なくとも、私は五つ目の顕現なんて知らない。ベスターとの因縁は断ち切るつもりだったけど、それはシグが成人を迎えた後を予定していた。もしもの事を想定していたのもあるけど、最悪彼が成人した後なら、この国はなんとかなるんだ。


「それに、今はタイミングが悪すぎる」


 弱体化に次ぐ弱体化。今の私は最大出力には至れない。千年前ならともかく、制限を抱えてしまった今だと、どうしても自壊が始まってしまうだろう。


 杖で地面を軽く小突く。地下に眠る、地脈を真似たこの国魔力回路。その機能の一部を私に転写する。左の肘辺りに魔法陣が形成され固定される。オーバーロード。疑似魂を生み出し、作り出した魔力を喰らう、異端の一歩目。それを現代魔法に組み込んだのは何の為か。


 星が蠢く。大量に集まった虫のようにもぞもぞと個々が震えている。それは警告。神話に騙られるベスターの顕現の予兆。ヒトが相手取るような奴じゃない。現代であれば、あれに対抗出来る者はネドア・ルビツや私くらいだろう。けれどそれはベスター単体であればの話。ミーゼリオンの話であれば、五つ目も顕現されるはずだ。ベスターを召喚し、出来た歪みを使い、連鎖的に五つ目を召喚する。最初から五つ目を呼ばずにベスターを召喚するのはその為。


「ユメちゃん、自分がやれる事を全力でやれば良いから。民を護るのは、キミに任せた」


 杖を構える。空に浮かぶ巨大な魔法陣。現代魔法や聖方とも形状の異なる幾何学模様を以て描かれたそれは、召喚陣と呼んだ方が正しいのだろう。ヒトの祈りと贄を使い顕現するは災厄のカミ。贄は、魔力リソースに変換したのだろう。ミーゼリオンの入れ知恵だろう。面白くない。魔法における美学が足りていない。


「星辰達よ。我が声に呼応せよ。私はお前達を使役せず。お前達は私を呼び止めず。されど、星よ、星辰達よ、お前達が望むのならば、この魔力を捧げよう。その代わり、一度私の願いを叶えたまえ」「あるべきは夢の終わり。罪深き我らヒトを赦し、我らヒトの血は途絶えず。狂信に信奉に奉るは星の海。導きの星達よ、夜を照らす月と共に輝く斯く美しき星達よ。ここに、願いを叶えたまえ」


 こいつはあくまで前座だ。千年程の因縁があったけれど、あっさりと出てきやがる。ベスターに善性も悪性も関係無い。あれが存在するというだけで厄介だ。


 急速に上空にある魔法陣にエーテルが吸われていく。ここまでの速さで吸われていくのは、何かしらの魔力災害の前兆とも捉えられる。けれどこれは人為的なモノ。千年前の光の螺旋。あれと同じだ。


 災害を神によるモノであるとか言って神格化するモノもあるが、その再現だろうか。にしてもチープだ。子供が考えたかの様な……。


「仰々しくやっているみたいだけど、さ」


 結局それじゃ、誰も救えないんだよ。ベスター、お前は、何の為に戦ったんだ。


 形成され行くは異形。ヒトが神なるモノを想像なんて出来るものか。形の無いモノを無理やり形にするから異形になる。ヒト型ですら無いそれは、雷雲に腕が生えたような造形をしている。あまりの巨体が故に、威圧感だけは凄まじい。


「同じだね、お前も、私も」


 同じ怪物だ。神だとか王だとか、そうやって崇められるのは背中が痒い。そうだろ、ベスター。戦の神がそんな異形で良いわけがない。猛々しく雄々しき益荒男が如き男神。それが、本来描かれるお前だろう。


「…………、物語に脚色は憑き物よ、か。アリス、キミの言葉を今になってしみじみ実感するよ」


 恨めしきベスター。憎きベスター。されど、お前は求められただけに過ぎない。お前を恨むのは筋違いってものかもしれない。


「けれど、シグやミーシャちゃん達が平和に暮らせる為に、お前は、ここで完全に終わらせる……ッ!」


 無き炉心が熱く燃ゆる。己が猛りに身を任せ杖を振り下ろす。詠唱なぞ不要。スイッチは既に入れられたッ! 眼前に生成された岩石の剣は形成され瞬時に目標へと駆ける。


「カウンタースコープ」


 あの程度の攻撃、あれに通じるモノか。結末は見るまでも無い。右目を中心に魔法陣を描く。観測魔法陣。


 あれを御するには、今の私では不足だ。なんせ神と崇められているモノだ。言ってしまえばただの化け物だけど、ヒトであれば対抗は出来ない。さっきも言ったか。なら私も化け物にならなくてはならない。あれみたいに原型を崩すのは無理だけど、ヒトの形をした怪物は良く知っている。


 髪の毛一本さえ残らず全てを端末と思え。指先だけじゃ足りない。


「精霊炉、再接続」


 本来なら、本拠地を叩きたい所だけど、場所を割り出す前に顕現されたんじゃ仕方ない。先にベスターを御するッ!


「少し我慢しててね、オリちゃん……ッ」


 生成されるは数百に及ぶ幾何学模様の集合体。その全てが個々の役割を全うせんと青く光り輝く。私の遥か上空に現れたベスターに対しどう戦うか、なんて考えても仕方ない。まずは全力で叩く。


 輝きの砲台の異名、今こそ見せてやろう。相手がヒトならざるカミならば相応しい。


「飛べッ!」


 地を叩く。それを合図に形成された魔法陣は急速に魔弾を組み上げそれぞれ目標を打破せんと撃ち上がる。一つの魔法陣から一つ、なんて考えは捨て、術式が安定したモノは再利用、不安定になったものは破棄して残ったモノを再利用。とめどなく撃ち出されるそれこそ、私が砲台だと呼ばれる所以。


 出力、八パーセント。国に一切の被害が出ない様に戦うというのも苦労する。先ほどから聞こえる悲鳴は、ベスターを見上げた者達のモノだろう。騒ぎを聞きつけた教会の騎士や魔導士達が住民たちを教会へと保護しようとする動きが見られる。ユメちゃんの声でそうしている訳ではないだろう。彼女は不在だった。良い訓練がしてある。緊急時に役に立たない組織なら、教会に魔導士達を置く必要なんてない。冒険者で十分だ。


「……………………ッ」


 やられてばかりのベスターでも無い。彼奴はカミと謳われる。反撃に移るのは容易いだろう。だが、彼奴が現れた上空は結界の外だ。私の作った最上級の結界。外からの侵入は許さず、内から出て行くのは許している。だから私の魔法は結界をすり抜けてベスターへと届く。


 けど、流石にベスター程のモノであれば、それさえも紙同然に破り捨てるだろう。


「全門、開廷」


 開くは全ての砲台。私のあらゆる知恵を絞って絞って絞りつくして作り上げた十三の砲台その全て。本来テメェなんぞに使う予定は無かったけれど、こうなっては仕方ない。


「目覚めよ、仕事の時間だ」


 杖を両手で握り、眼前に翳す。ベスターを中心とした魔法陣はファブナーに向けて火球を生み出している。その数は先ほどから私がぶっ放している魔弾の総数とさして変わらない。魔力障壁を作ればいいモノを、魅せてくれるじゃないか。


 一つ一つに火球をぶつけ相殺するつもりなのだ。こっちはまだまだ余裕であるという挑発とも取れる。


「けれど、これは防げまい……ッ!」


 第二層を省略し、第一層から第六層、開門。目覚めで悪いが、相応の働きをしてもらうッ! 弱体化はしたけど技術は向上したんだ。今更あの時の様な口上は必要無いッ。ただ一言、それだけで良い。


 七層、開門。カウンタースコープの破棄さえ必要無い。喰らえ、改良版、オーバーロードイクリプス。魔力伝導率超強化版だこの野郎ッ!


「ぶっ飛べぇぇえっぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえッ!!」


 本来上から右へと杖をスライドする事で発動されるモノだが、急遽変更、眼前に描いた魔法陣をぶっ叩き発動の合図とした。装填された魔力は、この国周辺から得たエーテルを直接オーバーロードで変換した新鮮な魔力。何千発とぶっ放したのが砲弾であればこれはレーザー砲。真っ直ぐ飛んで神核ぶち抜けばいくらベスターでも停止するッ!


 これは超高圧縮高密度魔力レーザー砲。魔王さえ砕いたこの魔法、篤と受けてみろッ!


「…………………………………………………………、マジかよ」


 実際これだけの出力であれば、神核くらいは持っていけると思っていた。冗談ではなく本気で。だってこれ、一応は魔王を砕いた一撃なんだよ?


「……、再構築、魔力装填、急げッ!」


 目覚めで訛ったかよ、砲台共……ッ! いや、違う。見誤ったんだ。あれは確かに神と呼ばれるだけの怪物だが、しかしあの脅威程ではないと判断した私のミスだ。


 魔力障壁一つで防がれた。あれにぶつかる前に展開され、撃ち出したモノを受け流した。


「……、いや、受け流したって事は喰らえばやばいってことだ」


 ネガティブに考えるな。再構築は、間に合わない。一度使えば、砲台の冷却が必要だ。一基程度ならば連続使用も可能だろうが、しかしそれはベスターには届かない。


 聖方、現代、どちらも通じるか怪しい。あれはまさしく化け物だ。ファブナーに備えた十三砲台も効果が無いとなると、それこそ異端でしか対抗手段が無い。


 杖を眼前に構える。魔法式の最奥、現代式を作る際に聖方を分解しある程度は理解した。ヒトが扱える枠に収めるのが魔法式であると言うのなら、聖方を作った者は天才だ。初代ストライクウィッチ、外からやって来たモノを内側に閉じ込め枷を付けたのは、良い判断だった。異端たるを聖方に換装したのも今では考えられぬ手腕。


 ベスターが動く。その巨体の首を下げ、私を見下ろしている。にたりと笑っている。愉しんでいる様にも伺える。先ほど払った雲は、この巨体を隠す為だったと考えるべきだろうか。ベスターにとって有利な状況を作るのが本来の目的だった? にしては稚拙だったが。


 神だと崇められたモノが異形となってヒトを襲う。封印なぞでは生温い。


 出力上げろ。燃ゆる無き炉心から全身へ熱を伝播させ、己を鼓舞せよ。今更死ねる体でも無い。魔力伝導率だとか考えるだけ無駄だ。


 そもそも私は遠距離射撃型じゃない。そんなスキルツリーは取った覚えが無い。元より私は超近距離白兵戦特化改良魔法を主体として戦闘を行ってきた。聖方で後手に回ったのは仲間が居たからだ。今はその縛りも無い。思い出せ、お父様にどう教わったか。


「──────────────」


 まずは、あいつを地上に引き摺り降ろす……ッ!


「第一層より第十三層まで全省略。繊月よ、我が成す魔法をご照覧あれ。降り注げ、略式:ストライクスターブレットッ!」


 ベスターの頭上に描かれた魔法陣はいわば何かを生成するモノではない。火球、岩石の剣、雷撃の槍、それらは魔法陣から魔力を触媒にして作り出すモノだが、あれはそれとは別種。現代にも聖方にも存在しない最古の魔法式にのみ記録された現象の一つ。


 あらゆる物質を生成するのが魔法? 馬鹿言え、それはどちらかと言えば錬金に近い。では魔法とは何なのか。真なる魔法は、何かを生成するモノではなく、物理現象そのものを捻じ曲げる。


 火球だって、単純に火を生み出して纏めているわけではない。現れたるは遥か彼方の宙より墜ち来たる巨石。即ちメテオ。あの魔法陣が吸い寄せ墜としたモノ。スターブレット、とどのつまりはそういう事。轟音響かせ墜ちるそれは、魔法陣を通過したと同時に加速する。炎を纏い、周囲の空気を切り裂き、衝撃と共に落下する。あの巨体じゃ避けられまい。


 巨石はそのド頭をぶっ叩く。かなりの速度と質量だ。略式じゃなければこの結界を破りこの国諸共木っ端微塵だ。たった数センチのモノでさえかなりの被害を出す。それをメートル単位でぶつけるのだからこれでも結界が無ければかなりの家屋は倒壊していただろう。


 遥か上空に座するベスターでもこの威力であれば一たまりも無いはずだ。放射状に広がる衝撃派が結界を揺らす。これくらいであれば結界も持ちこたえる。如何に高度な結界であろうと術者の本気の攻撃には耐えられない。そういうモノしか魔法では成せない。そもそも国のど真ん中で戦うべき相手じゃない。


 ベスターは尚私を見下ろしている。同時にその周囲に新たに魔法陣が描かれる。今度こそあれの攻撃がやってくる。けれど、


「勘違いするなよ、ベスター。私は、降り注げと言ったんだ……ッ!」


 杖を振り下ろす。丁度地面を叩く形になり、断続的に続く衝撃であれば結界も耐えられるッ! 絶巓たる宙より墜ちる巨石の雨の悉くがベスターの頭上目掛け落下する。


「墜ちろッ! ドヤ顔で当たり前の様に空に座してるんじゃないッ!」


 雲の様な形状故か、彼奴の胴体の部分は巨大なエーテルの塊となっている為、ただ攻撃しても全てすり抜ける。頭に集中して攻撃を叩きこんでいるのは、生物の弱点として当たり前の部分もあるが、それよりも他に効果が無いからというのが一番。とは言え、それでも、魔法の効果は薄く見える。


 だからスターブレットだ。魔法が効かないなら物理で殴る。鉄則だ。


「いつまで異形を気取ってやがる。意地ばっか張りやがって」


 迎撃しかしなかったのはヒト相手に全力を出してもな、なんて慢心の表れだろう。少しは目は覚めたかよ、クソ神が。


 戦の神。戦いを愉悦とし生涯の意味とした戦闘狂。ヒトに願われてしまったからそこに在るだけ。存在そのものが災害だ。ある意味で似通っている。


 ようやく上を見上げた。頭を打ち付ける隕石をうざく感じたのだろう。防御態勢を取ろうとしている。魔力ではなくエーテルを固め盾とする荒業。人外のモノであるという象徴だ。あれはヒトより更に高次元の存在。私とほぼ同い年の化け物だ。


 墜ちる隕石はされど止まらない。エーテルの障壁に阻まれ砕けてもそれでも降り注ぐ。流星群。砕け散った破片は、放射状に広がった衝撃と共に散らばっている。


 物理魔法陣というモノがある。ファブナーを覆う結界も、禁書庫の結界も、教会の結界も全て物理魔法陣を以て作り上げた。何故わざわざそうする必要があったか。オーバーロードも恒久的に続く結界も全て一般的な魔法陣で事足りる。けれど、そうしなきゃいけなかったのは何故か。


「──────────意味が無いと分かっていても何故続けているのか。お前を引き摺り降ろすなら、こんな石っころじゃ足りない」


 叩き落とす為じゃなく、動けないように時間を稼ぐ為も含んでいたが、目下一番の目的は、そうじゃない。確かにこれで落とせるのなら僥倖だし、ダメージもあるだろう。けれど保険は巡らせておくものだ。


 ベスターにぶつかり砕けた破片はそのままではファブナーに降り注いでしまう。けれど、未だその気配が無いのは何故か。


 放射状に広がる衝撃は破片をも運び、その破片はそれぞれ一定の位置で停止している。それは丁度、星座が如く、ある紋様を描く。ベスターを中心に描かれたそれは、メテオが降り注ぐ度に完成に近づいていく。


「目をかっぽじって良く見やがれ、ベスターッ!」


 組み上がる術式は更なる魔法を呼ぶ。ベスターを召喚するにあたって吸い取られた上空のエーテルでは足りない。


「接続開始」


 杖を翳して呟く。同時に描かれたソレは青白く光り輝き役目を開始する。星の終わりを迎えたモノ。オーバーフローにて死んだ星であれば、潤沢に外エーテルを含んでいる。ただの石っころ。されど宙に鎮座するモノに変わりはない。


 消滅した星の、その破片。それを更に細かくしたモノを魔法陣としてそのまま転用する粗行事。近距離派の私からしたら本当に回りくどい。


 偽神とは言え、戦の神。一方的にヒトを殺すなぞしないだろう。シンジュルハにおける神とはそういうモノだ。そう書かれている以上、そうでなくてはならない。先に経典が生まれたベスターにとって経典こそが攻略の鍵となる。


 記されていない事は絶対に出来ない。記されたから出来上がったんだ。物語のキャラクターが垣根を越えて独りでに動く事が出来ないように。顕現しようが何しようが、あいつは経典に縛られる。


 構築された物理魔法陣はその効力をようやく発動させる。ガッグン、とベスターの首が揺れる。先ほどの十三砲台を避けた? だったら避けられない状況で、お前を弾にすれば良い。


「結局お前はエーテルの塊だ。だったら、弾として申し分ない」


 国に落とすのは問題がある。だから別の場所へと撃ち出す必要がある。カウンタースコープは既に備えている。歯車の様に物理魔法陣は回転し、ベスターを取り囲む。その光景は美しいとさえ感じる。ベスターが流石にまずいと判断したのか、這い出ようと魔法陣を掴む。


「弾風情が抵抗するんじゃないッ!」


 討つ為に撃つ。ひと際大きいメテオがベスターの脳天を直撃する。弾けた衝撃が空を揺らす。この異変は、各国にも伝わっているだろう。魔力災害として伝わっているか、また私の仕業であると諦観するか。斜に構えている生意気な現カルイザム王も流石に焦りを見せているかもしれない。


「──────────────ッ!」


 口上は要らない。眼前に物理魔法陣の発射の合図を送る魔法陣を形成して、杖でぶっ叩く。ガコンッ! という音でもしそうな程重々しく動くそれは、オヴィレスタフォーレへと向く。脳天をメテオが直撃したベスターはそれでも抵抗せんとする為か、口元に魔法陣を形成している。だがもう遅い。既に術式は発動してある。今更何をしようと遅いッ!


 刹那、音が消えた。巨体を撃ち出した衝撃はベスターに降り注いでいたスターブレットによる衝撃よりも大きく、オヴィレスタフォーレに撃ち出された当のベスターは、ここからでは視認が出来なくなった。


 すぐに城壁へと転移してその様子を伺う。ベスターの体に物理的なアプローチは意味が無いが、頭は木々に貫かれて尚、巨大なクレーターを地面に生み出している。とは言え斃しきれていない。私と同じ……と言えば御幣があるが、あれは斬ろうが焼こうがすぐに再生する。


 想定内だ。私が出来る事をあいつが出来ない道理は無い。違えるな、経典の範疇を越えないとは言え、あれはトンデモ内容だ。麗愛だとかそういうヒトの範疇のモノで無くなっている。物語であるからこその異常性だ。


 ベスターが顔を上げる。地に足を着けた神が私を睨む。わざわざ天に座してカッコつけてたのにそれを無駄にされたと怒っているんだろう。知るか。弾にしやすかったお前が悪い。


 ヒトのエゴで作り出されたお前が、ヒトの望むままに戦わなければならない事は分かってる。それでも──。いいや、今は……ッ!


 地上に引き摺り降ろしたんだ。第二幕? いやいや、まだ開始すら告げてないのだから、これからが第一幕。ベスターの周囲に魔法陣が形成される。その数は途中で数えるのをやめたくなる程の量。地面に引き摺り降ろしたというのに、あいつの戦い方は変わらないらしい。これじゃ、結局国を護りながら戦わなければいけない。いっそ結界内に閉じ込めたいが……。サミオイ近辺で使ったアレならば、閉じ込める事も可能だろうけど、あれは塔の一部を使ったから出来たモノだ。


 杖を横に振り翳す。生成した十の魔法陣を瞬時に起動させ魔弾をセットする。あの数に対抗する為に同じ数の魔法陣を用意するなんて無駄な事はしたくない。リソースが勿体ない。先ほどやった魔法陣の再利用。術式のリサイクル。それを一切無駄無く行えば、十で事足りる。


 ベスターが放つのに合わせこちらも合図を送る。あいつが狙うのは私だ。それ故に防ぐのは簡単だ。全て私の方に向かってくるのだから、そこに合わせるだけで良い。


 ぶつかり合って起きる小規模の爆発が連続して響く。ここまでしておいてなんだが、少しだけ草木を可哀想に思う。……いや、ヒトの命の方がきっと大事なんだ。そう決めたはずだ。


 なんとか全てを撃ち落とし、杖を構え直す。全く、これじゃ結局遠距離だ。距離を詰めよう。何、難しい事じゃない。眼前に転移するのは流石に危険すぎる為実行出来ないが、私には足がある。


 地を駆る。増強した脚力を以てすれば、この程度の距離数秒も掛からない。けれど、その認識は改めた方が良い。魔法陣を描きながら距離を詰める。でなければ、その数秒の間、ベスターなんかに猶予を与える事になってしまう。それは出来るだけ避けたい。これでも割とギリギリだ。どれだけ手数を増やそうが、相手は神と呼ばれるべく創り出された超生物だ。そんなモノに数秒でも隙を見せた瞬間、全てがおじゃんだ。


 杖を左手に、グラーヌスを右手に持ち、大きく踏み込んで右手を振り上げる。ベスターはそれを顔を上げて華麗に躱す。振り上げたままの岩石の剣をくるりと反転させ、突き刺す様に降ろす。それもひょいと避けられてしまう。こんな形でも戦の神だ。されど、杖の輝きには気付くまい。


 ソール。聖方であれば例外中の例外、光属性に分類される魔法。光を収束させて一切の容赦なく、ただぶっ放す。それはレーザーとなり敵を貫くモノだが、光に質量なぞあるはずが無い。起きえる現象として思い当たるのは光の収束により発生した熱源が焼き切っているというモノだが、しかしそれでは熱素だ。断じて光に分類されるモノではない。


 つまり、あり得ない事象だという事。熱によるモノではなく文字通り光が貫いているというあり得ない状況。魔法とは本来そう言ったものを指す。


 ベスターの頭を貫いたが、しかしそれも効果があるか……。こいつを形成しているのはエーテルだけど、核を中心に形成されているはずだ。ただ、それを露出させるには、この辺りを蒸発させる程の威力が必要になる。森が消し飛ぶ可能性がある。それは生態系を著しく変化させてしまう。そうなると、以前まで出現しなかった魔物やらが出て来て少々面倒な事になる。その対処をするのは私ではなくユメちゃん。これ以上あの子に重責を背負わせるのは可哀想だ。


 ベスターの核──神核は例えば脳天だとか、そういう場所にあるはずだ。未だ解析が済んでいない為、どこにあるかは不明だが、こうして戦いながらの解析になると流石に時間が掛かる。


 忘れてはならないのが、こいつはまだ前座という事。千年の因縁を前座に使うなぞ、粋な事をしてくれたモノだ。時間稼ぎ程度に思っているんだろう。ミーゼリオンの目的はあくまで五つ目の顕現だ。こいつは手段に過ぎない。


「…………」


 少し分かったかもしれない。ミーゼリオンが五つ目を顕現させる手段。…………こりゃハメられたかもしれない。


「仕方ない。その上で潰すしか」


 地を駆り、再生したベスターへ更に距離を詰める。形成した三つの魔法陣に待機命令を出しながら、杖に魔力を纏わせる。物質化した魔力が杖を柄として刃を形成する。淡く青色に輝く刃は、杖を鎌の形へと変える。足裏に魔力を回し、加速を促す。振り下ろした鎌は、ベスターの腕によって阻まれる。腕と言っても私の胴体よりも太い。丸太の様な腕だ、そんなモノに阻まれては流石の刃も負ける。


 ガッン! とまるで金属でも切ろうとしたみたいに甲高い音が響く。一時的に腕を物質化させたという訳だ。つくづく相性が悪い。魔法も、物理を通じにくいなんてズルだろ。

 待機させていた魔法陣を急速に回転させ術式を解放する。ストーンバレットに回転と硬質化を取り入れ魔改造を施したモノだ。それを音速の数倍の速度で撃ち出す事で、大抵の生物は消し飛び死滅する。科学的な観点から見ても、これだけの威力を防げる物質はそうそう見つからない。故に、ストーンバレットは腕へと直撃すると、バギンッ! と亀裂を迸らせる。鎌に力を込めて、ベスターの腕をそのまま切り落とさんと更に魔力も込める。エーテルを魔力で斬るというなんともおかしな状況だが、これだけやれば流石に超物質だろうが切り落とせるッ!


 ガッガンッ! と本当に金属を斬ったかのような感触と共に腕は切り落とされる。同時に、右足をベスターへと踏み込んで、振り下ろした鎌をくるりと回転させ振り上げる。鎌は本来、突いて引く事によって首を掻っ切るモノだが、こいつにそんなの通じるわけない。私の腕はそこまで長くない。


 切っ先で穿つ形になりながら、ベスターの目を目掛けた鎌はそれでも届かない。そもそも大きすぎて目を狙うにしても飛び上がる必要がある。


 戦の神ってんだから、せめてヒトの形であれよ。元はそうだろ。あらゆる武具、魔法を使いこなす武人。だから、正直少し残念にも感じている。万全のベスターであれば、きっとこれ以上無く楽しかっただろう。こんなクソみたいな気分で戦う事もなかったはずだ。


 神として崇められるモノがこんなザマとは笑っちまう。己に問い続けたその最終地点がこれだと、自分勝手に作り出され、自分勝手に作り変えられた。生贄を求める事だって、偶然と偶然が重なってしまっただけなんだろ。


 だってお前は戦いの神であって、治療とは全く関係無いし、天候とも全く関係ない。強いて言えば冥界くらいだ。どうして、聖女なんてクソみたいなモノからベスターなんてモノが生まれたのか、私もはっきり分かっていない。どこかで捻じ曲がったのだろうけど、正確な時期は分からない。


 オリちゃんから出た錆びの様なモノだとは言ったけれど、時が経ちすぎて錆びは削られ続け、元の形も変わってしまったのかもしれない。確かに色々な脚色を経て化け物に成り果てるのは、良くある話だ。


 生贄による歪んだ信仰からなる異形。畏怖の対象ではなく、単純に恐怖の対象として畏れられているんだったら、そういう事もあるだろう。けれどそれではあまりにも……。


 鎌による攻撃は届かずに空を攫う。その隙は大きく、巨体とスピードを活かしたベスターの驚異的なタックルを胴に受けてしまう。少し、息が詰まった程度。こんなの損傷には入らない。同時に首を傾げる。


「…………、どうして」


 ただ、疑問点が立ち並んでいく。長生きしても知らない事は知らないモノだと痛感させられるようで腹立たしい。

 ベスターは当初ヒトの身でカミを打ち破ったとされ、後に神格化された。ただ、強さを求めた結果であり、決してカミを恨んでいたわけではなかったはずだ。戦う事を生とし聖とした根っからの戦闘狂。故に、戦う事に理由を求めず、ただ欲求に……本能の様なモノだったんだ。あれはそういうモノなんだ。


 だから、おかしいんだ。神格化されていようが、あれはヒトの形でなければベスターではない。だがその存在強度があいつをベスターであると語っている。


「……………………………………」


 考えるのは、後だ。鎌を握り、地を突く。描かれた幾何学模様は柄の先に。神核がどこにあるかさえも分かっていない。故にばかすか魔法を撃ったとしても奇跡的に神核を打ち砕かない限り意味は無い。瘴気とも呼べる程の濃いエーテルだ。あれを払い神核を当てるなぞ、流石に厳しい。


 大きく息を吐く。描いた魔法陣から形成されるはグランビュート。ヴィレドレーナの英雄の名を冠した、属性で言うなら炎の魔法。言ってしまえばただの炎球だが、炎の温度を極限まで上げ、着弾すると同時に酸素を急激に取り込む事で爆発させる。その威力はイグニッションを凌ぐ程のモノ。


 聖方じゃ太刀打ちは出来ない。けれど、相手に隙を与えては防ぎきれるかどうか微妙だ。私は死なないが、国が死ぬ。私が防げないという事はイコールで国を覆う結界でも防げないという事。そうなると城壁も無駄だ。


 出来る事を続け、極力規模の大きい魔法は使わせないようにしながら、神核を見つけ、潰す。


 無理でしょ。


 放ったグランビュートはベスターの頭蓋を貫通し同時に内部で爆破を起こす。それも結局は意味が無く、その部分だけが空間が捻じれた様に再生する。


 瘴気が森を焦がす。枯れ木となり大木は朽ちて行く。


「神が、そんな瘴気を纏うなんて、それほどまでにお前への信仰は腐っているのか?」


 オリちゃんから出た錆びならば、それは私にとっては愛の一部だ。贄を求めたのは、お前ではなく、都合良く捻じ曲げた村人の方だろう。元より村発症の宗教は独自の文化から始まる事で歪なモノになりやすい。そこからここまで広まったのは奇跡にも等しい。四つの宗派に分かれ、五つ目に通ずモノも残した。


 代々治癒魔法を使えない者しか生まれなかった村から奇跡的に生まれた治癒魔法を使える少女。幸運と不幸と不幸と不幸と不幸と不幸が重なって出来た最悪の風習。何故? は分かっている。どうしてここまで発展してしまったのかは正直分かっていないが、起源は知っている。


 そう、全ては麗愛が招いた不幸だったんだ。身から出た錆びとは言うけれど、これも一応は私の所為という事もあるんだろう。


 捻じ曲がった信仰が対象に与える影響は計り知れない。元となるモノがあっても独自の解釈を行って、いつか原型からかけ離れたモノになっていく。聖女とシンジュルハには一見繋がりは無いように見えるが、深い所でしっかりとお手々繋いで仲良くしているんだ。


 ベスターを倒すことに意味はあるのか。これがベスター自体を潰す事に繋がるのか。繋がるさ。信仰対象がヒトなんぞに敗北するなんて、経典通りじゃない。解釈によってはまた別の何かが生まれるだろうが、ベスターよりはマシだ。犠牲と言えば聞こえは悪いが、それこそ、贄となってもらおう。


「……、神核は、必ずしも、中心にある訳じゃない。巨大化しているけれど、元はヒトと同じサイズとして語られているのだから、神核自体の大きさは大した事は無いはず……」


 だったら、それはどこにある。脳天か? 鼻か? 顎か? 獣が如き様相のどこに隠されている?


「──────────────、っ」


 やる事は決まった。ベスターは引き摺り降ろした。だから今度は、こいつを覆う瘴気にも似たエーテルを全て消し飛ばす。その為に必要な事は……。


 ベスターを中心として魔法陣が描かれていく。それは一個の巨大なモノ。その気配を察すると同時に鎌をその場で振る。杖としての使い方、魔法陣を描いて、すぐさま起動する。あれよりも初動が遅れた分、構築は迅速かつ効率良く。何より、あれを防げるだけのモノを。幸いにもここはオヴィレスタフォーレ。瘴気にやられ枯れた木もそこまで多い訳ではない。物理魔法陣にするには心もとないが、防ぐ一瞬であれば事足りるッ!


 鎌で地を突いて、周囲の生きた樹達を触媒に変換し、そのまま魔法とする。防御であれば結界が一番効率が良い。


鋼鉄の犬ウォッチドッグス飛来する鉄塊セレクティブ、被霊の王、嘘を赦されぬ枯れ木の王ライフォーギ・レンデオン愛を叫ぶ吸血鬼カプリケット滅びゆく国カルイザム愛を伝える真なる騎士アグレシオン物語に愛された少女と物語を愛した青年アリスとキャロル戦場を駆る死神ロセル古き故郷の亡霊達ネドア・プリズム非業に堕ちた狂える魔ネドア・フォーリム憧れの騎士ネドア・ルビツ、|死を顧みぬ愚かしくも愛おしいヒト《エリー》、麗しき私の愛セニオリス。これは私の存在強度、私の存在意義。そうとも、私達の冒険は奇跡に、愛に、希望に、夢に満ち満ちていた! 嗚呼、声よ、音よ、匂いよ、私が見た光景よ。これら全てが私の一部ならば、なんと素晴らしき事か。だから私は尚前に行く。キミ達に貰い受けた全ての恩を、全ての愛を友情を、絆を、今ここに繋ぎとめる為に生きている。嗚呼絶巓よ、遥か遠き私が愛した絆達よ、キミ達の冒険は、キミ達の生命いのちは祝福に満ちていた! 『今を光り輝く絆の未来を──』」


 白く塗り潰されていく。あくまで閉じ込めるのはベスターが行う攻撃のみ。こんな瞬間的な封印、ベスター自身には何の効果も望めない。封印するにはそれこそ、私の魂全てを犠牲にするくらいの覚悟が必要だ。けれど残念ながらこれでもまだやるべき事を残しているし何より、オリちゃんを残しては逝けない。


 新たな隔絶世界。その仲に強制的にぶち込んで魔法を内部で処理する──ほんの数秒の結界にはこれが限界。見栄えを棄て、強度に極振りした結界は、詳しく言えば、その存在の否定を行うモノ。誰からも認識されないのなら、存在していないのと同じ、なんて頓智みたいな事を言葉のままに実行する、現実には無いルールを適応させた隔絶世界。あの時サミオイで行ったテストはあくまでテストなんだから、多少の綻びはあった。そこをオリちゃんに見破られ破壊されたが、今回はそうもいかない。


 放たれた魔法を飲み込んだ結界はほぼ同時に消滅する。立方体の様な結界だったが、その規模を一気に縮小させていく。自浄作用だとか、そういう面倒な事があの結界に起こってるからこうなるんだけど、今回は説明は無し。未完成の魔法をドヤ顔で全部説明する程、私は落ちていない。


 倒木を足場にしながら、ベスターへ距離を詰める。眼前に魔法陣を描き、振り上げられたベスターの腕に備える。壊す事は出来なくても弾く事は出来るはずだ。これくらいならば魔力障壁で事足りるだろう。


 ベスターの腕は魔法陣に阻まれ、同時に斥力によって大きく弾かれる。スターブレットとは逆だ。


 大きく踏み込んで、鎌を振り上げながら飛び上がる。通じないのは分かっている。だから、私の腕が最高高度まで上がったと同時に魔法陣を描く。丁度、鎌を振り下ろす軌道上に描かれたそれは先ほどベスターめの腕に罅を入れたモノと同じ、ストーンバレット。振り下ろすと発動したそれは、ベスターの眼を目掛け飛んでいく。ヒュインッ! という風を斬る音は私が振り下ろした鎌からではなく、ストーンバレットの音。音速の数倍の速度で撃ち出されたそれは、最早原型を留めているのも奇跡に思う。


 丁度私がベスターの眼前に躍り出る形になる。ベスターの口元に描かれた魔法陣と、私が創り出した新たな魔法陣が混じり、奇形を生み出している。出し惜しみ無しのオーバーロードイクリプス。一から六層省略。七層開門。この角度なら、森を消し飛ばすことも無く、地面に多少のクレーターを残すだけだ。けれどその前に、


「────────ッ」


 左目に填め込んだ義眼に内臓されている魔法陣が起動される。何重にも積み重なった極小の魔法陣は、義眼から飛び出て立体的に重なっていく。魔法陣に込められた術式が重ねられた魔法陣に乱反射して、その効力を増幅させていく。オーバーロードイクリプスに使用されている第六層の効果そのものだが、その使い方一つで全く別のモノと変わる。複製、増幅、加速させ、術式自体の純度を再構築にも似た速度で展開して行く。其は封陣の魔眼。発動された魔法を壊す事は出来ても、描かれた魔法陣を掻き消す事は出来ない。それ故に封陣ではあるが実際はかなり効果が異なっている。


 魔法陣とは、魔力や魔素による術式の展開の際に発生する未得現象である。魔法を顕現させる為の途中式。なので、魔法陣には大量の情報が組み込まれている。魔法式によって魔法陣のデザインが異なるのはこの為だ。魔法陣に込める情報の質や量が異なっている為に変遷する。


 では封陣とは何か。情報を組み込み魔法を発現させるというのなら、その情報入力の速度を低下させればどうなるか────魔法陣が求める情報と術者が込める情報に差異があった場合、魔法陣は本人の意思に関係無く瓦解する。それを意図的に行うのが封陣の魔眼。私のは偽造だけれど。


 言ってしまえば強制的に魔力酔いを起こさせ、処理能力を一時的に低下させるモノだ。本来であればヒトサイズの物にしか効果は無いだろうが、先ほど言った様に複製増幅加速を行う事で義眼を触媒にしその効力を増大させれば、カミであろうと出し抜けるだろう。


 ガッシャンッ!


 ガラスが割れた様な音が響いて、ベスターの口元に展開された魔法陣が崩壊する。同時に、左目がグシャグシャに砕けてしまう。第六層を用いた場合、左目に仕込んだ義眼は、負荷に耐えきれずに一回の使用で壊れてしまう。私はこれが原因で左目を失くしている。


 急速に組み上げられていくは、私の十八番。ダウナーウィッチ、輝きの砲台、歩く災害発生装置、化け物、ヒトでなし、なんて散々言われ続けているその理由。十三基の威力じゃ足りない? そんなの百も承知。故に、展開自体は略したけれど、術式は略さない。出力十パーセント。


「今なら……ッ!」


 魔法陣を壊された事に動揺している今なら、魔力障壁を張る余裕もあるまいッ!


「砕け散れッ! 異端・月光総射……ッ!」


 杖が送った合図と同時に高速に回転を初めた七層目が咆哮を上げる。それは光の弾から発射される、レーザーの様なモノ。一直線に真っ直ぐ躱しようの無い至近距離から放たれる絶技。神を斃すにはきっとこれでも足りないのだろう。


「けれど、瘴気を吹き飛ばすには十分でしょッ!」


 不意を突かれたような形になったベスターに防ぐ手段は残されていない。直撃すると同時に、周囲のエーテルは弾かれ、からっからの状態へと早変わり。押し出されたエーテル同士が反応し合って、青く瞬く結晶へと変わり────音と彩が消えた。


 まさしく、ドッカァァァアンッ! という擬音が似合う爆発だった。一瞬見せたエーテルの反応には驚いたが、結果は変わらない。瘴気にも近いエーテルと外エーテルとで反応した結果だろう。


「──────────────」


 自分でやっておいて後悔。これじゃ服が汚れてしまう。スカートを片手で叩きながら、砂埃やらなんやらを払う。魔力でコーティングしているとは言え、まぁ、これでも一応乙女を自称してるんだよ。


「全く、なんて魔力量してやがる」


 野太い声が爆心地から聞こえる。


「っは、あんたがそれを言うの? 神様でしょ」


 猛々しき男がそこに居る。


「本来であれば、我が姿を拝謁する事さえも赦さぬが、今宵は特別だ。篤と見よ」


「そりゃどうも」


「吾輩は嬉しく思う。久しく見ぬ強き者。神として崇められたこの吾輩を魔法で圧倒するとは恐れ入ったッ!」


 はっはっはっ! と男は天高く笑う。ベスター本来の姿はこんなものだ。結局神とは言えヒトが生み出した存在。物語として語られる者であれば、その程度。されど、


「あんたに、引く気はある?」


「何を言う。こうも愉しい戦いは久しい。こうして顕現する事も少なき世だ。存分に味合わせてもらうぞ」


 これだから嫌いなんだ。ベスターという男は戦いの神だ。戦いであればどんな事であろうと脇眼を振らず熱中しやがる。例えそれが拳を交り合わせる事の無いトランプ勝負だろうと。戦いであればこいつは食いつく。


「絶好調、という訳でもないんだろ、娘」


「娘って……私はあんたより年上だよ」


「それは失礼した。レディ。同時に感謝申し上げる」


 調子が狂う。益荒男が如き猛々しく雄々しき戦の神。そんなのを相手に戦うのだから、正直覚悟はしていた。最終的に私はこいつが満足いくまで戦う事になるだろう。


「それに聴いたぞ。貴殿は、吾輩を殺すのであろう?」


「あぁ、そうだった」


 殺すんだった。面倒事はここで全て祓う。


「憑き物は落ちたかい?」


「フハハハハッ! 応ともさ。吾輩、こうも晴れ晴れしい気分は座位戦争でも味わう事の出来なかった故、感動しているッ!」


 益荒男が腰に手を当て空を見上げる。うわ、本当に涙が流れてる。


「ヒトの身で吾輩に対抗するとは、見上げた根性だと思ったが、そうか。面白い。面白いぞッ!」


「視えるのか。だからどうしたって話だけど」


 溜息を吐く。


「吾輩は愉しい。先ほどの戦い、実に胸躍るモノであった。貴殿もそうだろう。自覚しておらぬようだが、口元が緩んでいる」


「そう? そうかもね」


「ヌヮハハハハッ! ならば、続きと行こう」


 相手は肩こりが取れて絶好調って感じだ。出し惜しみはしないだろう。戦の神、偽物の神。本来であれば、こういうモノだったはずなんだ。


「吾輩魔法は不得意故、先は後手に回ったが今度はそうもいかぬぞ」


 益荒男が不敵に笑う。


「あぁ、なら、更に出力を上げよう」


 超近距離白兵戦特化魔法の真髄を見せよう。枯れた樹の枝がぽろりと落ちる、を合図に地を駆け──────。

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