2024.05.04 本は、わくわくする

 先週、息子が言って、嬉しかった言葉がある。


「本って、わくわくするよね」


 息子は、字を書くのが得意ではない。読むのもたどたどしく、得意ではない。音読の宿題なども苦手だった。

 少しは対策しなければ、と思いながら、優先事項第一は「楽しい」にしたいと思っていて、息子に余裕がないときは、宿題を自分のペースでできるところまですれば良い、「勉強としてはあまり進まなくていいから、学校が楽しいと思えることを優先で」という要望を支援級に出していた。(もちろん少し余裕が出てくれば「もう少し、お勉強のほうも……」なんて私も言い出すのだが、本人のキャパを越えると、楽しい、のレベルまで引き下げる)


 本も、できれば自分で本を読むようになって欲しいな、と思ってはいたが、好きなこと以外には集中しにくい子なので、そこは「楽しいと思える程度」ということで、読書は読み聞かせが主で、たまに自分でたどたどしく興味のある所を読んでいるのを見ると、「お、めずらしい。ラッキー」と思うぐらいだった。


 4月に行ったブックオフで、明らかに息子の好きそうな図鑑を見つけたので、数冊買って読み聞かせをしたところ、IPAD終了の時間後、体力があるときに「本、読もうよ!」と息子から誘ってくるようになった。


 しばらくして、

「本ってわくわくするよね」

 という言葉が。


 私の側に体力が残っていない事がわかると、たどたどしく、新しいページも自分で読んでいる。


 最近、核について軽く流すジョーク動画を観ていた為、ゴールデンウィークは戦争についてわかりやすい絵本を、と重い内容の絵本を図書館で借りてきていた。

 受け止めてはほしいけれど、そのまま寝ると多分メンタルに来すぎてしまうから、辛い絵本のあと、心を癒す絵本も読もうね、と言ったら、自分で「癒される絵本」を選んでくれた。「もやしもん」の菌のオリゼーが出てくる幼児用の絵本。


 そして、しばらく経ってから、自分から「もやしもん」の絵本を読む姿も見た。


 無理に読み書きの練習をさせすぎなくて良かったかもしれない、と思い始めた。だって、読書って、本来楽しいものだから。楽しいから、興味があるから、役にたつから、知りたいから、伝えたいから読み書きするので、「読み書きできること」自体がゴールじゃないし、目的でもない。

 本人に「読み書き」という道具が使いにくいのなら、他の道具で目的を果たせばいい。動画でも、読み聞かせサービスがあれば、それでもいい。


 でも、文字を読んで、楽しいと思えるようになれば、世界が変わる。


 音を出して動画を観なくても、文字だけで楽しめるようになる。「音を出してはいけません。静かに過ごしてください」という場所でも、病院の中や飛行機の中、入院中、例えば避難所なんかでも。音を出さなくてもいられる楽しい世界を一つ持てる。


「本ってわくわくするよね」


 その言葉が出てきたことが、心底嬉しい。

 それがわかれば、少しだけ「読んでみるか」と思えるから。

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