カレーを混ぜるか混ぜないか

尾手メシ

第1話

「カレーは旨い。まあ、当たり前だよな。カレーを嫌いな奴なんてこの世にいない。いないよな?お前だって好きだろ、カレー。えっ、まさか嫌いとか言わないよな?」

 手に持ったスプーンで指されて、慌てて首を横に振った。

「そうだろう。なんせカレーだからな。もしカレーが嫌いなんて奴がいたら、そいつは人間じゃない」

 答えに満足したのか、男が頷く。

 皿の左側に盛ってある米の山から少し崩し、右側のカレーの海からルーを掬ってそこに掛けた。それを口に運んで目を細める。

「ただな、カレーが旨いからって、どんな食い方をしてもいいってわけじゃない。カレーを混ぜるか混ぜないか。俺に言わせりゃ、カレーを混ぜるなんてあり得ない。米とルーをぐちゃぐちゃに混ぜて食べるなんて、まるでなっちゃいない」

 まるで指揮棒でも振るように、スプーンを左右に振る。男はますます饒舌になる。

「分かるか?何事にも通すべき筋ってもんがある。いいか、カレーは米とルーをわざわざ分けて出してきてるんだから、これは分けて食うべきだ。それをお前、米とルーをぐちゃぐちゃに混ぜちまったら、わけが分からねぇじゃねぇか。これじゃ筋が通らねぇ。分かるか?これは何もカレーに限ったことじゃない。いいか、何事にも通すべき筋ってもんがある。なあ、分かるよな?」

 男の声が一段低くなった。纏っていた陽気さが鳴りを潜め、その本質である獣性が牙を剥く。顔面がぐちゃぐちゃになっている仲間が視界に入る。恐ろしくて、必死に首を縦に振る。

「ただな、俺もそこまで小さい男じゃない。カレーをどうしても混ぜたいってんなら、まあ、そこは選択の自由ってやつよ。だからな、お前にも選ばせてやろうってわけよ。分けるのか、ぐちゃぐちゃか。どうした、涙なんか流して?そうかそうか、泣くほど嬉しいか。さあ、遠慮せず好きな方を選べ」

 左右に狂気が控えている。第三の選択肢はない。

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