図書館併設の本屋は、積まれた本に悩まされる

夕闇 夜桜

図書館併設の本屋は、積まれた本に悩まされる


 とある世界にある、アルテナ国。

 そんなアルテナ国には、とある図書館併設の本屋があった。

 王都の一角にあるそれ・・は、国内の様々な本や書物を収蔵しているとされる王城図書館の蔵書量を遥かに越え、国土が世界一ともされる国ですら得ることの出来なかったとされるものまで所蔵していることから、『人生で一度は行ってみたい場所』の一つとして選ばれることもあったのだが、そんな図書館併設の本屋こと【ルヴィエール図書店】は、一・二階を購入可能な本屋とし、三階から五階を貸し出しオンリーの図書館としている。


「この本にするー」

「確かこっちに……」

「ちょっ、あいつどこ行った!?」


 ――とまあ、相変わらず騒がしいながらも、庶民から貴族や王族。さらに、エルフやドワーフといった種族など、本日も利用者や目的等は様々である。


 ――ルヴィエール図書店、一階・本屋。


「うわぁ……」

「これは……」


 ここのバックヤードで、店員たちが集まっては困惑していた。

 目の前には積み上げられた本、本、本と、本の山があった。

 中には『シリーズものか?』と思わせられるような本もあり、おそらくそれがこの大量の本の原因の一翼なんだろうが……


「これ、人手いりますよね。司書たちも呼びますか?」


 店員の一人が尋ねるが、先輩店員の一人は首を横に振る。


「それは出来ないの。図書館側も問題が起きてるみたいで、その対処に追われてるみたいだから、こっちのことはこっちで対処するしかないわね」


 「これを、今いるメンバーで……?」とも思わなくはないが、ジャンル別にするぐらいなら可能そうにも思えてくる。


「一応確認しますが、この本たちは、うちが買い取ったんですよね?」

「そうね。きちんと査定して買い取ったから、問題ないと思うけど……」


 だから確認して、売れそうなものは中古本として本棚に並べるつもりのようなので、よっぽど怪しかったり、変な魔法や魔術が仕掛けられていない限りは問題ないだろう。


「それに、最悪何かあったら、店長が動くだろうしね」

「……」


 店長が度々、自分たちのために暗躍じみたことをしているのは知っている。

 だから、店長が動くということは、そういうこと・・・・・・なのだと、暗黙の了解として認識はしていた。しているのだが――


 ――あの人は、何者なのだろうか。


 店長兼館長、ライブラ。

 ルヴィエール内の様子を見ながら、自室兼執務室で仕事をこなす、ルヴィエール図書店の最高責任者。

 それ以外のことを、果たしてルヴィエール図書店で働く店員や司書たちの中で、知るの者は居るのだろうか。


「それじゃ、さっさと確認して、仕分けましょうか」


 そんな先輩店員の言葉に、面々は頷くと、近くの本から手を付け始めるのだった。


   ☆★☆


 ――ルヴィエール図書店、三階・図書館。


「またド派手にやってくれたよなぁ」


 ルヴィエール図書店・図書館勤務である司書組の目の前には、雑に積まれた魔導書の山があった。

 夜勤組から朝昼組にシフトが移行する際、最後の見回りをしていた夜勤組の一人が、雑に積まれた魔導書の山を見つけたのだ。


「最悪……」


 何故、こんなときに見つけてしまったのだろうか。

 ようやく帰って寝れると思いきや、こんなのを見かけたお陰で、明らかに人手として貸し出されそうだと、見つけた司書は内心がっくりしていた。

 しかも、貴重な魔導書を雑に扱われたと、一部の魔導師や魔術師が怒りを見せ、犯人探しに乗り出そうとしており、同僚たちとともに彼らを止めるのも大変だった。


「で、どうする?」

「どうするもこうするも、このままにするわけにはいかないから、少しずつ片付けていくしかないだろうね。ページが折れ曲がったものに関しては、伸ばしていくしかないだろうし」


 正直なところ、本屋側に応援を頼みたいところだが、あちらもあちらで大量の本に追われているらしく、頼んだとしても時間が掛かることだろう。

 ちなみに、本屋側の状況を知る者が見比べた場合、明らかに厄介なのは図書館側なのだが、そんなことを知る者がこの場にいるはずもなく。


「とりあえず、他のと一緒にしたらマズい本は、見つけ次第、退避な」

「りょーかーい」


 こうして、現場を立ち入り禁止にした上で、司書組も作業に取り掛かるのだった。

 そして、もちろん夜勤組も最初の数分だけは駆り出されることになるのだった。


   ☆★☆   


「おい、マジで誰だよ、こんなことしたの!!」


 それは、図書館組で今回の件で、司令塔的な役割を担っている司書の声だった。

 彼にしては珍しい、どこかキレたとも取れる声に、作業していた面々が目を向ける。


「何かありました?」

「見ろ」


 そう言って、近くから確認した司書に見せられたのは、雑に積まれた魔導書たちよりも、さらに悲惨な姿となって現れた数冊の魔導書。


「うわ、これは酷い」

「何ですか?」

「簡単に言えば、水に浸された本ですよ」


 それだけで司令塔的な司書の声の意味も、魔導書の有り様も伝わったのだろう、司書たちが顔をしかめる。


「魔導書的に大丈夫なやつですか?」

「発動した痕跡は無いっぽいから、無事と言えば無事だし、無事じゃないと言えば無事じゃないな」


 少なくとも、発動云々については無事だが、本としては無事ではない。

 一部、ぐちゃぐちゃな状態で、何が書いてあるのか分からなくなってしまった魔導書については、館長に報告しなければならない。


 ルヴィエール図書店は、飲食物の持ち込みが可能となっているので、それに乗じて持ち込まれたものによるのか、それとも水属性の使い手によるものなのかは分からないが、このままでは飲食物の持ち込みが禁止となってしまう。

 そもそも、飲食物の持ち込みが可能なのは、図書館に入り浸りな魔導師や魔術師の食事面などを気遣ってのことなのだが、こんなにはっきりと目に見える形にされては、これからは持ち込み不可に切り換えなければならなくなってくる。


「さすがに、乾かすにも無理がありますね」


 冊数だけなら少ない方だが、よりにもよって、水浸しになったであろう魔導書はページ数が多いものばかり。

 つまり、いくつかページ同士がくっついているものが多々あるため、乾かしたところで剥がせなかった場所はずっとそのままとなる。

 修繕している司書といえど、さすがに書かれた内容までは修繕できない。


「とりあえず、乾燥系の魔法や魔術を使えるやつを呼べるだけ呼んでこい。そいつらにも頼まないと、今日は終われないと思っておけ」


 そんな司令塔的な司書の言葉に、他の司書たちはぎょっとしながらも、言いたいことは理解しているので返事をするしかなかった。


   ☆★☆   


「あの~」


 どれだけ経ったのだろうか。

 未だに作業中な図書館組の前に、申し訳なさそうな声とともに、一人の店員が姿を見せる。


「あれ、ルールーじゃん」

「えっと、こっちの作業が終わったので、ここの様子と人手の確認に来ました」


 ルールーと呼ばれた店員が、図書館側に来た理由を告げる。


「通信機使えよ……」

「使ったんですが、繋がらなかったので」


 だから、直接来たのだと、ルールーは告げる。

 ルールーとしても、『出ないのは作業中だから』と判断して、なるべく邪魔にならないように、と二度も掛けるようなことはしなかった。


「あー、それは悪い。で、そっちからどれだけ割ける?」

「まだお客さんもいるので、三人までですね」


 妥協してもしなくても、割ける人手は最大でも最低でも三人まで。


「まあ、それでもいい。無いよりはマシだ」


 司令塔的な司書がそう告げる。

 けれど、確かに今は少しでも人手が欲しそうだ、とルールーは魔導書の山を見て、そう思う。


 ――これでも仕分けてはいるんだろうけど、この量だしなぁ。


 ジャンルや種類ごとには分けてありそうだが、近くの机にまとめて置いたりしているためか、結局混ざりあった結果、ある意味ごちゃごちゃな状態となってしまっている。


 ――大体の分類の場所は把握してるからいいけど……


 まだ見習いの時に、人員配置の参考にするためなのか、本屋と図書館どちらの仕事も経験しているので、大体の分類位置は覚えている。


「とりあえず、手伝うね……」


 店員側に通信機で要請し終えれば、ルールーは近くの魔導書から手を付けていくのであった。


   ☆★☆   


「あらあらあら。これは、かなり面倒くさい状況になってるなぁ」


 ルヴィエール図書店内の様子に、ライブラは呟く。

 本屋側も図書館側も。今回は本でてんやわんやしていた。


「本屋はともかく、さすがに図書館側はやりすぎだねぇ」


 本屋にしろ、図書館にしろ。どちらか――もしくは、どちらにも恨みがあるものか。

 それとも、魔導書を持ち出すためのカモフラージュが目的か。


「どちらにしろ、魔導書をあんな扱い方するのは、魔導師や魔術師であった場合は許せないかな」


 いや、魔導師や魔術師で無かった場合だったとしても許すつもりはないが、もし魔導師や魔術師であったら、無造作に積み上げられた魔導書たちの価値を無視したことになる。


 ライブラは未だに頑張っている司書たちに目を向ける。

 司書たちだけではない。周囲で様子を見守る魔導師や魔術師たちにも、だ。


「さて、ボクのやるべきことも一段落したし、手伝いにいきますかね」


 そうして、珍しく姿を見せ、図書館組に加わって、魔導書の片付けを手伝ったライブラだが、あまりにも珍しかったのか、ルヴィエール図書店内では、少しの間、その話で持ちきりになるのだった。


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