惰性の恋

九重ツクモ

第1話


「もう別れようよ」


 昼下がりのカフェ。

 今日は4限で終わりの彼氏を引っ張って、駅前の適当な店に入った。


 こいつとはもう5年付き合ってる。

 驚くことに、高校2年の頃からずっと。

 あの頃はラブラブだったから、無邪気に「同じ大学に行く! ずっと一緒だよ♡」なんて言ってた。

 偏差値的にはもっと上に行けたのに。

 それが全ての間違いだ。


 だんだん恋愛の熱も冷めてきて、最近じゃデートだってろくにしてない。

 私が彼の一人暮らしの家に行って、ずっとダラダラしてるだけ。

 適当にゲームしてサブスクのドラマ見てご飯食べてたまにエッチして寝る。

 それだけ。

 正直何も楽しくない。

 まさに惰性の関係だ。


 赤い糸で結ばれた運命の相手だと信じてきたけど、今は全くそうは思えない。


 いい加減、こんな関係にも飽き飽きしてきた。

 こいつがいなければ、もっと素敵な彼氏が出来るかもしれないのに。


 最近、サークルの後輩からアプローチをかけられてる。

 結構イケメンだし、優しいし、私を好きだって気持ちが伝わってくる。

 はっきり言って今の彼氏よりずっと良い。


 こいつがいなければ、あの後輩と付き合える。

 こいつはただの邪魔者でしかない。

 だからもう、お終い。



「なんで? 俺のこと飽きちゃった? 俺はずっとお前のこと好きだけど」


 キョトンとした顔で、何でもないことのようにアイスティーを口にしながら言う。

 本当腹立つ。本当に、もう……。


「私も、好きだけど……」

「ならいいじゃん、別れなくて」


 ズゾゾゾ。


 もうこの話はおしまいだとでも言うように、彼氏はストローを咥えてアイスティーをすすった。



 別れ話をするのは、実はもうこれで4回目。

 その度に、彼の「俺は好きだよ」という言葉に絆されて、結局別れられないでいる。


 私たちを繋ぐ赤い糸は、ぐちゃぐちゃにもつれて解けなくなっているのかもしれない。

 そうとしか思えないくらい、私は何故だか、彼と離れることが出来ないのだ。

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惰性の恋 九重ツクモ @9stack_99

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