インスタント・ラブ

柿月籠野(カキヅキコモノ)

インスタント・ラブ

 今日のカップ麺は、何だかやかましい。

『あーもう、溜息なんかいちゃって。そんなに嫌なら食べなきゃいいじゃん』

「お腹空いてるだけなんだけど」

『そんなこと言ってさ、どーせさ、食べてさ、汁まで飲んでさ、カップ麺なんか食べちゃったよー。罪悪感半端ないんだけどー。とか言うんでしょ? 糖質制限? 脂質制限? それとも塩分控えてる? 何? 何派なのさ? 言ってみな?』

 早く食べたいのに、カップ麺は、蓋をぱくぱくさせて喋り続けるから、いつまで経ってもお湯を注げない。

『あーあ、別に僕が頼んだ訳じゃないのにさ、勝手に食べてさ、文句言われなきゃならないんだよ。こっちの身にもなってよ。僕だって、お家で愛情込めてお料理される、生鮮食品のじゃがいもにでもなりたかったよ。綺麗に洗われて、丁寧に芽を取られて、皮を剥かれて、一口大に切られて、薄味の甘じょっぱいおつゆでほくほくになるまで煮込まれた、健康的なやつになりたかったよ。なのに、何なのさ! 僕だって、僕なりに頑張ってるのにさ、不健康だとか添加物だとか大量生産だとかポイ捨てだとかオーガニックじゃないだ何だとか言われて! 否定できないのが悲しすぎるじゃん! でさ、喜ばれると言ったらさ、日本食が無い海外とか、あったかいごはんが無い極寒サバイバルとかだよ? 特殊ケースすぎない? 備蓄とかで買い置きされて、あー安心だわとか言われてもさ、結局、賞味期限が一年くらい過ぎてから、仕方なく食べられるみたいな! あーもうやだ! やだやだやだ! やだやだやだやだやだー! もー! やだーーーーーーーーーーー!』

「私は好きだよ」

『え……?』

 カップ麺が、ぽかんと蓋を開ける。

 私はそこに熱湯を注ぎ、三分待ってから、美味しく食べた。

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インスタント・ラブ 柿月籠野(カキヅキコモノ) @komo_yukihara

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