第6話 連絡

〈1854年7月1日〉

【根本うい】

朝だ。

てるちゃんがお登勢さんと間違えて私に抱き着いている。

甚三郎さんはもう起きているみたいで、

井戸水で水行してるのか、『ひゃっ!』という悲鳴が聞こえる。

お登勢さんがいた布団ももぬけの殻どころか、きれいに収納されている。



「いただきます!」


皆で声をそろえ、朝ごはん、もとい朝餉をいただく。

お登勢さんが粟や冷えを焚いていたので興味はあったが、

今日、走ってくれる甚三郎さんのスタミナを考慮して、

お惣菜のおにぎりを追加で出した。

『昔の人はおなか強いんだから、一晩ぐらい大丈夫!私も食べるし!!』

と道連れの覚悟を決める。

まぁ、変なにおいはしないし、味見しても大丈夫だったからね!

中身が梅干しの奴なら、なお大丈夫!…なはず。


「ほいじゃ、行ってくる!」


「時間がかかるようですので、先ほどのこれを。」


と、走り出す甚三郎さんに声をかけておにぎりをいくつか手渡す。


「ありがとうごぜぇやす!」


「…ったく、どっちが女房だかわからんね!

 急いで帰ってこなきゃ、こっちは張り手が待ってるよ!!」


「おぉっ!こえぇ!

 怖いから、急いで帰らにゃな!

 てる、いい子で待っとけよっ!」


「うん!」

…、なんかまた惚気られたような気がする…。



【???】

緊急の符丁を確認し、奴のところへ来た。

奴が家を出て一時し、周りに人がまばらになったのを確認して声をかける。


「…どうした。何か起こったか?」

顔をちらりと除くと、こやつらしくなく難しい顔をしている。


「俺じゃぁ判断できない案件が起きました。

 幕府・藩主様に通す前に評議にかけたい。」


「わかった。いつまでだ?」


「遅くとも今晩だ。」


「今晩っ!?それはいくら何でも…。」


評議を開くにしても全員集めるのは無理だろう。

それでも『かき集めろ』と言ってくるということは、

それほど難しい案件か。


「…難しいのは承知の上。

 とはいえ諮らずに進めるのも難しい案件です。

 最悪推し通る必要もあるかと覚悟しております!」


「…。わかった。できる限り集めよう。」

奴のそばを離れ、長老、評議会の人員を集めに行く。




【根本うい】

うん。

想像してたけど、子供の食糧事情は良くないみたい。

特に収穫の狭間にあるこの時期は。

ガリガリにやせ細ってる子供の見るのは忍びない。

食べ物が必要だ!


「てるちゃん、ちょっとお山に行ってくる!」


「へっ!?ダメだってお父さんがっ…!」

あらまぁ、親子して心配してくれるんだねぇ…。


「まぁまぁ、2時間…、っと、1刻経って戻んなかったらお母さんに言って!

 大丈夫だって!ね!

 おねぇちゃん凄いんだぞ!?」


「でも…」


「これでも?…ねっ?」

ショムニーを目の前で出し、乗り込む。


「????」


「まぁ、すぐに帰ってくるから、それまでは内緒だよっ!?」

人差し指を立て片目を閉じながら、てるちゃんに約束を求める。


「う、うん…。」


「いってくるねっ!」

アクセルを踏んで我が家に向かう!



【甚三郎】

庄屋の前には着いた…。

しかし、こヤツに知らせるべきか…。


この地は、そこまで裕福ではない。

そもそも畑にできる土地が少ないのだ。。

我らの仕事は幕府しか知らぬとはいえ、

素波・乱破として働いている『伊賀者』への徴税も一人前だ。


こヤツ…、ここの庄屋は、決して悪人ではなく、

先祖代々続いてきたのであろうことはわかるが…。


黒船に喚き立てるのみで、矢銭の拠出を拒んでおる。

藩主の藤堂高猷とうどう たかゆき公のように、

砲台を築くなり、何かしら動けばわかるのだが…。


亜米利加どころか、幕府や藩主様の非難をしておいて…。

あろうことか砲台を築かれている藩主様を非難して、筋も違えておる始末。

本当にお忙しい御仁だ。

仕舞にゃぁたか殿に頭が上がらんとは、どこにも回る首を持っておらんようだしのぉ。

まぁ、最悪たか殿経由なら動いてくれそうではあるが…。


こヤツに伝えてもうい殿を守り切れまい。

動き出す前に変な噂がたっても困る。

とりあえずこの者へは門番辺りに必要なことだけ伝えてさっさと済ませて、

評議の場へ行こう。

その後藩主様に伝えることになろうが、

こヤツへの詳しい説明は後でもよかろう。

時間も押しておる。

まずは評議に急がねば。

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