【KAC20233_お題『ぐちゃぐちゃ』】本屋かと思ったらぐちゃぐちゃな何かだった件

鈴木空論

【KAC20233_お題『ぐちゃぐちゃ』】本屋かと思ったらぐちゃぐちゃな何かだった件

※この小説は KAC2023 のお題を元にした連作短編の第三話です。

 宜しければ第一話からご覧下さい。


 ※ ※ ※ ※ ※





「……ここが問題の空き地ね」

「ええ、そのはずですが……」


 カクはヨミに連れられて再び本屋の跡地へやって来た。

 見たところ、やはり何の変哲もないただの空き地。特におかしなところは無いよう無思えた。

 だが、ヨミは険しい表情でじっと空き地を見つめていた。


「何かあるんですか?」


 カクは尋ねた。

 するとヨミは背負っていた小さなリュックを下ろすとサイドポケットから何かを取り出してカクに差し出した。

 それは装飾も文字も何も無い、白地の御守りだった。


「これは?」

「この御守りを持っていればあなたでもこいつを認識できるようになるわ。相手の姿を見たいなら受け取って。……ただし覚悟してね。初めて見る呪いがこいつじゃ心臓が止まるほど驚くことになると思うから」


 そう言われてカクは少し躊躇った。

 だが、わざわざここまでやって来たのだ。

 自分を苦しめた存在がどんな奴なのか見届けてやりたい。

 カクは御守りを受け取った。


 その途端、「ウオオォォ……」という低い唸り声がカクの耳に入った。

 カクはギョッとして声の方向――空地へ目をやった。


 そこにはぐちゃぐちゃな何かがいた。

 輪郭ははっきりとはわからない。生理的な嫌悪感を抱かせる、ドロドロとした黒い巨大な塊。

 それが空き地に張りついて蠢き、唸り声を上げていた。

 目などは無いはずだがこちらにじっと視線を向けているのが感じられる。

 あまりの光景にカクは声を上げる事もできず、ただ息を飲んだ。


「大丈夫よ。この手の呪いは近付かなければ何の危険も無いわ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。逆に言うと近寄ったらかなりまずい。……ここまで大きくなっているという事は、あなた以外にも既に犠牲者を出していると考えて間違いないわ。今日は様子見だけのつもりだったけど、これ以上放っておけないし除霊しちゃいましょうか」


 ヨミはそう言ってリュックを開けた。

 するとリュックの中から勢いよく何かが飛び出した。

 それはぬいぐるみだった。

 虎、像、キリン、犬、猫、熊……無数のぬいぐるみが宙に浮かんでいる。

 ただしこのぬいぐるみたちも黒い塊と同じように普通の人間には見えないらしい。空き地を見つめるカクとヨミの背後では通行人や自動車などが平然と通り過ぎていく。

 日常と非日常の狭間に立っているような奇妙な感覚だった。


 ぬいぐるみたちは空中を無軌道に飛び回っていたが、やがて黒い塊を取り囲むように円形に並んだ。

 そして、踊り出した。

 踊り方はバラバラでまるで統一感が無い。そもそも踊りにすらなっていない滅無苦茶な動きをしている奴もいる。

 だがそうしているうちに黒い塊は次第に縮んでいった。苦しそうな呻き声を発しながらどんどん小さくなっていき――最後にはパチンと弾けて消えてしまった。

 黒い塊が消滅すると、ぬいぐるみたちは吸い込まれるようにリュックの中へ戻っていく。

 最後の一匹がリュックに入るとヨミはファスナーを閉め、ニコリと笑った。


「終わったわ。帰りましょうか」


 ヨミはさっさと歩いて行ってしまう。


「……こんなあっさり済むもんなのか」


 何が何だかわからないうちに終わってしまったが、これで除霊は完了したらしい。

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