第07話 お月様だけが知っている


 帝国には複数の軍閥がある。


帝王直属の近衛軍。

首都守護や王族の近辺警護が任務の守護軍。

領地内の警邏が任務の警邏軍。

各貴族の領地を守護する自警軍。


今は、休戦状況なので解体・縮小している軍もある。

軍を維持するだけで金がかかるからだ。


王城内には、複数の兵舎があり訓練場も複数併設してある。



 いままでは、エスケープしていた剣術の訓練。

兵士達が訓練している訓練場の一つ。

貴族やお偉方々が座る際の見学席に、いつもいないはずの第二王子が座っている。

何やら目元に宝飾品を付けて、じーっと眺めている。


やおらスタスタと兵達の中を、一人に向かい歩いていく。


「おい、貴様、その技を教えろ。」


訓練場の中で最上位の偉い隊長ではなく、この中で一番強い副隊長に。


「ああん?」


………。


「こうか?」

強面の副隊長とやらに、横柄に確認を取る。

渋面を抑えきれてないが、説明してきた。


「ああ、ええそうです。あとは何度も反復訓練すればいけるはずだ、です。」

「なるほど。」

「でも、それだけじゃダメだ、です。」

「なにがだ。」

「基礎訓練は大事だ、です。素振りや走り込みをして力をつけ、基本があって…」

「あー、わかった。」


食い気味に被せて手を上げ、スタスタと第二王子は訓練場を出ていった。


「…」

「副隊長!なんなんすか、あれ。馬鹿にしてるんすかね。」

「しらん。」


 それから日をあけず毎日の様に、第二王子はやってきた。

なぜか的確に、刺突のうまい者や連携のうまい者などに話しかける。

そして、彼らに技などを聞き出すのを繰り返していた。


王族に逆らう事もできず、素直に教えて第二王子にはお帰り頂いていた。

離宮内に賊が入った可能性があり、いろいろと忙しいのである。



 北方離宮。

夜にもなれば、王城内とはいえ離宮の門戸は閉じられる。

メイドも最低限の人数を残し、寝静まってあたりはシーンとしていた。


「こうして、こう!」

「ここで、ふん!」


適当にしては、かなり手の込んだ手製の自作木刀を振り回す。

木刀の周りはキラキラと氷が重く纏っている。


「ふん、ふん、ふん!ふん、ふん、とうっ!」

「ぷは、ぶひー、あつー。」

「アイス・ミスト」


 すごいの一言だ、吸収力が半端ない。

もともと身体のポテンシャルが高いのだろう。

さすが、サブストーリー内での最強の敵キャラだけの事はある。

自画自賛。俺スゲー、剣術スゲーわ。


開いた木窓から、月明かりが照らすだけの部屋で声が漏れる。


「あああー涼しっ。」



 一つの訓練場での出来事。

ひと月もすると、第二王子は兵士達に聞いて来ることもなくなった。

飽きたのか、見学席でじーっと訓練を見ている。

一度、隊長が挨拶伺いにいったが。手を振られただけで言葉なく無視された。

その後数日たつと、とうとう第二王子は顔を見せなくなった。


特に誰かが、残念がっているわけではない。

煩わしかっただけだ。

もともと、誰も第二王子に期待していないからだろう。


そして、第二王子の一時の気まぐれと忘れ去られる。

日常に埋もれていく。



 表では、傲慢に怠惰に。


「はあ、はあ、はあ。」

「…アイス・ミスト」

「ふう。」


これで、ステータス的に一般兵士レベルなのか。

室内での訓練は、やはり無理がでてきた。

王族の部屋だから広いことは広いが、本格的に訓練したい。

魔法もいろいろ試したいのに、見回りが多いのだ。


 しかし、さすが若いわ。

動いた分だけ痩せる。

ちょっと、スッとしてきている。

もちろん食事は適量にした。食卓の1割しかない肉以外の料理も食べている。

育ち盛りだからね、無理なダイエットはダメ。


ビタミン多め、健康大事。

歯磨きもっと大切。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る