第4話 塔と迷宮

スキルを選び終え、俺は自分のステータスを眺める。


_________________________________________


中村唯斗 ▼ショップを開く

EXP 0/100

所持金 0G

スキル

魔法

危機感知

恐怖緩和


視聴人数 ▼コメントを開く

15317人

_________________________________________


「……なんか、視聴者多くね?最初の100倍じゃないか」


そういえば、コメントでニュースに採り上げられていたとか言ってたな。その影響でこれを見に来た人がいるみたいだ。どうせそれも一過性のものだろう。こんな、なんの面白みもない人間の現実とかけ離れた生活を見るもの好きが多いはずがない。


そうだ。これだけ視聴者がいるなら、外のことについて詳しく知れるかもしれない。少し、聞いてみようか。


「なあ、ニュースで俺ってどんな風に扱われてるんだ?」



・八王子に現れた塔にたった一人拉致された可哀想な少年

・だいたいそう

・塔の前に今、人がめっちゃ居るらしいぜ

・お前、有名人じゃん

・少年としか報道されてないけどな


「八王子?塔?待て待て、聞きたいことが山ほどある」


どうやら八王子に異変が起きたそうだ。ちょうど俺の配信が開始される直前、巨大な塔が現れたらしい。それは天まで高く昇り、大気圏辺りまで伸びているのだそう。


「は?俺、ここから本当に出られるのか?」


その塔には窓や入口と思しきものも無く、最初は謎の柱として報道されていたそうだ。しかし、俺の配信が始まってから、あの老紳士が俺のいる場所が迷宮だと言った。俺の配信が始まった時刻と、塔が出現した時刻から、この塔がその迷宮である可能性は高いのだそう。まあ、十中八九そうだろうな。


俺の視聴者は未だにうなぎ登りだ。先程1万5000人だったのが、今では十万人を超えている。おそらく、俺が本格的に迷宮探索をしようとしているところなので注目が集まっているのだろう。


「そうか、みんな俺の事を知らないのか」



・そうだぞ。少年A

・少年Aはあかん

・そういう扱いされないためにも、偽名でも良いから自己紹介は必要やな


そうか。別に本名を名乗る必要は無い。ただ、俺という存在に名前があることに意味があるんだ。まあ、咄嗟に偽名を考えることなんて出来ないから、本名を言うんだけどな。


「じゃあ、改めて。俺の名前は唯斗だ。高校2年生。部活はバスケ部だ。皆、俺がここから出るまでよろしくな」


まあ、このくらいなら良いだろう。多分。必要以上の情報はなるべく与えない。どうせ、顔とかがバレてんだ。それに、今日突然消えた人間を調べれば、自ずと俺の事は特定されるだろう。そうでなくとも、学校側が既に動いているかもしれないな。



・け、結構言ったな

・ちなみに唯斗のことは既にニュースで取り上げられてるぞ。光とともに消えた高校生だってよ

・そういえば、さっき執事が唯斗のことフルネームで呼んでたよな。今までの時間無駄じゃね?

・さっき来たばっかで分からないんだけど、執事って誰?



コメント欄の反応は想像よりも平常だった。もっとこう、いけ特定班!みたいなことをして来るかもと思ったんだが杞憂だったな。

コメントを見ると、ちらほらと先の執事を知らない人達がいた。


そうか、ニュースやSNSなんかで知って来た人達は、ステュワードとかいう執事の事を知らない人もいるのか。まあ、一応説明しておこう。どうも、重要人物らしいしな。


「執事っていうのは、俺を拉致した黒幕の関係者のことだ。チュートリアルだとか言って、色んなことを話してくれたな」


本当に何者なんだろうな。見た目は物腰柔らかな老人だった。だが、只者ではないのだろう。そもそも、人間なのかも怪しい。あの老人は自身のことを執事人形バトラドールと言っていた。案外、本当に人形の可能性もあるな。


「さてと、そろそろ第一階層に行くか」



・お、遂にか

・気をつけろよ。人が死ぬところなんて見たくないからな

・そうだな、死んだら元も子もないからな



コメントからは心配の声と期待の声が半々ずつ寄せられている。ここは、ゲームのようでゲームじゃない。それは理解しているつもりだ。これは夢でもゲームの中でもない。現実だ。俺は、今からモンスターと殺し合いをしに行くんだ。


第零階層を歩く。地面はゴツゴツとした感じで、慌てて走ったりしたら躓きそうだな。走る時は注意しよう。不安要素はそれだけじゃない。俺は腰に差した剣に意識を向ける。これをちゃんと振るい、モンスターの命を奪えるのか?


いや、今更そんなことを考えても仕方ないか。俺はここから出るんだ。例え何年掛かろうとも。


そんな覚悟を決めて、俺は長い階段を登った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る