ぐちゃぐちゃなリビングを見ると発狂する奥さんの話

脇役C

第1話 ぐちゃぐちゃなリビングを見ると発狂する奥さんの話

 結婚する前に、いろいろと結婚関連の本を読んだ。

 結婚に必要なもの、心構え、決めておくことなどなど。

 先走って子育て本の購入もしている。


 そんな取り入れた多くの情報の中で一番なんとかしないとやばいなと思ったのは、「部屋の片づけ」だった。


 そう、俺は片づけをなるべくしたくない男。


 そしてこらからの話は、そんな旦那をもってしまった奥さんの話。




「ストレスMAAAAAAAAッッッX!」


 仕事から帰ってきてリビングに入ってきた奥さんが発狂した。


「わたし、リビングが荒れているとめちゃくちゃストレス感じるんだよね!」


小説用の説明セリフだと思うだろ?

これ、毎回丁寧にこのセリフ言ってるんだぜ?


「え? そんなにリビング荒れてる?」


奥さんがぐちゃぐちゃになったリビングを世界一嫌っていることくらい、自分の仕事の業務よりも理解している。

奥さんに気持ちよく帰ってきてもらうために、最低限だがきれいにしたつもりだったのだが……。


「荒れてる! めっちゃ荒れてる!」


そう言って、部屋を片づけはじめた。

奥さんの名誉のために言っておくが、これは俺に対してキレているわけではない。

ただ純粋に心の底から荒れている部屋に発狂しているだけなのだ。


なので俺はあまり気にせず引き続き、晩ご飯の準備をする。

晩ご飯といっても、作りだめした味噌汁を温めたのと、オートミールと納豆とキムチを用意するぐらいである。

仕事と疲労と時間と健康と体重とで相談した結果、ここに行きついている。


準備が終わり次第奥さんに合流して、一緒に片づけをした。


「ありがとう」

と奥さんが言ってくれた。

「こちらこそ、ありがとう。次はもっときれいにしておくね」

「ううん。わたしが散らかしたもののほうが多いしね……、ごめんね……」


そう。

奥さんはリビングをきれいにしておかないと発狂してしまうが、だからといって片づけが得意かというと、どちらかというと苦手なほうなのだ。

リビングこそこんな意識を保っているが、他は本当に必要にせまられないと片づけない。

奥さんの車内は、もはや近代アートと言っても差しつかえないだろうだろう。


やがて、部屋はきれいになった。

テーブルにも床にも物がなくなった。


「ひっちゃああああん」

奥さんが抱き着いてきた。

「ありがとう! ただいまぁ」


部屋の汚さが、とりあえず自分の許容量を下回ってくれたらしく、帰宅してから15分後の「ただいまハグ」をいただいた。

いつもだと帰って手洗いうがい即ハグなのだが、発狂中はハグを忘れる。


「ゆっちゃん、お仕事おつかれさま」


抱きしめて頭をなでる。

奥さんの良い匂いがする。


「ひっちゃんもおつかれさmあー落ち着く。すさんだ心がほどかれていく……とけていく……」


奥さんはかわいい。


「お腹すいたし、ご飯食べようか」

「うん、ありがとう! 食べよ!」


こたつに入り込んで、いただきますする。

お腹が減っていたらしく、無心に食べていく。


「世の中の共働きのおかあさんって、すごいよね」

奥さんが世の中のおかあさんに対して所感を述べる。

「仕事から帰ってきて、子育てしながら料理して、その間を見て洗い物して、洗濯物までしてるんだよね。すご過ぎない? 帰ってきたら何もしたくないんだが!」


「それは心の底からそう思う。世のお母さんたちは超人」


うちの家事は究極に手を抜いている。

ごはんは炊飯器の限界までまとめ炊きしておくことで、週に2回しか炊かない。

おかずは出来あいのものをレンチンか焼くだけ。最近のブームは混ぜるだけで食べられる納豆。

野菜をぶちこんだ汁物だけ本気を出し、健康を保っている。

洗濯機は休日にしか回さない。


「ごちそうさま!」


奥さんは食べ終わって、俺のひざを枕にする。

猫みたいでかわいいなと思いながら頭をなでる。

猫よりも何憶倍もかわいいが。


「こんな奥さんでごめんねえ」

そんなことをポツリと言う。

「なんも家事できてないなぁ」


奥さんは同棲し始めた当初、かなり頑張っていた。

晩ご飯もちゃんと料理をしていたし、なんとお弁当まで作っていた。

部屋もほぼ常にきれいだった。


奥さんの仕事が、同棲を始めて初めての繁忙期を迎えた結果、奥さんは爆発した。

「ストレスMAAAAAAAAッッッX!」

家事を無理してお互いのためによくないということを痛感した。


こういうと妥協や諦めみたいでマイナスな感じになってしまうが、俺はこの生活に大いに満足している。


だって、家事疲れで奥さんの笑顔が消えるより、こうして一緒にだらだらなんでもないことを言って笑いあってるほうが良くない?


そう。

俺はなるべく片づけたくない男。

そして奥さんもなるべく家事をしたくない女。


いきついたバランス点が、この生活なのである。


いやでも、俺だってきれいな部屋は好きだ。

現状に完全に甘んじているわけじゃない。

そこらへんは日々成長の精神で改善していきたい。


ただ、ごはんを食べ終わって、お風呂に入って、思い思いにのんびりした結果またぐちゃぐちゃになったリビングで、丸まりながら寝転がってスヤスヤ寝入る奥さんを見て、結婚してよかったなと心の底から思うのだった。



○○○○○○

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