絡んだ赤い糸

あきこ

ぐちゃぐちゃに絡んだ赤い糸の対処法

 僕は、人間の恋愛をサポートする部署で働く天使のリオン。


 最近、ホントに赤い糸がよく絡む。

 昔は、酷く絡むのは、凄い権力とか特定の人達だけだったんだけど、最近は普通の人達の赤い糸がそこら中でぐちゃぐちゃに絡んで、ホントに大変。

 当然相手がいる事だから、絡めてる張本人達だけでなく、知らずに巻き込まれる人もいて、気の毒なんだよね、ほんと。

 あんまり口うるさいことを言いたくないけど、ちょっとは自制してほしいなぁ、まったく。


 あ!また、ぐちゃぐちゃに絡まってる糸、発見!本日3件目だ!


 ◇◇◇


 ある金曜の夜、ユウリは仕事が終わってから、親友のトモミの家に来ていた。

 最近、彼氏の事で悩むユウリの話を聞く為、トモミが誘ったのだった。


「そもそも私には全然分からないよ、なんであんな男にそんなにこだわるのか」

「彼氏が浮気ばかりする」とぐずっているユウリに、トモミが聞いた。


 トモミとユウリは幼なじみで、お互いよく知っている。

 ユウリは美人だし子供の時から人気者だった。勉強もよく出来て、今も一般的に大企業と言われる会社に入社し頑張っていて、周りからの評価も高い。


 そんなユウリが、28になっても「俺は音楽で成功してみせる」と言い続け、今だに定職に就かず実家の世話になっている男の事が好きだと言っているのが、本当に不思議だった。


「また、トモミは意地悪を言う……好きなんだもん、仕方ないじゃないのぉ」

 少し酔っているユウリが潤んだ目をして、甘えるようにグズりながら言う。

「確かにマサルはダメな所ばっかりかもしれないけど、私には優しくて……初めて会った時、ああ、この人だ、運命の人だ、って思ったんだもん」

「優しいって……浮気ばかりするのに?」

「本命は私だって言ってくれるもん」

 そう言い、ユウリはテーブルに突っ伏する。

「……わかってるんだよ、このままじゃダメだって。でも、どうしてもマサルから気持ちを離すことが出来ないの。自分でもなんでか分からないくらい好きなんだもん」

「ああ、もう……、わかったから、もう、泣かないでのよ、ね?」

 トモミはユウリを慰めながら、頭を優しく撫ぜた。


 ◇◇◇


「うーん、これは……難儀ねぇ」

 同僚の天使イブが、ぐちゃぐちゃに絡んで毛糸玉のようになっている糸を持ち上げてため息をつく。

「凄いね、30人以上の糸が見事に絡んでるよ」

 チームの中で1番の若手天使のミウも感心したように言う。

 リオンはイブの持ち上げる糸玉にそっと手をかざし、情報を収集してみる。繋がってる人間について糸を通してある程度分かるのだ。

「ああ、やはりこれも例のケースだ……」

「人間界で流行りの、出会い系サイトで絡んだケースですか?」

 ミウがリオンに聞く。

「うん。本当に最近このケースが増えてる。何人もの人と交わる事で、赤い糸が毛玉みたいにぐちゃぐちゃに絡んでしまうんだよな……」

「全く、出会い系サイトは使いようによっては運命の相手を見つけやすいツールになるのに、なんで、1人づつ丁寧に確認して進めないかな。」

 ミウが呆れたように言った。

「ホントよ。どうして一度に何人もってことになるのかしらね。こんなふうにぐちゃぐちゃに絡んだらもう切るしかないのに。……切ってしまうと同じ人とはもう繋がらないし、修復に時間がかかるから、丁度いい時期に運命の人に出会えなくなる……、そんなだから、婚姻率も下がるんだわ」


 ホントにその通りだ。

 オマケに誰とも繋がっていない期間、人によっては副作用が出る。

 寂しい気持ちに襲われ、人によっては寂しさが恐怖に感じるレベルになって、自ら命を絶つキッカケになったり、ストーカーに走るようになるケースもある。

 巻き込まれただけの人が、なるべくそういう事にならないよう、天使達も手厚くケアをしてはいくが、本当に最近は対象が多くて天使達も全然回ってない状況だ。


「あー、この男、すでに運命の女性と出会ってますよ」

「えー?さいてーね」

「しかも、相手は高位レベルの魂をもつヒトですよ、ありえない」

「高位レベルの魂??この低俗レベルの男の相手が??……これ、我々のミスですよ。こんなふたりを繋げちゃうなんて!」

「ああ、そのようだね」

 全く、”繋ぐ課”の連中は何をしてるんだか……。

「とりあえず、早く切断してしまおう。で、すぐに”繋ぐ課”にクレームを入れて、なるべく時間を空けずにふさわしい相手に繋いでもらおう。」

 はい!と、ふたりが元気に返事を返してきた。

 そして、ふたりはぐちゃぐちゃのダマになっている赤い糸の、両サイド持ち

「んじゃ、切りマース」

 と、ジョキ、ジョキと切っていった。


 ◇◇◇


「おはよう、大丈夫?ユウリ」

 ベットの上で目が覚めて体を起こしたユウリにキッチンからトモミが声をかけた。

「……うん。平気。」


「ご飯できたよ、食べてから、梅の花でも見に出かけない?」

「梅?いいわね、行こう」

 笑顔で答えて、ユウリはぱっとベットから出る。

「凄く気持ちが軽いわ。昨日、話を沢山聞いてもらったからかな」

「それなら、良かったわ。……ほら、座って」

 ユウリがテーブルに着こうとしたとき、携帯がなった。彼氏のマサルだ。

「ありゃ、梅むりかな。いいよ、出て」

 携帯の表示を見て、トモミがいう。


 ユウリは電話に出た。向こうから聞きなれた声がきこえてくる。

「あ、ユウリ?今日、出掛けないか?先週のお詫びに奢らせて欲しい」

 ユウリは不思議な感覚だった。

 なんだろう、いつもなら嬉しいこの声に、心が全く響かない。

「お詫びなんて、別にいいわ」

 ユウリは、電話の向こうにそう伝える。

「まだ怒ってる?あの子はほんとにただのバンドのファンだからさ」

「……」

 ユウリは、全く怒ってもいない自分に気付く。

「おーい、きいてる?」

「……あー、うん。……えっと、、ごめん、もういいから」

「え?」

「うん。別れましょう。だから、好きなだけ、ファンの女の子達と遊んでください。じゃ、さようなら」

 そう言って、ぶちっと、電話を切った。

「なに、どうしたの??」

 横で聞いていたトモミが驚いて聞く。

「いや……なんだか、すごくスッキリしるの。なんで私、昨日まであんなに泣いてたんだろ??トモミの言う通り、あんな男のどこが良かったのか……なんかホントに分かんないわ」

「まるで、憑き物が落ちたみたいね!」

「ほんと、そんな感じかも。自分でもよく分からない。……ま、どうでもいいわ。さ、食べて梅を見に行こ!」

「おっけー、そうしよう。いやー、ほんとに良かった!私はうれしいよ、ユウリ!」


 2人は、さわやかな気持ちで朝ごはんを食べ始めた。


 End

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