第17話

「では早速話をさせて貰おうか」


「の前に、エル」


「サー」


 医務室だし、レギメルドくん改め、ディルドスは動けない状態だから、エルメリアに準備して貰った小型のホログラム投影機から映像を流してもらう。


「こいつらに見覚えは?」


「ん?……ほぉ。これはどう言う活術だ?いや、確か活術は使えない、と言う話であったな?如何様な方法でこの者らを見れておるのだ?」


「もうそれは後で頼む」


 マジで。


「仕方ない。

 見覚えも何も、こやつらは。今となっては余を滅さんとする暗殺者、と言ったところか」


 暗殺者?


「どこぞの国の兵士じゃないの?」


「そうだとも。

 我が国に仕えし近衛兵たちだ」


 近衛兵、と言えば国の象徴、最高権力者である国王やその家族を守護する者たちのはず。それが今となっては暗殺者、ね。


 これはどちらが悪者になるんだろうか?


「彼らは君の敵、という事でいいのかな?」


「その通りだ。

 付け加えるのならば、こやつも本来あちら側の人間だ」


「はぁ!?」


 メルとか親し気に呼んでたじゃん!


「こやつの本当の名は【メルト】。余を隠す為に、余と共に名前を偽らせた。姉弟に聞こえる様に響きも似せた。良く出来ていたであろう?」


「ノーコメントで」


 腹立つから。


「メルも近衛兵であるが、今の状態はこちらの味方と言える。しかし、余の活術でメルの心を縛っておる。簡潔に言うなれば、


「―――」


「そう身構えるな。

 こちらの様子を見ていたのであろう?貴様らが声を掛けて来た際に行っていたのがそれなのだが、その時の距離でなければ余の活術は使えん。もっと言えば相手の頭に直接余の体の一部でも触れておる必要がある。まったく、使い勝手の悪い活術だ」


 だからと言って警戒するな、は無理があるだろう。


 先ずその距離の話、触れている必要がある話が本当かどうか確証が持てないのが一つ。

 例え本当であったとしても突然動いてこちらをどうにかしようとするかもしれないのが一つ。

 そしてメルトレイさん、改め、メルトさんが襲ってくる、あるいは同時に奇襲をかけてくる可能性があるのが一つ。


 以上の事がある限り、警戒はしてしかるべき、だと思うんだけど?


「因みに心を縛れるのは人間であるならば一人が精々。色々便利ではあるのだがな。その分制約が厳しく、活用もままならん」


 それもまた本当かどうか判断できないんですよね。


「話を進めよう。

 近衛兵たちも関係してくる事ゆえ、話を進めるのが手っ取り早い」


 ………はぁ、へいへい。









 医務室にて、ベッドで上半身だけを起こす威風堂々の少年が語る内容は、日本人の俺からしてみれば理解不能の荒しだった。


 王位継承権第一位であるディルドスは、生まれながらに膨大なマナを操る事が出来た。しかも人の心を縛る事が可能な唯一無二の活術まで使用出来た。


 当初は順風満帆。

 健やかに育ち、多くの臣下を従えるまでになった。


 しかし、1年ほど前に反乱が発生。


 人の心を縛る者が次代の国王である事に反感を抱いた一部の多種多様な立場の人間が発起した。


 用意周到な計画であったらしい反乱は、一夜で城が占領される事となった。


 その際に数名の臣下の犠牲によって逃げ延びる事に成功したディルドスは、別の臣下

 に匿われ、城の奪還と国王である父とその伴侶である母たち、そして兄弟姉妹を助け出すべく準備をしながら期を待った。


 だが、その準備が整う前に、期が熟す前に、ディルドスは今の病に侵される身になってしまった。更に潜伏していたはずの仲間たちが次々と討たれ、遂にはディルドスの居場所までもがバレてしまった。


 無事に、とは言えない少数となったディルドス一行は何とか病を治そうとしたが、メルトさんから聞いた通り、治療方法など嘘以外存在しない状況だった。最後の頼みとしてこの地にやって来たのが一月程前。

 丁度、俺たちがこの地で目覚めた辺りのようである。


 後に分かった事らしいが、続々と裏切りが発生していたそう。

 元々ディルドスを匿っていた臣下も裏切った為、居場所が敵に知れてしまったようである。


「いや巻き込むな、マジで」


「そう言うな。

 折角助けたのだ。最後まで協力しようと思うだろう?」


 嫌全然!


「はぁ~。それで、なんでメルトさんだけが残ってて、その残ったメルトさんを操っているのか。理由を聞こう」


「余が病に侵され、逃げ果せた際に残っていた臣下は4人。

 一人は文官気質の者で、名をアラギと言う者だ。他のメルを含めた3人は武勇の優れた者たちであった。

 そんな臣下たちであったが、困った事に、メルとアラギを覗いた二人がこの島に立ち入った瞬間、裏切った。

 メルは余を抱えてこの地を目指し、アラギはその身を呈して二人を足止めする事になった」


 ふ~ん。


 ま、臣下がメルトさん一人になった理由は分かった。

 じゃ、なんで操ったのか?


「流石に、な。

 余も人間である。これだけ多くの者に、信じていた者にも裏切られ続けたのだ。今更、信じられまい?」


 そう、なるか…。


 悲しいかな。


 人間とはそう言うものである。


 反乱を起こした人間の想いも。

 裏切った臣下たちの思惑も。

 裏切られ続けたこの子供の心も。


 どれも人間らしい。


「そうだな。

 人間として、反吐が出る程に理解できたよ」


「…ん?『元』?」


「こういう事」


 右手をぐにゃりと変形。触手が蠢く様に動かして、色味も本来の透明な薄い水色に戻す。


「――――――なんとも、面妖な…」


 …あれ?

 驚きが少ないね?


「人間じゃないなのに、えらく優しいじゃないか」


「今の発言が優しいかどうかは疑問が残るが、はっきり言って今更な感じがあるのでな」


「ん?」


 何が『今更』なんだ?


「余が知らぬ事はほぼない。これでも大国と言われる国の元王子、見た事はなくとも、聞いた事がある事が殆どだ」


 …そうなのか?

 ネットも電話も無いような世界だと思っていたから無理だと思っていたのだけど、もしかして何かしらの情報収集に役立つ何かがある?それともまんまネットとか電話が存在しているとか?


「その余が見た事も無い、聞いた事も無い物が多く…否、その殆どを知らぬもので溢れるここであれば、何が起ころうと不思議ではない、という事だ」


 なる、ほど?


「…まいいや。

 メルトさんはコレ見た時は敵対行動バリバリしてたけどね」


「まあ、今のこやつはそうでろうな」


 それはそうと、メルトさんはさっきから無表情で微動だにしてないね?大丈夫?うちのエルメリアといい勝負だ。美人度はこっちの勝ちだけどな!がっはっはっは!


「余の安全と治療を最優先する様に思考を固定しておったからな。一度は敵対するだろう。危険かもしれない、と言う理由でな。しかし、すぐに態度を改めたと思うが?」


「確かにその通りだ」


「で、あろう。

 まあ、そうでなければ今余は再び死の淵に居るであろうからな」


 あ~今更何だが・・・


「起きてて平気なのか?

 話をするのも正直辛いと思う状態のはずなんだが?」


「これでも王となるべく研鑽を積んできた身だ。この程度を『辛い』と嘆いていては国営など叶わんだろうよ」


 いやそんなに大変なのか?王様って…。


 さて、そろそろ本題に入ろうか。

 いい加減話に飽きて来たレコンがちょっとソワソワし始めてるし。それを咎める様に細い糸目で睨むロコンも不憫だし。


「では、そろそろ本題に入らせてもらおうか?」


「そうだな」


「で、貴様らはどちらに味方するのだ?」


 それが問題です。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 話は一旦保留。と言う形で落ち着いた。


 今の俺たちの立ち位置は『中立』。


 王子であるディルドスの治療は続けるけれど、これは別に味方しているからやっている訳ではなく、あくまでも情報を貰ったその対価として行う事で話は決着。

 感謝は操られていたとしてもメルトさんにお願いするのが筋であろう、って事でメルトさんに感謝させて話を無理矢理終わらせた。


 次に俺たちが行動するのは明日の……ってもう今日か。そろそろ日の出の時間。今からのんびり向こうで野営している連中のところに向かえば、ま、ちょっとは早いかもしれないけど、丁度いいだろう。睡眠時間が極端に少ないけれど、俺は問題なし。

 本来睡眠も必要としない種族だし。流石に一度寝たらもう一度普通に行動するのに時間が多少かかりはするけれども、基本的にこの体では欲求と言う者がほぼないので、こういう時は非常に便利である。


 エルメリアには悪いけれどこのまま俺に付き合ってもらう。

 レコンはまだまだ寝足りなさそうだし、もしもの時の戦闘で切り札となりえる為、今は寝かせる。ロコンも作戦やなんやらと頭脳面で忙しいのは分かるが、レコンと同じく頭脳面での切り札となる存在である。一睡もしていない状態ではもしもの時にパフォーマンスが低下していては、俺たちの命に関わってくる。って事で無理矢理寝かせた。


 そんなこんなで俺とエルメリア、他に運搬用と作業用のロボを引き連れ、件の近衛兵たちの陣営にお邪魔する事にした。


 猛反対をしていたロコンには悪いけれど、内緒である。


「…貴様が主人、だと?」


「ああ、何か文句でも?」


 別に良いだろ?

 俺だって超イケメンなんだぞ?170cmあるんだぞ?絶世の美女を引き連れていたって構わんやろがい!!貴様らが180cmを超える男しか居ないとは言え、顔は俺の一人勝ち!問題ないやろがい!!


「ここは男ばかりの野営地。しかも我らは長旅で疲弊し、精神も疲れている。その様な場に、女を連れて来るとは…貢物か?」


「……コロスゾ」


「っ!?!?」


 言うに事欠いて、『貢物』、だと?


 あ~、くそ、ホント、マジで、あ~、もう、ほんと最悪だわ。

 これだから規律も頭も緩い古臭い軍隊は…これは根絶やした方が早くないか?これから先も不必要に不愉快にされる可能性もある。そんな必要は無いし、何よりもされたくない。


 今、この場で処分してしまえば、取りあえずの問題はもうディルドスだけだ。


 あちらは俺らに対して恩を感じていた事もあって、エルメリアやレコンに対しては紳士的な反応しかしていない。子供である事も理由かもしれんが…。それに、解決の目途もある。治療さえしてしまえば、最悪「はい、さよなら」でも問題はない。


「抜剣!!!」


「明確な敵対行動を確認。

 制圧を申請します」


 あ~あ~。


 ……………もいいや。


「許可」


「サー。

 制圧、開始します」


 俺もまーざろ。


 戦力を完全に測れていないので、全力全開。マジモードで行きます。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それで?

 わたくしが寝たのを良いことに、お二人で敵陣営に赴き、制圧した。と?」


「いや、敵じゃなかったよ?最初は」


 …1秒くらいはまだ敵じゃなかった!


「わたくしが確認したところ、会敵1秒未満でエルメリアに対して、不快な視線をし、幾何かの説明の為に口を開いた後には、明確なを口にしていたようですが?」


 そうだったぁ!?

 エルメリアが見た風景はデータとして残される!それはレコンもロコンも確認できるんでした!!


「なんで二人だけで行っちゃうのよ!ウチも行きたかった!!」


「姉さん、今はそんな話はしていない、ちょっと黙って」


「あ、はい」


 ・・・・・・。


「その後、決定的な敵対行動。原始的である、とは言え武器をマスターに向けたのですよ?制圧、殲滅は当然の判断ではありますが、そうなる危険があるからお止めになる様、進言したはずです」


「そう、だね?」


「マスターの身に何かあったらどうするのですか!?」


 ・・・・・・


「すまん」


「ロコン。私が居たのです。問題はないでしょう?」


「いいえ。問題大ありです!何故エルメリアが止めない!?貴女が居たとしても、もしもの可能性がある!それがわからない貴女ではないだろう!?

 違うか!?それともその『万能』の名は飾りか!?」


「『万能』の名に懸けて、私は艦長をお守りしますよ。例え、どんな状態であったとしても」


「…叶わない事だってある。『万能』だからこそ、それも理解できるだろう―――」


「ええ。そうですね。理解していますよ」


「では何故…」


「『万能』であるからこそ、私は艦長の想いと考えを全力で実現させます。そして―――」


 ――――――『ドックン』


「『万能』であっても、艦長には良く想われたいのですよ」


 ――――――そんな表情、いつの間に覚えたんだよ

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科学は魔法で魔法は科学 天晴 大地 @haru-hina22

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