私は今、真っ白い彼女を見つめている

霜月二十三

 

 私は今、真っ白い彼女を見つめている。

 一糸まとわず、そこに立っている彼女を見つめている。

 私以外動くものの無いこの世界で、私は今、真っ白い彼女を見つめている。


 ……私の近くの彼女に、真っ白いは少し大げさだった。

 髪は散った桜に覆われた長い曲がり道、虹彩は咲きたての桜、唇は開く直前の桜を思わせる。

 顔にある唇も、小さく陰に隠れがちな唇も、ね。

 そういえば胸にも蕾はあるけれど……そこは別にいいか。


 さて、彼女をどうしてやろうか。

 そう思ったのは、ほんの刹那。

 私は彼女の後ろに回り込み、唇を開かせて、奥まで突っこんだ。


 十か二十かどこから数えるのを放棄したか忘れたぐらい繰り返した行為。

 私以外の男を一切知らないかのような馴染み方。



 報われない横恋……と書きつつある自分に気付いて、報われない以降を描き消す。線をぐちゃぐちゃ描いて消すから描き消すだ。

 頭を軽くかいても、私がしたことや私がした記憶は消えはしない。

 魔法で時を止めて、彼女をぶち犯す。

 それで犯した日の夜はこうして、その日の行為をテーマにいろいろ書いたり描いたりする。

 だから実際は、作品の数を数えれば何度やったかすぐ分かるが、一度見返していて作品を記したノートを破きそうになって以来、見返すのはやめた。


 あ、待て。よく考えたら一糸まとわずも大げさだった。

 足元は後で戻すのが手間なのと、膝上無一糸と膝下着てるコントラストがたまらなくエロいからという理由で、汚さない限りは基本手つかずなのに……。

 ――ああくそ、思考がまとまらない……! 寝るっ!

 やや乱暴に、でも先に寝てる同室者を起こさないようにノートをしまい、トイレで軽く抜いてから、眼鏡をケースに入れ、かけ布団の下に潜り込み目を閉じる。

 右肘と左肘、右膝と左膝、肋骨や頭蓋骨など骨の感触が溶けて広がっていく……。



 目が開いてすぐ、ここは夢の中だと気が付く。

 目の前にベッドで仰向けに寝てる裸の彼女がいるから。

 彼女の頬に触れてるこの手に関節がないから。

 目の前の彼女が辛そうに、でも優しく微笑んでいるから。

 ……彼女の目に映る私が白く大きく長く、流動的な怪物スライムと化しているから。


 私が彼女の顔に近づくと、彼女は目を閉じて口を開ける。

 私は一定の硬度を持った自分の一部を、彼女の中にぶちこむ。

 この体を持ってすれば甘く深い口づけも、喉姦と化す。

 嫌いな音が数多ある私だけど、彼女のえずく声を不快に思ったことはない。

 上の口を犯され目を閉じていられず涙目になる彼女ほど、じっとりと、あるいはぐっちょりと犯すものから解放されて、口から透明なものを垂れ流し、酸素を求め喘ぐ彼女ほど、美しく愛しいものを私は知らない。

 

 私は、それへの称賛のまま彼女を抱きくるみ、彼女の下の穴という穴を犯し始める。

 ものをぶちこまれて当然の穴から、本来なら出口な穴まで流動的なこの体なら、開発から実践までなんのその。

 私以外の男で満足できない体になっても、責任……取りませんから。

 ……そんな搾り取ろうと収縮したって無駄ですよ、だってこの私は貴方を何度でも――



 そう笑っていると、目の前のシーツ等から彼女がいなくなった。

 落ち着いて辺りを見回すと、ここはいつもの私のセミダブルベッド。あのクイーンベッドじゃない。

 自分の体を起こすまでもなく、私はベッドの上に正座に近い座り方をしていた。

 ケースから眼鏡を取り出して目覚まし時計を確認する。

 今日から平日だから、もうすぐ食堂で朝食が出る時間だ。

 身仕度をしてから一人、食堂へと歩き出す。


 さて何を食べようか。白くてどろどろした……おかゆと、切った野菜とぐちゃぐちゃにした豆腐を炒めたものを卵でまとめ四角く焼いた、ぎせいどうふと……あ、おかゆの味変に梅干を小皿に取って、あとでぐちゃぐちゃしよう。

 温かなお茶とおかゆとおかずを交互に食べ、残ったおかゆに梅干を入れて崩そうとしたところ、彼女が私のそばを通りかかり、おはようと声をかけてきた。

 私は一応彼女を見て、淡々と、おはようございます、とだけ返して、梅干を箸でつっつき崩し始める。

 彼女が私との会話を諦めて歩き出し、席についたのを私が見届けた頃には、十分梅干が崩れてた。

 種をよけて、梅干とおかゆを、さじですくって眺めて口に入れる。

 ……甘っ、はちみつ梅だこれ。最後に取ったせいかデザート用のが来たと?

 デザート梅干って、ああもう、私は彼女が大――き――だ。

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