娘の作る玉子焼き
888
大事なのは味と作る人の気持ち
小学生の娘が最近家庭科の授業で玉子焼きの焼き方を習ったみたいで、休日の朝は玉子焼きを焼いてくれるようになった。
(これは、スクランブルエッグなのかな……)
娘の焼く玉子焼きは長方形ではなく、ぐちゃぐちゃと言っていいような、スクランブルエッグのような形で整っていない。
「ねぇ、なんでママみたいに上手く焼けないんだろ? パパ、美味しくない?」
「いや、とても美味しい……」
特別美味くもないが、不味くはない、ただ形が汚いだけ。
「パパも正直に言えばいいのに! こんなぐちゃぐちゃな玉子焼きじゃ、絶対美味しくないよ!」
娘は俺がわざと美味しいと言っていると言い出し、機嫌を損ねる。
「美鈴、今日のお昼外食しないか?」
「え、外で食べるの? まあ、いいけど……」
玉子焼きが上手く作れなかったことで少し不機嫌な娘を連れて、車で月島に向かう。
「パパ、何食べるの?」
「え? 月島なんだからもんじゃ焼きでしょ!」
俺は娘を連れて、もんじゃ焼きのお店に入る。
「ねぇ、パパ、なにこれお好み焼きじゃないの? なんか、ぐちゃぐちゃしていて、見た目美味しくなさそうなんだけど……」
「そういうことを言うな。このお店のお母さんが一生懸命焼いてくれたんだから!」
娘と俺は小さなヘラでもんじゃ焼きを掬いながら、フゥーフゥーと少し冷ましながら、もんじゃ焼きを食べる。
「これ、意外と美味しいね! 最初は不安だったけど、いろいろ具も入っていて美味しい!」
「そうだろ? だから、パパがお前の玉子焼きを美味しいと言ったのも嘘じゃないってわかってくれたか?」
「でも、玉子焼きともんじゃ焼きじゃ違うじゃん!」
「違わないよ! 最初から長方形にしない玉子焼きだってあるんだし、大事なのは味と作る人の気持ちだから」
俺の言葉は娘に届いているのかはわからない。
娘はその後も生意気口を叩きながら、もんじゃ焼きを食べ続けた。
昼食を終えて家に帰り、3時ころになると、娘がプレートを出して、ホットケーキを焼き始めた。
「お前、普通に丸く焼けないの? なんかラグビーボールみたいな形になっているけど……」
「大事なのは味と作る人の気持ちなんでしょ?」
俺は返す言葉もなく、娘の作ったホットケーキを食べる。
「どう、美味しい?」
「……とても美味しい」
本当は大して美味くもないが、自分の話したことをちゃんと聞いていてくれたことを嬉しく思い、形の悪いホットケーキも美味しく感じてくるのであった。
娘の作る玉子焼き 888 @kamakurankou1192
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