埋まってしまったあの子のとなり――なんで私よりそいつを選ぶの

下等練入

第1話

 好きと自覚してから自分なりに色々と努力してきたつもりだった。

 化粧を覚えた。

 オシャレだって研究した。

 筋トレも始めたし、勉強も前より出来るようにした。

 友達からも「最近の凛乃りのってかわいくなったよね」と言ってもらえた。

 それでも一向に告白する勇気が湧かないのは、まだ釣り合ってないからかもしれない。


 そんなことを考えながら私は友人であり、誰にも言えない恋心を抱えている文香ふみかを眺める。


(今日もかわいいな)


 あまりのかわいさにため息をついていると、見知らぬ女の顔で視界がいっぱいになった。


「どいて邪魔なんだけど」


 その女をどかそうと思ったがそいつは一向に動こうとしない。

 それどころか、私に質問してきた。


「ねー凛乃ちゃんって嶌田しまださんのこと好きなの?」


 凛乃ちゃん?

 対して親しくもないくせに名前で呼ぶなよ。

 それより、なんで私に訊くの?

 心臓はすでに悲鳴を上げそうなぐらい早く脈打っていたが、それを悟られないように私は平静を装って答えた。


文香ふみか? べ、別にそんなことないけど……」

「ふーん、なら私がっても問題ないよね?」


 は? え? どういうこと?

 そいつは待ってましたとばかりにそう言うと、文香にさっき私に話しかけたのと同じテンションで話しかける。


「ねー嶌田さん、私と付き合ってよ!」

「え?」

(は、こいつ何言ってるの?)


 それを聞いた時文香は驚いたかのように目を見開いた。


「ごめ――」


 文香がそう言いかけた時、あの女は私を指さしながらなにか耳元で囁いた。


(え、なに)


「――わかった、いいよ。付き合おう」

「ありがとう、二人きりで話したいし、中庭行かない?」

「わかった」


 そう文香が返事をすると、二人は手を繋ぎ歩き始めた。


「え、ねえ文香」

「ごめんね凛乃」


 慌てて追いかけても、もう文香の隣はあの女で埋まっている。


「……どうして」


 繋ぐ相手を失った私の右手からは冷たく食い込む爪の感覚以外残っていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

埋まってしまったあの子のとなり――なんで私よりそいつを選ぶの 下等練入 @katourennyuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ