第2話

「葉野さん!おはよう!!!」

 学校の靴箱に響き渡る声。一瞬静かな空気が流れる。注目が集まる。しかし、0.1秒後には再び朝の喧騒が鳴り始めた。

「……は?」

 思わず自分でも驚くほど低い声が出た。

「朝からなんですか急に……」

「ええ!?友達と言ったら朝の挨拶でしょ」

「はぁ……まぁそうですけど……」

 まるでこっちがおかしいことを言っているかのような言い方だ。

 確かにそうだ。そうだ。でも私は蒼井を友達だと思ってない。どこからそんなに友達だという自信が湧いてくるんだ。

 蒼井と話していたら、いつの間にか周りに誰もいなくなった。

 やばい、チャイムが鳴りそうだ。

 慌ててスリッパを履き、階段を駆け上がろうとする。

 蒼井が後ろから着いてきた。

「なんで着いてくるわけ!?」

「だって同じクラスだから」

 ああそうだった。私コイツと同じクラスだった。ほんと最悪。

 朝から注目をあびたり、あいさつをされたり、初めての経験がたくさんあって少し疲れているのだろう。まだ朝だけど。

 蒼井と一緒にクラスに一歩入ると、靴箱が静まり返った時よりも尚一層静まり返った。

__嗚呼、私の高校生活終わったな。

 ふっと脳内に浮かんだ思考を意識の外に飛ばして、自分の机まで進む。

 クラスメイトが蒼井とわたしの顔を交互に見ている。

 その珍しいものを見るような視線が痛い。痛すぎる。

 普段からこんなに視線を向けられる機会がない分、余計に痛い。

 やめてくれみんな!!!そんな視線を私に向けないでくれ……!

 切実に心の中で叫んでも、誰一人には聞こえない。

ただただ沈黙しかない気まずい空間をなんとかできる訳でもなく、必死に目線を下にして耐えていたら、タイミングよくチャイムが鳴った。

 みんなが一斉に席に座る。担任が教室に入ってくる。

 私がチャイムというものに感謝したのは後にも先にもこのときだけだろう。

 こうして、私の最悪な一日が始まった。

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