古本屋のおかしな出来事 3

瑞多美音

古本屋のおかしな出来事 3



 ここは代々続く小さな古本屋だ。小さく古びた店舗で知るひとぞ知るこの古本屋では時々おかしなことが起こる。

 今日はその裏にある自宅での話をしよう。



 『良子ちゃん、妾にちょこれーとをおくれー』


 部屋でごろごろしながらチョコレートを要求している彼女……今日のお話の主人公は彼女である。



 「いや、わらちゃん。食べすぎじゃないかい?それにごみくらい片付けようよ……」


 わらちゃんは黒髪のおかっぱ頭にフリフリのカチューシャとピンクの花柄ワンピースを着ていて年齢はパッと見、小学校低学年くらいだ。

 一応、座敷わらしに分類されるらしく……この家ではわらちゃん呼びが浸透している。


 わらちゃんは気分しだいで姿を消したり現したりするが、ここ最近はずっと出現している。その理由は……心ゆくまでチョコレートが食べたいからである。


 そのため、お茶の間スペースの一部分はわらちゃんゾーンとなっている。そこは万年床となった布団があり、その上にはチョコレートのごみや店舗から持ち出したであろう本が散乱している。太郎にはぐちゃぐちゃしていると感じるが、本人曰く完璧な配置であるとのこと……


 『太郎、何を言うのじゃ!妾のおかげで野菜はつやつや、お主らの苦手な虫たちもこの家から遠ざけているのだぞ?それくらいよいではないかっ』


 虫は遠ざけているからごみを放置しても虫が寄ってくることはないので問題ないとわらちゃんは本気でそう思っているらしい。

 しかし、太郎とてわらちゃん効果で家庭菜園の野菜たちはとても美味しく豊作で家計も助かっているため、ご機嫌は損ねたくないのである。


 「そうよねー……はい、チョコレートどうぞ。あ、あとでお洋服の試着してくれるかしら?細かいところを詰めたいのよねー」


 子供も孫も男ばかりだったため、趣味の裁縫でわらちゃんの服を作ることが生きがいとしている太郎の妻、良子はマイペースだ。

 太郎もいつものことなので3人分のお茶を入れることにした……太郎も大概マイペースである。つまり、似た者夫婦だ。


 『試着か……わかったぞ!今度はどんな模様かのっ』

 「ふふ、実はね……わらちゃんの好きなチョコレート柄の生地を見つけたのよー!」

 『な、なんだってー!!良子ちゃん、今すぐじゃ!今すぐ試着して完成を目指すのじゃー!!』

 「わかったわ……あら、でもこの床じゃあゴミで滑ってしまうかも……あーあ。最近は膝が痛いからなー。転んだらしばらくは作れないわぁ」

 『うむ、まかせるのだ!』


 わらちゃんがそう言うと、ぐちゃぐちゃと散らばっていたゴミがあっという間にゴミ箱へ飛んでいき、本もきれいに積み重ねられた。わらちゃんはやればできる子なのである。


 『良子ちゃん!早く、早くっ!』

 「はいはい」


 わらちゃんの扱い方を1番心得ているのは良子なのかもしれない……普段、太郎より一緒にいる時間が長いため当然かもしれない。



 ベランダの家庭菜園に虫がつかず、通常より早く成長し美味しくて豊作、良子と太郎の苦手なGや害虫が家に出現しない……これも十分おかしな出来事であろう。

 まぁ、太郎と良子と息子家族しか知らない秘密なのだが。


 ……他のおかしな出来事はまたいずれ。


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