私は私で私だから私なんだけど私だって私だ。

@chauchau

卒業式という理由があってなお


 手が止まる。

 止まった右手を左の手が掴む。

 動けと念を込めても、止まった右手は動かない。

 私の右手は私の右手ではなくなった。

 書きたいことは決まっているのに、書こうとする手が動かない。だから。いつまで経っても便せんは白いまま。


 手が動く。

 動いた右手を左の手が掴む。

 やめてと願っても、動いた右手は止まらない。

 私の右手は私の右手ではなくなった。

 届けたい相手は決まっているのに、届かせないと手が動く。だから。もう何枚もの便せんがゴミ箱のなか。


 書きたい。

 伝えたい。

 書きたくない。

 伝えたくない。


 私を応援してくれる左手で、文字は書けない。

 私を邪魔してくる右手で、文字を書くしかない。


「なんて馬鹿やってる時間ないのに……ッ」


 分かってる。右手が勝手に動くものか。左手が勝手に動くものか。左右の手は私の手だ。応援するのも邪魔するのも私だ。私が私を応援して、私が私の邪魔をする。

 いっそのこと手紙なんて使わずに、直接気持ちを伝えてしまおうか。そんなことが出来るなら。私は私をもっと好きになっている。自分で自分のことを好きになれていないのに、そんな私を私は他人にお勧めするというのだろうか。そんな商品を誰か手に取ってくれるのか。私は品ではなく人であろう。だからどうした。それがどうして大事なことだと言われてはいそうですかと言うのか。そうだ。それがいいんだ。はい、そうですか。


 ああ、くっそ!

 ああ、ああ!


 泣いてなにが変わるわけないなんて知っている。分かっている。どれだけ泣いてきたか教えてやろうか。私はいったい誰に話している。

 知っている。私が私であると私が一番誰よりも分かっている。私は私で私だから私なんだけど私だって私だ。


 好きです、と。


 たったそれだけが言えないのが私なんだ。

 ああ、くっそ。

 ああ、ああ!


 ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。

 書くよ、書くとも、書きますよ!


 分かってはいるんだよ!!

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