7代目金長編

金長牡丹

天保8年(1837年)。阿波の日開野(現・小松島市)で、大木の中に棲んでいる金長(きんちょう)という狸を大勢の者が燻り出そうとしていた。そこを通りかかった染物屋・茂右衛門は金長を哀れに思い、その者たちに金を与えて金長を救った。


しばらく後、茂右衛門の家へ奉公に来ていた万吉という少年が自らを「金長」と名乗り、守り神として店のために尽くすと言い出した。茂右衛門に恩義を感じた金長が万吉に憑いたのであった。以来、茂右衛門の店は良い仕事や良い客に恵まれるようになった。また、仕事で迷うことがあると万吉が助言をし、その内容は必ず正しかった。こうして茂右衛門の店は繁栄し、金長の評判も高まっていった。


何年かがたち、金長は「自分はまだ無位無官の若造」と言い、狸としての位を高めるため、子分の藤の木の鷹(ふじのきのたか)と共に、名東郡津田浦の化け狸・六右衛門(ろくえもん)に弟子入りした。六右衛門は四国の狸の総領であったが、人を化かして物を奪うなどの悪事を働く狸であった。六右衛門は噂に聞く金長の才覚を早くも見抜き、案の定、厳しい修行の最中でその才覚はめきめきと伸びていった。子分の鷹ですら、六右衛門の息子の千住太郎(せんじゅたろう)を上回るほどだった。


六右衛門は密かに金長を恐れ、今の内に身内に加えようと考えた。丁度、六右衛門の娘の小安姫(こやすひめ)が金長に恋焦がれていたこともあって、金長に対し、小安と結婚して自分の養子として跡を継ぎ、千住太郎の後見人になることを勧めた。しかし金長は、茂右衛門への恩を返すまでは他のことに気を使えないとして辞退。殊勝な言い分に六右衛門も反論できず、日開野へ帰っていく金長と鷹を見送るしかなかった。


しかし六右衛門配下の狸は、金長をこのまま帰してはいずれ大きな脅威に育つ、身内に入らないのなら片付けるべきと助言。頷いた六右衛門は数十匹の狸を金長たちのもとへ放った。小安からの報せで闇討ちを知った金長と鷹は追っ手を迎え撃つ。腕に覚えのある金長たちではあったが、2匹では多勢に無勢。鷹は倒れ、かろうじて金長のみが日開野へ逃げ遂せた。


金長は仇討ちのため仲間の狸たちを呼び集めた。早速、鷹の息子たちが父の弔い合戦のために駆けつけ、日頃から六右衛門の非道ぶりを好ましく思っていなかった狸たちも立ち上がった。一方で六右衛門側では、娘の小安が父の闇討ちを非難し、金長が死んだら自分も生きてはいないとまで言ったが、六右衛門はこれを嘲笑。小安は遂に自分の命をもって父を咎めるべく自刃するが、娘の死は金長に対する六右衛門の憎悪を増長させるだけでしかなかった。また金長も自分を愛してくれた小安の死を知り、六右衛門討つべしとの決意を固めた。


勝浦川を挟み、金長軍総勢600匹余り、六右衛門軍総勢600匹余りが対峙した。こうして俗に「阿波狸合戦」と呼ばれる狸の2大勢力の壮絶な戦いが幕を開けた。


勝浦川下流を舞台とし、死闘は3日3晩に及んだ。空に叫び声がこだまし、川の水は血で真っ赤に染まり、川床は狸たちの死体で埋め尽くされた。弔い合戦故に押しの強い金長軍に対し、六右衛門軍は籠城作戦をとった。守りの堅い城を相手に金長軍は手も足も出ないかに見えたが、遂に門を突破し、城内での血みどろの激闘の末、遂に金長は六右衛門を討ち取った。だが金長もまた、刀による致命傷を負った。金長は死力を振り絞って日開野へ帰り、大恩ある茂右衛門に礼を述べ、力尽きた。


これで合戦は終わったかに見えたが、六右衛門の息子・千住太郎が修行先の屋島の禿狸のもとから急遽駆けつけ、敗れ去った六右衛門軍を再召集して日開野へ攻め入ろうとした。金長軍もやむなくこれを迎え討ち、合戦が再開されたが、そこへ屋島の禿狸が仲裁に入り、ようやく合戦は終結を迎えた。


金長は後に、その生き様に心を打たれた日開野の茂右衛門によって正一位金長大明神として祀られた。現在でも金長大明神は小松島市中田町の金長神社に祀られ、崇拝者たちに厚く信仰されている他、各所に狸の銅像が飾られて人々に親しまれている。








































 阿波狸合戦から200年近く経った現代、7代目金長狸の牡丹は妖怪初の国会議員だ。牡丹は、人間と妖怪達が手を取り合い仲良くできる世の中にしたいと思い、当初は活動家だったが、牡丹の働きが後に世間に認められ、牡丹が提案した『妖怪共存法』が可決された。それを皮切りに妖怪達は次々と人間社会に交じり、勉学や労働に励むようになった。

 元々人気のあった牡丹は、ワイドショーやバラエティー番組に出演し、数々の有名芸能人と共演した。

 幼稚園児から高齢者まで皆が牡丹を『金長牡丹』と呼ばずに、『牡丹』あるいは『牡丹さん』と呼んでいた。

 6月のある日、牡丹は小学校で講演会をやる事になり、全校生徒の前で妖怪と人間をテーマに話した。50分設けられた時間だったが、生徒から沢山の質問があったため、2時間近くかかった。

 講演会が終わると1人の少女が

「牡丹さん、ありがとうございました。お話よかったです」

「ありがとう」

 牡丹がお礼を言うと少女は

「実は最近、私、妖怪に助けられたんです」

「ほぅ、どんな?」

「牛鬼です」

「牛鬼!?あの残忍で獰猛だと言われている牛鬼!?大丈夫?怪我は?」

「大丈夫です。その牛鬼はいい妖怪でした。何でも屋を経営しています」

「何でも屋?」

 牡丹は興味津々で聞いた。

「はい!その牛鬼は何でも屋で人助けしています」

「イメージとは違うな…。で?その牛鬼の何でも屋にはどうしたら行けるの?」

 牡丹が尋ねると少女は急いでノートの切れ端に何でも屋の連絡先を書き、牡丹に渡した。牡丹は一生懸命連絡先を見ると

「鬼塚清志郎…。この鬼塚を訪ねればいいの?」

「はい」

 少女は頷いた。

 なぜ牡丹がそう聞いたかと言うと数週間後に牡丹は故郷の徳島で講演会をする予定で、講演会の間だけいるボディーガードを探していた。

「ありがとう!あなたのおかげでいい話が聞けた。その牛鬼に会いたくなったよ!」

 牡丹は嬉しそうに少女に握手した。

 翌日、牡丹は何でも屋に連絡し、数日後の月曜日に鬼塚と会う約束をした。











【冒頭引用】

https://studioghibli.fandom.com/ja/wiki/%E9%98%BF%E6%B3%A2%E7%8B%B8%E5%90%88%E6%88%A6

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