【KAC20233】 醜い私

下東 良雄

醜い私

 ベッドに横になり、スマホに映る男の子の写真を眺めた。

 格好良くて、優しくて、頼りになる同級生。

 そんな彼が私に好意を向けてくれている。


 彼は恋人じゃない。

 でも、バレンタインチョコを受け取ってくれた。

 私を抱きしめてくれた。

 私と身体を重ねたいって言ってくれた。

 私の心に喜びの気持ちが降り注ぐ。


 周りの友だちが言ってくれた。


『応援してるからね!』

(私ももっと仲良くなりたい)


『応援してるからね!』

(私も彼が大好き)


『応援してるからね!』

(彼にすべてを捧げたい)


 スリープになり、スマホの画面が消える。

 真っ黒なスマホの画面に反射して、私の顔が映った。

 そばかすだらけの醜い顔。

 自分で見ても気持ち悪い顔。

 私の心は黒い気持ちに覆われていく。


 周りの友だちが言っていた。


『応援してるからね!』

(何を? 私がこっぴどくフラレるのを?)


『応援してるからね!』

(かんたんに言わないで! 何も知らないくせに!)


『応援してるからね!』

(お願いだからもうやめて!)


 スマホの電源ボタンを押した。

 画面に彼の写真が表示される。


 私を蔑むような人はいないのは分かっている。

 分かっているのに、気持ちが追いつかない。


 みんな私を心から応援してくれている。

 分かっているのに、心が受け入れない。


 彼の優しさが嬉しくて、でも苦しくて。

 彼の温もりに安堵して、でも不安で。

 彼からの好意が幸せで、でもそれが重荷になって。

 こんな醜い私に好意を寄せる彼が分からなくて。


 ベッドの上で身体を丸め、頭を抱える。

 頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 そして、私は気付いた。


(私が醜いのは顔じゃない……誰も信用しようとしない私の心だ……)


 もう一度、スマホに映った彼の写真を眺める。

 彼が私に言ってくれた言葉を思い出した。


『さっちゃんは、優しくて頑張り屋の可愛い女の子だよ』


 スマホに映る彼の笑顔が滲んでいく。


「嘘つき」


 いくつもの涙がスマホの画面を濡らした。


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