双子密室顔のない死体替え玉時刻表秘密の抜け穴館殺人事件

てこ/ひかり

解決編

「面白い推理だ! 探偵さん、いっそ作家にでもなったらどうだい?」


 犯人は貴方だ、と名指しされた男が、肩をすくめて笑った。だがどうしてだろう。その表情にはまだ余裕がある。確かに状況的に怪しいというだけで、物理的な証拠がある訳ではない。


 一体どうすれば……探偵が攻めあぐねていると、隣にいた関係者が手を挙げた。


「失礼。中央SF文庫で編集者をしている佐藤という者ですが」

「はぁ」

「今の推理……そんなに面白かったでしょうか?」

「え?」


 突然そう言われ、探偵は少し不安になった。


「面白くなかったですか?」

「いや、私、ミステリーのことは良く知りませんが……聞いていると、どうも科学的根拠に薄いと感じましてね」

「はぁ」

「もっと宇宙の法則や地球外生命体など出した方が良いと私は思いました」

「なるほど……宇宙人か! それは面白い推理だ!」


 探偵は膝を打った。もとより自分の推理に自信がなく、時間的にそろそろ解決編だろう……ということで皆を大広間に集めたのだった。とりあえず口から出まかせに奇抜なことを言ってみたが、どうも面白みに欠けると思っていたところだったのだ。


「犯人は宇宙人だ! 早速推理に取り入れましょう」

「待ってよ。だったら私にも一言言わせて」

「貴女は?」

「私はレディコミの編集をしている田辺よ。さっきから貴方の推理には、恋愛要素が足りないと思っていたのよ」

「恋愛要素……ですか」


 田辺は鼻息を荒くした。


「私は男女の愛憎劇が見たいの! なのにどうして関係者全員、恋愛に発展していないのよ! これじゃ全然面白くないわ!」

「確かに……彼女のいうことも一理あるな」

「今すぐ王侯貴族を呼んで来なさい。そして目が合った瞬間、電撃に打たれ求婚するのよ」

「なるほど……これは面白い推理になりそうだ」


 探偵が世界各国の王室に問い合わせていると、いかにも重鎮、みたいな老人がしかめっ面をして唸った。


「やれやれ。ワシが期待していたのは、奇想天外なトリックだったんじゃがね」

「そう言う貴方は?」

「私はミステリー作家、犯人死蔵はんにんですぞうじゃ」

 老人が眉を引くつかせた。


「その名前……聞いたことあるわ! 確か『二百万人殺人事件』の著者よ。未だ完結していないという伝説の推理小説……」

「確かに奇を衒った推理じゃったが……しかし論理的なトリックがないと。それはミステリーと言えるのかね? ククク」

「じゃあ先生が考えて下さいよ」

「なにっ」


 目を丸くする老人に探偵は頭を下げた。


「ちょうど良かった。犯人は貴方だ、とは言ったものの、肝心のトリックをまだ考えてなかったんですよね。何かとびっきりの、ワケわかんねぇヤツお願いします」

「ワシが!? 今から考えるのか!?」

「貴方プロでしょ。それくらいぱぱっと思いつきなさいよ。面白いヤツ」

「待て待て待て……そう言われると、ハードルが上がってしまうじゃろうが。面白いヤツて言われても」

「まだまだ、もっと面白くなるはずよ。私たちで探しましょうよ!」

「そうだな! もっと多角的に検証しないと! 経済学者とか呼ぼうぜ」


 それから探偵たちは推理をもっと面白いものにするため、各界の専門家たちに意見を求め、検討に検討を重ねた。  


 そうして関係者各位と協力し、完成した推理を、探偵は改めて男にぶつけてみた。すると男は、


「面白い推理だ! 探偵さん、いっそ作家にでもなったらどうだい?」

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