第46話 対試験官

 2か月後


 俺は前回と同じ試験官と対峙していた。

 前回と違うのはギュンターだけでなく、エマやマリア、ルーナ、カトレア、フリーダも駆けつけ、応援してくれている。


 今回こそは、絶対受かると豪語して連れてきたのだ。 無様な真似はできない。


「フィンゼルさまー! 頑張ってくださーい!」


まるでアイドルを応援するような声援がマリアから飛ぶ。


 G級F級の昇格試験は形の試験だが、E級からは実践形式になる。

 B級のライセンスを持つ試験官と手合わせをし、受ける等級以上の実力があれば合格と、実にシンプルな内容だ。


 ただそれ故、担当する試験官ごとにムラがあり、ちゃんと統一した合格基準がC級まではない。


 合格にさせるかどうかは試験官の匙加減。しかし、このアバディン支部のC級担当試験官はかなり厳しいことで有名だ。ここはこいつを倒し、文句を言わさずに昇格したいところ。


 俺と試験官は2か月前と同じように構える。


 この2か月で俺は死ぬほどスタミナを鍛えてきた。

 それでも一日に使える魔力駆動は3回が限度。これ以上は体が持たず気を失ってしまう。

 使いどころは慎重に見極めなければならない。

 こんなのを連続して発動できるギュンターやマリアは一体どんな体力をしているのか……。


「いくぞ! ハァァ!」


 俺は今回も我慢が出来ず自分から試験官に切りかかる。

 試験官は俺の剣を受け止めて鍔迫り合いになる。この2か月で筋力も大分ついた。前回とは違い軽々は飛ばされない。


 それでもこちらはまだ子供だ。体格の差でどんどん押し負ける。

 

 やはり力では勝負にならない。かといって魔力駆動のスピード勝負も回数制限が少ない俺が不利。だから相手の攻撃を受け流しての魔力駆動での超高速カウンター。これを決めるしか俺に勝ち目はない。


 俺は一旦距離を取ろうと離れるが、試験官はそれを許さず、すかさず詰めて切りかかる。


 俺は試験官の斬撃を防ぎながら、カウンターの機会を伺う。


 まだ、まだだ。相手が痺れを切らし、魔力駆動ドライブを使ったのに合わせてこちらも発動しなければ成功しない。チャンスは一度のみ。これを外せば勝機はない。


 試験官の剣を丁寧に捌きながら、考える。

この試験官とは8回C級昇格試験で手合わせをしている為、いつ頃魔力駆動ドライブで仕掛けて来るかなんとなく感覚で分かる。


もうそろそろ。もうそろそろだ。


 試験官の攻撃をわざと仰け反りながら距離をとる。好機と見たのか、次の瞬間、爆発的なスピードで迫ってくる。


 来た!


 自分でも魔力駆動を使えるようになったためか、このスピードにも慣れ、前以上に対応もできるようになった。 

 俺も魔力駆動ドライブを発動し身体能力をアップさせ、爆発的なスピードで迫りくる上段の剣を受けると見せかけ、剣身で滑らすように受け流す。


 試験官の剣はその勢いのまま床まで空振りした。

 そして俺は試験官のがら空きになった首元に剣を差しこもうと受け流した剣をそのまま横に振る。


 見よ。これがギュンター直伝、エル・ティソーナ流カウンター剣術―――


「剣流一閃!!」


 俺の振った一撃が試験官の喉元まで振り抜かれるが、手応えは―――なし!!


 かわされた!?


 俺はいつの間にか背後に回っていた試験官に気付き、反射的に魔力駆動を使い、距離を取った。いや、取らされてしまった。


 俺は額から大量の汗をかき、肩で息をする。

 剣流一閃を使うのに1回、距離を取るのに1回、合計2回魔力駆動を使ってしまった。

 もう後がない。


「ほー。今の、避けるか。流石はペドロヴィア上級騎士が指南しているだけはあるな」


 

 試験官が何かを言っているが全く聞こえない。

 リング外でもマリアやフリーダが大声で声援をしてくれているのは分かるが、なんと言っているかは分からない。


 魔力駆動を2回続けてやった反動か。体が悲鳴を上げている。

 やはり今の俺では3回が限度。次で決めなければ。

 カウンター作戦が失敗し、体力も残りわずか、このまま切り合っていても此方が負ける。


 ならばこの最後の一回に賭けなければならない。


「まだやるのか。勝負はついた、お前の負けだ。だがC級の力は十分にあった。合格にしても良いがって、聞いちゃいないか……」


 俺の集中は過去最高にまで高まっていた。 前世でもサッカーの試合中にこんな感じになったことはあるが、その比ではない。


 時間の流れが遅くなるのを感じる。 

 試験官が剣を構える動作も凄くゆっくりに見える。


「いいだろう。最後まで付き合ってやる」


 試験官が構え終わった瞬間、俺は魔力駆動を発動する。


「エル・ティソーナ流剣術。疾風迅雷」

「受けて立つ。エル・ティソーナ流剣術。流星剣」


 試験官も魔力駆動を発動したのだろう。凄いスピードで迫ってくるが俺の思考はクリアだ。


 相手の剣が俺に触れるより先に俺が相手を切る。剣同士の戦いとはそれだけのこと。

 俺の剣は今までにないくらいの鋭さを増し、さらに速くなる。


 剣を振り切った直後、俺の手には確かに試験官を切った手ごたえがあった、しかし俺の腹にも重い痛みが走る。


「な…に……」

 

 後ろを振り返ると試験官がそんな言葉を残し、倒れた。


「勝った……?」


 おそらくは相打ち。だが倒した。

 その満足感に浸りながら倒れる俺を誰かが抱きしめる様に受け止めてくれた。


「ご立派でした。フィンゼル様」


 その言葉を最後に俺は気を失った。

 


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転生する神魂《ゼーレ》~魔力が豊富に宿る体に転生しました。世界が戦争ばかりなので平和にするため立ち上がる~ レノ @reno1234

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