第25話 城壁都市アバディン
王国最北端の都市、アバディンに向けて馬車に揺られること一日。
俺の思惑とは違ったが、やっとブリステンから外の世界を見ることが出来る。
御者はギュンターがやってくれており、俺の目の前にはマリアが座っている。
「こうやって二人で馬車に揺られていると、なんだかデートしているみたいだね」
「そんな恐れ多いです。 フィンゼル様とデートなどと」
俺の軽口にも慣れてしまったのか、軽く流すマリア。
「しっかし、意外と遠いもんだな。こんな事ならギュンターにもっと飛ばすよう指示すれば良かった」
急ぐ旅でもないため、馬車もそこまでスピードを出していない。そのため、馬を飛ばせば半日ほどで着く所が、丸一日経ってもまだかかるようだった。
「もうそろそろの辛抱ですよ。ほら窓を見て下さい。城壁都市アバディンの壁が見えてきましたよ」
俺は馬車の窓から身を乗り出し、外を見ると、遠目に高さ20メートルはあるだろう城壁が見えた。
「ブリステンの城壁より高そうだな。さすがは城壁都市と言ったところか」
「そうですね。私も初めて見ましたが、領都より立派な城壁です」
マリアもひょこっと窓から顔を出しアバディンの城壁を見る。
こうしている間もどんどん近づいていき、入口の正面まで来た。
「この馬車におられる方はオリバー・ライ・ベルフィア辺境伯のご子息、フィンゼル・ライ・ベルフィア様である。門を開けよ」
ギュンターが門番にそう告げる。
「はっ!」
事前に通告はしてあったのだろう。スムーズに中に入れた。
アバディンに入ると、ギュンターが御者を降りて話かけてくる。
「坊ちゃま、馬車と荷物は屋敷まで届けるよう手配してありますので、一旦馬車を降りてアバディンを見て回りましょう」
おお!早速、街を見て回れるのか! ブリステンでは城からあまり出ることはなかったからな。町の散策はテンションが上がる。
「分かった! よろしく頼む」
俺とマリアは馬車から降りる。
街並みはやはりというべきか、煉瓦で作られた家が多く並んでおり、ちょっと歩いただけなのに剣や鎧を着た戦士風の人やローブなどを着た魔法使い風の人などを多数見かけた。
前世ならハロウィンパーティーでもしていそうな街並みだ。
「このアバディンは、城壁都市の他に冒険者の町としても有名です。町の西側には瘴気を発する谷があり、いくつものダンジョンがあります。その周辺にも沼地などの魔物が発生するエリアがあって、魔石採取には事欠かきません。北にあるスカリアの森を挟み、帝国と隣接している部分を除けばいい街です」
いい街……か。 ギュンターにとってはそうだろうな。ただ弱者からすると……
「ちなみにこのアバディンを通らずに西から迂回するには大分遠回りしないとなりません。瘴気の谷は広くて深いですからね、植物も枯れた木しかありませんし。東には海があり、これもまた迂回することが出来ず、帝国がアバディンを抜けるには北側から正面を突破するしかありません。当然、北側の防御は凄まじく固いので、帝国はこのアバディンを一度も落としたことはないんですよ! それ故に天然要塞と呼ばれているんです!」
全部本の受け売りですけど、と言いながら可愛く舌を出すマリア。
そうか。帝国は一度も抜けてないのか。ここを抜けられてなということは、ここより後ろの町には帝国は入ってきたことはないということ。
そもそもアバディンを強引に通り越して後ろの町に攻め入ったところで、アバディン兵に挟み撃ちされてしまうからな。帝国が王国に攻め入る際は絶対にアバディンを落とさないといけないわけだ。
唯一懸念されることは北側ほど防御力が高くない側面から攻撃されることだろうか。
だが防御力が高くないと言ってもそれは北側と比べての事。そこから攻め入るのにもある程度の大軍が必要となる。それが側面から攻撃するように動いていれば、絶対にその動きはこちらも察知できるはずなので、そこで手を打ってるということだ。
前世では戦争など、どこか他人事のように感じていた。しかし、他国と隣接していて、いつ戦争が起こっても不思議ではない状況にある世界に転生し、その最前線に身を置いた今。俺の意識は段々と変化していた。
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