第23話 糾弾
ギュンターが? 遠征には参加していないはずだし、楯突くも何もないだろう。
ギュンターの方を見ても何のことだか分からない顔をしている。
「貴様。私に報告していなかったことがあるだろ。私はあんな
「報告書にありました、黒く長い髪に青い鎧、そして赤いマントを羽織った男の事ですな。申し訳ありませんが、私の記憶にこのような人物は思い当たりません。ただ、赤いマントは帝国において将軍の立場にある者しか付けることを許されないもの。そのことからも将軍以上の立場にある強者、としか私には分かりかねますが」
膝をつきながらギュンターは弁明する。
「何を白々しいことを言っている! お前とその男に接点があったということは男の口から直接聞いているんだよ! 元帝国軍の裏切り者のギュンター!」
今度はオリバーの後ろに控えていた女騎士がギュンターを
元帝国軍人? ギュンターが?
ギュンターやフリーダを見ても何でもなさそうな顔をしている。マリアは驚いた顔をしていたが。
「確かに私は元帝国軍です。そのおかげで帝国遠征も序盤は上手くいったことしょう。この帝国の将軍の事は知りませんが、私の知っている知識は全てお話ししました」
「まだ、白を切る気か! こいつに騎士が何人やられたと思っている! スタンリーも殺されたんだぞ! あんなに優しく、仲間思いだったやつが!お前がちゃんと帝国の
スタンリーとかいう騎士の恋人か? もしくはすでに結婚していたのか。大分親しい間柄だったのだろう。泣きながらギュンターを糾弾する。
「スタンリー。デフォー一等騎士ですか。あの方が……。しかし、本当に知らなかったのです。 私が知る限りでは、帝国の
悲しそうに話すギュンター。口ぶりからするに、それほど親しくはなさそうだが、本当に残念そうにしている。
「ほう。それは可笑しな話だな。この男はギュンターを知っているが、ギュンターは心あたりがない。同じ帝国の軍人で勇者の力を知らないなんてことがあるのか? ないだろ? ほら、可笑しよなぁ? これではまるで、あとから勇者の力に覚醒したようではないか。元帝国軍人なれど、今は同じベルフィアに尽くす身。正直に話して欲しいものだ」
オリバーの後ろに控える、卑屈そうな男騎士がギュンターに話す。
勇者の力は、原則生まれた時から決まっている。あとから後天的に授かるなんてことは起きえない。
あるとしたら、ギュンターが抜けた後にその男が入隊してきたか、その男が能力を隠していたか。帝国はガチガチに兵を管理しているという話だから後者はなさそうか。
「ですから、何度も知らなかったと言っているではありませんか! あと、私は大恩あるヘストロア家の延いてはフリーダ様とフィンゼル様の騎士ですので、断じてベルフィアの騎士ではないということを、この場を借りて訂正させていただきます」
おお! 俺としては嬉しいが、ベルフィア当主の前で大胆に出たな。
「そうなのかね? だとしても一度は忠誠を誓ったはずの帝国を裏切っているのだ。ヘストロアを裏切ってこちら側についてもおかしくないだろぉ?」
卑屈そうな騎士がギュンターに嫌味を言う。
「ヘストロアを、フリーダ様や坊ちゃまを裏切ることは万に一つもありませんので、ご心配には及びませんよ」
「別に心配などしてはいないがね」
卑屈そうな騎士は呆れたような顔をしてギュンターから目をそらす。
「もう良いその話は。分かった。一応は貴様を信じるとしようギュンター」
意外や意外。オリバーはギュンターを許した。 もしかしたらギュンターが牢に入れられたりするかとも思ったが、その心配は杞憂だったようだ。
「ただし、もし帝国軍が攻めてこようものなら、ギュンター、貴様が責任を持って帝国軍の撃ち滅ぼすのだ。よいな?」
「は! 必ずや」
おいおい、ギュンター、そんな安請け合いしてもいいのか? たった今、自分はベルフィアではなくヘストロアの騎士と明言したばかり。ここでギュンターが出張るということは、ヘストロア家が責任を持って攻めて来る帝国軍を追い返しますよ、ということである。
「うむ。それなら良い」
満足そうにうなずくオリバー。
「あなた、そろそろ本題に」
横からミリーシャがオリバーに声を掛ける。
本題?ギュンターを糾弾することじゃないのか?
「そうだな。では昨今、我がベルフィアで問題になっている、家督争いの決闘の日にちを発表する!」
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