18.『047』(2/3)

「……依頼主は男だった。それも、『ターゲット』の恋人だったらしい」


047は話し続ける。


「聞く所によると、結婚まで考えたのに『ターゲット』にとっては、自分とは遊びだったんだと言われたらしい」


「……それもそのはず、そのターゲットの女は、金持ちで美形の男に貢がせて、豪勢に遊んで暮らしていたらしい」


「だか……金持ちに目を付けすぎたのが裏目に出たんだな、俺らの所に依頼が来た」


「内容は、愛し合った末に愛の苦しみを知らしめた上で殺して欲しいと……そういう事だった」



*



その頃、幸は家の中に居た。


(小綺麗な家だなぁー…)


キョロキョロと見回していると、視界には一つの写真立てが映る。


その中には、派手な格好で自信に溢れた微笑みを浮かべる女性が写っている。


「わっ、……きれーな人だなぁ……女優さんとかかなぁ……」


幸が思わず声に出してしまうと、


「あら、嬉しい事言うのね」


と、後ろから声がした。


「?!」


幸がびっくりして飛び退くと、そこには写真の中の人物と同じ人が居た。


写真と違うのは、普通の人のようなラフな格好であると言うところだけだ。


「あっ!写真の……」

「写真?」


それを幸が言おうとすると、その人は幸の見ていた写真の方に目をやる。


「……もう、よーひちったらまだこんな写真飾って…」


写真を見て、女の人はそう言って微笑む。


(わぁ……大人だぁ……)


幸はそんな事を思いながら女の人を呆然と眺めていた。



*



「俺は山奥に監禁されているその女の元へ向かった」


またその頃、047は話し続けていた。

そして、その頃を同時に思い出す。


「出会いは最悪。この状況からどうやって両思いになって殺してくれって言うんだって程、最悪な巡り会いをした」


『……』


047の脳裏には、下着姿で縛り付けられながらも、キッと自分を睨んで来る女の姿があった。


「……でも、あんな状況でさえあの女は自分のプライドを守り切っていたのさ。……そう、涙一つ流さずに……」


『……こんな事したって、あんた達みたいな金の無いブス共に媚び売るなんて、死んでもイヤだから』


縛り付けられてるにも関わらず、その女はそう言って足を組む。


「正直ドストライクな見た目だったから、多少性格に難があっても好きになれる自信はあったけど……あれはさすがにドキッときたね」


047の脳裏では、ニコッと笑いながら、そんな様子の女に擦り寄る自分と、それを蹴り飛ばす女が居た。


『好き♡』

『……奇遇ね、私は大っ嫌い』


「──その日から、俺の仕事が始まった」



*



「……最初は顔も見たくないくらい、大キライだったな」

「えっ……」


一方その頃、幸と女の人も昔の話をしていたようだ。


笑いながら言う女の人に、幸はびっくりしたように固まる。


「……でもね、ふしぎなものよ。一緒に暮らしてるだけで……あの男は他と何か違うって、それだけ何となく分かるのよ……」


彼女の脳裏にも、また何気ない日常の一コマ一コマが浮かぶ。


「気がついたら、だんだんイヤじゃ無くなってきてる自分が居た……」



*



「──日が経つにつれて、だんだんと気を許してくれてるのが分かったよ。……嬉しかったのより、怖かった」


047はそう言って、フッと笑う。


「あぁ、これを殺すのか……って」



*



「──ある程度距離が近づいた頃、あの男は急に村の家々を訪ねるようになって、その頃からあの男の悪い噂が広まったの」

「……悪い噂?」


女の人の言うのに、幸はキョトンと首を傾げる。


「あれ?周りくどかった?……手ぇ出して回ったのよ、あの男、女の子達に」

「手ぇ……」


そこまで言ってもいまいちピンと来ていない様子の幸に、女の人は呆れたように言う。


「手よ?手!……これはかなり重症ね……」

「?」

「……つまりね、ちょっとこっちに来てみなさい」


おいでと手招きする女の人に無垢な表情で近づく幸に、


「ひっ……!」

「……こーゆーこと」


……女の人は、酷にも堂々と腰の辺りから太ももにかけてをさすってやってみせた。



*



「当然二人の仲に亀裂が入って、関係はまた最悪に戻っていた頃……」


幸と女の人が少々脱線している間、047の話は淡々と進んでいた。


「俺の悪い噂を知りつつも、俺のスキンシップを受け入れるコが出て来ちまったんだ」


「……それで、急に逃げるのが怖くなったんだ」


047はその時の事を思い出す。


走って家まで戻り、扉を開けて目の前に居た彼女に息を荒らげながら一言、


『……キスしない?』


冗談めいた言い方で、隠すように。


『なーんちゃって……』


そう言いかけた彼の口を、彼女は自分の口で塞いだ。



*



「──それからあの男は、全てを語ったわ」


幸達の話の方も、脱線し続けず戻っていた。

……そしてとうとう、核心に触れてしまう。


「彼が私を殺さなきゃいけないことも、全部……彼は話してくれた」


(……殺す?)


幸はその言葉に小さく目を見開く。

女の人はそれに気付いてか気付かずか、そのまま続ける。


「聞く所によると、彼は『仕事』があるみたいで……」


「その『仕事』で、私を殺さなきゃいけないらしいの」


幸の脳裏には、016の姿が浮かぶ。

そして彼女の中での違和感……その何かが、決定的な女の人の一言で結び付いてしまった。


(……あ、そういう事?)

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