第三章 少年の見る者

17.『047』(1/3)

「ん、なにこれ」


道中、幸は立ち止まった。


「……お墓?」


そこにたった一つだけあったのは、お墓だ。


幸が不審そうに眺めていると、016はあまり良くない表情をする。


『──数字の入った男を探してる?』


そして、幸は先程の村の人との話を思い出した。


『そうだな……ここらには昔から住んでる人ばっかりだからなぁ……』


その村はぽつぽつと家があるだけで、学校さえ無い様な所だ。


『あ、でも一人だけ……変わった男が居てなぁ』


『ちょっと前はここらの女子おなごを口説いてばかりだったんだがね、いつだかにぴたりと止まって……今はあんたらの来た方の丘の上で墓守をやってるよ』


幸は016の方を見て口を開く。


「……あの人が言ってたの、さっきのお墓かな」

「多分ね……」


そんな会話をして2人が踵を返そうとすると、


「……驚いた」


……2人の背後から声がした。


「016の兄ちゃんじゃないのー!」


振り返ると、そこには1人の青年がいた。


016らではもう共通のような白シャツに長ズボンと言った服装に、ツーブロックの髪型。


そして何より、


「……047」

「やー、きぐうきぐう。……あれっ、もしかして俺を訪ねて?いやー、光栄だなぁー」


……明るい。


無愛想な016と幸には、少々明るすぎるくらい、明るい。


「そこのお姉さんも、どうもー」

「あっ……どうも……」


幸もそのテンションについていけないくらいに、慌てて答える。

それは幸にとって、


「……こんなに明るい人、初めて会ったかも」


と、016に耳打ちしてしまうくらいだった。


「確かに……ね」


016は幸の言葉にそう答えながらも、違和感に顔を歪めた。


(でも、それにしても……だ)


016は目の前の青年……047の方を見る。

047は口角を上げて笑っている。


(こんなに……明るいやつだったか?)


……が、少々不気味なくらい笑顔だ。


016がそれを不審に思っていると、047はやがてパッと立ち上がった。


016の目線には、彼の真っ白なシャツが映る。


「……ネクタイはどうした?」


目線を逸らしながら聞く016に、047は答える。


「ん?あぁ……」


047はスっと真顔になった後、今度は自嘲ぎみに笑って、


「……外したよ」


と言った。


「いつまでも付けてる訳にもいかないしね」

「……」


016にじっと見られて、047は016のネクタイに目をやる。

そして、また先程の調子に戻ってにっと笑った。


「ま、あれが俺のトレンドマークみたいなとこあったからねー!目立つ赤のネクタイ!……たまに家族に会ったりすると、驚かれんだけどね」


047は誤魔化すように畳み掛けるが、016も、……もちろん幸もそれに乗ろうとしないので、不満に思ったのか047は反撃するかのように口を開く。


「……そういえば、016の兄ちゃん」

「何?」


047はずいっと016に近づいて言った。


「『れいさん』、まだ探してるの?」


聞き慣れない言葉に、幸はチラッと016の方を見る。


「……いや、」


016は顔を伏せながら呟いた。


そして、頭の中にはとある光景が蘇る。





トントントン。


誰かのノックする音に、いつかの016……あの時007が思い浮かべたのと同じ、黒いピアスにチョーカーの016は振り上げた拳を止める。


振り返ってみると、手招きする黒い影。


『!』


016はわっと笑顔になり、頬を赤く紅潮させながら駆け寄る。


『────!!』


何かの名を、呼びながら。





「……もう、探してないよ」


そう言う016の表情は、驚く程に苦い。


頭の中にはまた、昔の自分の姿が蘇る。

呆然と立ち尽くす自分。


『……居ないの?』


(あれからどれくらい経つか……)


冷や汗をかきながら、016は思う。


(……僕はもう、大人になったんだ…)


『───!!───っ!!』


泣きながら地面に伏して叫ぶ016の姿。


(……ほんと、何年経ったと…)


016は表情を歪めながら首元を掻く。

その様子をまた不思議そうに見つめる幸の視線には気付かずに。


一方047の方は016の異変には気付かずに、


「そうか……もう探してない、か」


と、少し寂しげに言った。


「俺ぁよ、仕事は終えたんだけど……」


そこまで言って、047はうっすら笑う。


「心の整理がどうも……な」

「……」


016は、柄にもなくしおらしくなる047をじっと見上げる。

047は気恥ずかしくなったように視線を背けながら言った。


「……少しだけさ、俺の昔話に付き合っちゃ貰えねぇか?」


016はそんな047をしばらく見つめた後、


「……あぁ」


と言って、目を伏せた。


047はそれに「ありがと」と答えてから、幸の方に向き合う。


「……お姉さんは、何でも自由に見てていいから……あの家の中で待ってて貰えると嬉しいんだけど」

「……はい」


047が指をさした先にはずっしりと構えた丸太調の家があった。

幸が返事をしてそちらの方へ向かうと、047は016に近くの段差に座るように言い、自分も先程座っていた所に腰かける。


「……依頼主は男だった。それも、『ターゲット』の恋人だったらしい」


そして、047はゆっくりと話し始めた。

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