こんなドライブスルーは嫌だ

薮坂

コント「ぐちゃぐちゃな店員」


「あれ? こんなとこにハンバーガー屋なんかあったっけ? 仕事の外回りで腹減ったし、昼メシまだだったし、ドライブスルーがあるみたいだな。クルマだしちょうどいいや、入ってみるか」


 ブロロロロ……。


「いらっしゃいませ、こんにちは! ハンバーガーショップ『灰汁あくとナルト』へようこそ!」


「やたら可愛い声の店員さんだなぁ。店の名前、なんかラーメン屋みたいだけど。まぁいいや。すいませーん、注文したいんですけどー」


「かしこまりました! 店内でお召し上がりですね?」


「ドライブスルーに並んでる俺に言っちゃう? 俺クルマだよ、入店したら店ぐっちゃぐちゃになるけど、それ言い間違いだよな?」


「申し訳ありません! それでは、おかえりですか?」


「……多分『おもちかえりですか』って言いたかったのかなぁ! 惜しいな! おかえりだったらモチが抜けてるよモチが! もっかいモチ入れて言ってみようか!」


岡持おかもちエリですか?」


「モチを入れる位置ィ! 誰だよそれ、でもちょっと会ってみたくなるな何故か! あのね、モチを入れる場所がおかしいつってんの! おかえり、な?」


「大変申し訳ございません。当店、お餅を入れたバーガーのご用意はなくて」


「いや望んでないから! 餅を入れたバーガーってなんだよ、でもテリヤキとかならちょっと美味そうだな!」


「その代わりと言ってはですが、醤油で焼いたお餅を一度ぐっちゃぐちゃにして、そのあと海苔で挟んだ磯辺バーガーならありますよ!」


「なんでぐちゃぐちゃにするかなぁ! それ普通にしてたら普通の磯辺焼きだよな! いや俺さ、ハンバーガー食べたいからココ来たのよ。磯辺焼きはまた今度にしようかな。で、そろそろ注文いい?」


「では、お持ち帰りですね?」


「そうそうそれそれ、お持ち帰りお持ち帰り!」


「かしこまりました! それではマイクに向かって一曲どうぞ!」


「いやなんで一曲なんだよ! そこは注文だろ!」


「デデツ! デデツ! デデツ、デッデツッ!」


「ヒューマンビートボックスいらねーよ! あとかなり上手くてびっくりしたわ! でも歌わないから! ドライブスルーのマイクに向かって歌ってるヤツいたら引くわ!」


「そうですか……、いい曲聴けると思ったんですけど」


「なんで残念そうなんだよ! もういいよ、注文するから注文! お持ち帰りな!」


「かしこまりました! それではマイクに向かって自己紹介をどうぞ!」


「オレは東京生まれビックマック育ち、って違うわ! なに乗せてんだよ、自己紹介どころか一節歌っちまったYO! ていうか人を乗せるの上手いな!」


「そりゃあハンバーガー屋ですから!」


「いや何も乗せてないだろ、ハンバーガーは乗せてんじゃなくて挟んでんだよ! 全然上手く言えてないから! もうなんかぐちゃぐちゃだなあんた! でもその心意気は凄いよマジで!」


「ありがとうございます! 嬉しいです!」


「額面通りに受け取られても困るけどな! まぁいいや。なぁ、そろそろ腹減ったんで真面目に注文していい?」


「かしこまりました! それではマイクに向かってご注文をどうぞ!」


「そうそう、それだよそれ! やっと言えたじゃん、やればできるじゃん店員さん! 俺、あんたの成長見れてマジ嬉しいよ。じゃあそうだな、このカラアゲバーガーセットっての貰おうかな」


釜揚かまあげバーガーゼット、でございますか? 申し訳ありません、当店ではそのようなバーガーのご用意がなくて」


「俺の注文いつの間にかうどんになってるね! やっぱぐちゃぐちゃだな! しかもゼットてなにかな? あれかな? ドラゴンなボール的な? いや違う違う、セットだよセットォ!」


「あぁセットですか! でも申し訳ございません、お客様。当店、セットのご用意もなくて。ミットならあるんですけど」


「いやミットもないだろ! だって俺との会話のキャッチボールできてないもんな! ミットだけにな!」


「みっともない? 失礼ですがそれはハンバーガー屋で店員に文句を言うお客様では……?」


「そっちの『みっともない』じゃないって! それに文句じゃないから! ていうかホントにセットないの? バーガーと一緒にポテトとかドリンク付いてるヤツよ?」


「あぁ! そっちのセットですか!」


「セットにあっちもそっちもないと思うけどな!」


「そのセットならございますございます! ご一緒にホケキョはいかがですか? のセットですね!」


「ホケキョ! そこはかとなく春を感じるなぁ! いや違う違うポテトだよ、ポ・テ・ト!」


「オ・レ・オ?」


「ポテトだつってんだろ! ホケキョより遠いわ! ハンバーガーとポテト、そしてコーラ! これが王道のセットだろ?」


「お、怒られた……コラ! って! うっうぅ、ぐすん」


「いや怒ってねーよ! ないない、怒ってない! セットはコーラだよなって思っただけだって! なに泣き出してんだよ⁉︎」


「私、私……、何してもダメで。鈍臭くて取り柄もなくて。やっと見つかったこのお仕事も上手くいかなくて。店長にも怒られてお客様にもクレーム頂いて。もうダメなんです。私なんて生きてても……」


「いやいやそんなことないだろ? あんたにも取り柄はあるハズだ!」


「ぐすん。どんなところですか……?」


「ええとほら! さっきのヒューマンビートボックス! あれは凄かったなぁ! 思わず歌いそうになった、ていうかちょっと歌っちゃったし! な? キミにも凄いところはあるんだって!」


「ほ、本当ですか? 私、生きてても良いんですか……?」


「もちろんだって! キミには生きてもらわないと俺が困る! な? だからもう少し頑張ってさ、俺の注文を通してくれよ!」


「……かしこまりました。私、頑張ります! ではご注文をもう一度どうぞ!」


「よし行くぞ! カラアゲバーガーセットがひとつ、サイドメニューはポテト、ドリンクはコーラのMサイズだ!」


「ご注文、繰り返します! ナマハゲバーガーZがひとつ、サイドメニューはモレノ、ドリンクはオーラのNサイズですね?」


「ぐっちゃぐちゃだな! カスリもしてねーよ! 言葉の響きさえ元から遠いわ! それにモレノってなんだ、ルビー・モレノか? 俺でさえ詳しく知らねーよ! あとNサイズって何⁉︎」


「うっうぅ、すびばぜん……。ノーマルサイズのNですぅ……」


「あるのかよ! いやゴメン、ちょっと強くツッコミすぎたわ。もう食えればなんでもいいからさ、適当に見繕ってよ。もう正直疲れたわ」


「かしこまりました! では磯辺バーガーセット、サイドメニューはポテト、ドリンクはコーラのMサイズでご用意いたしますね!」


「それは言えるのかよ‼︎」


「お客様、ありがとうございました。私、お客様に鍛えられて、これからも何とかやって行けそうな気がします!」


「お、おう……いきなり復活か。気分の上げ下げ凄いな」


「なのでお客様に私の初めてのアレを贈りたいと思うのですが、よろしいですか?」


「え、なに……? なんか怖いんだけど」


「私のスマイル、0円です! どうぞ!」


「……いや顔見えねぇよ! マイク越しだよ俺たちは! せめてそれ商品受け渡しの時にやれよ!」


「あ、それはちょっと。涙で顔がぐちゃぐちゃなので」


「意味わかんねぇよ! なんでスマイルしたんだよ! マジでやってることぐちゃぐちゃだな、あんた!」






【終】

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こんなドライブスルーは嫌だ 薮坂 @yabusaka

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