外れスキル『ミキサー』でスライムを混ぜてみよう
最早無白
外れスキル『ミキサー』でスライムを混ぜてみよう
春になると、教会には子ども達の行列ができる。なぜかは分からないが、この街の住民は十歳で『スキル』というものが授けられる。
手から炎を出したり、剣を錬成したり。大人達はそんなかっこいいスキルを駆使し、日々の生活を営んでいる。
なんの取り柄もない僕でも、そんな大人達の仲間入りができる気がして。神様はこの目には見えないけど、ちゃんと見てくれているんだろうな、って思える。
「次の方、ヴェル・セレナードさん。どうぞ~」
僕の番だ。ここで絶対いいスキルを授けてもらって、母さんに楽をさせてあげるんだ……!
「え~と、あなたのスキルは『ミキサー』でした。どうやら『左右の手で持った二つのものをかき混ぜられる』らしいですねぇ。ぶっちゃけ、外れですね!」
「はずれ……そんな、嘘でしょ……」
半泣きで教会を後にする。いくら外れだからって、みんなに聞こえるような大声で言わなくてもいいじゃないか。
これからどうしようかなぁ。今まで以上に剣術を磨くしかないか?
「きゃ~! スライムやだ、あっち行って~!」
女の子の悲鳴が聞こえる。この辺りにいるスライム類のモンスターは、確かアーススライムだけのはず。小さいし、攻撃しなければ特に危害はない。いくら外れの僕だって、スライム相手ならあの子を守れるかもしれない!
「大丈夫ですか!? 今助けます!」
走ってきた僕の足音と声に怯えて、スライムは逃げていく。どうやら女の子も無事なようだ。
「助かったわ。あたしはトワ・リアス、これも何かの縁かしらね。とりあえずよろしくね」
「ヴェル・セレナードです。大丈夫でした……?」
「おかげさまで。襲いかかってくるモンスターがどうも苦手でね……」
「確かに怖いですよね。強いスキルがあればまた違うんですかねぇ」
ミキサーじゃなぁ……。本当に心もとなすぎるよ。
「あなたには何かお礼をしなければね。例えば、欲しいものとか」
欲しいものったって、思いつく限りはお金か安定した将来しかない。そんなのトワさんに言えるわけないし、言ったところでどうにかなるはずもない。
「あなた、見た感じあたしと歳が近いようね。学費の援助なんてどう?」
「学校なんてそんな贅沢な所、行ってないですよ。さっき授かったスキルも、シスターさんお墨付きの外れでしたし……」
「ふぅん、それって本当に外れなのかしらね。たかだかシスターの一意見でしょう? ちょっと見せてみてよ」
――確かに。ただ『外れスキル』と言われただけで、まだ実際には使っていない。何か手のひらサイズのものがあればミキサーを試せるが、それらしいものは周りにない。
「って、またスライムが来てるんだけど! しかも二匹!」
見ると、さっきのと同じアーススライムが二匹、トワさんの元へゆっくりと進んでいた。
「アーススライムが二匹……いちかばちか! ミキサー!」
スライムを抱え、ダメもとでスキル名を叫ぶ。本当に外れかどうか、コイツらをかき混ぜて証明してみろ……!
次の瞬間、手の平の上で強烈な風が吹き荒れる。それはスライムを切り刻んでいき、やがてぐちゃぐちゃとした塊へと変化した。
「風でスライムをかき混ぜた、のか?」
「ほら、なかなかのスキルじゃないの。ほんの小さなアーススライムから『スライムの素』がこんなに獲れた、ギルドに納品すれば二日は暮らせるでしょうね」
外れスキルも使いようだな。直接触れていい小型モンスターなら
「――ねぇ。そのスライムの素、わたくしに譲ってもらえるかしら?」
「え? 何かに使うんですか?」
「ええ。わたくしのスキル絡みで。わたくしの『テイム』は、血をつけたモンスターを意のままに操れるの。強力なんだけど、モンスターと対面したら取り乱しちゃってね……」
スキル自体が『当たり』でも、使い手の都合で外れになり得る。これまた難しいものだな。
「スライム類は、スライムの素同士で集まることで生き返る習性があるの。つまり素の状態で血をつけたら、生き返ったスライムを使役できるの……!」
襲いかかるモンスターが苦手なトワさんでも、これならテイムができるようになる。スキルは実際に使ってみて初めて、当たり外れが決まる。
「だからさ……もしよかったら、あたしと組んで!」
こんな外れスキルでも、トワさんのスキルをもっと輝かせられるかもしれないんだ。本当に外れかどうかは、僕達が決めることなんだ……!
「ええ、もちろんです!」
外れスキル『ミキサー』でスライムを混ぜてみよう 最早無白 @MohayaMushiro
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