サーモンピンクになりたくて【KAC20233参加短編】

うり北 うりこ

サーモンピンクになりたくて


 いろんな色を混ぜすぎると暗ったくなって、どんどんキレイな色じゃなくなる。それなのに、なぜ混ぜるかって? そんなの思い描いた色になるためだ。


「なぁ、何だそれ?」

「何って失敗したに決まってるじゃん。そんなことも分からないの?」

「相変わらず可愛くねーな。で、何色にしたかったんだ?」

「……サーモンピンク」

「はぁ!? どう見たってドブ色じゃねーか」


 うるさい。可愛くないことも、サーモンピンクじゃないことも私が一番分かっている。どうにかしようと思ったら、こうなってしまったのだ。


「……リクには関係ないんだから放っておいてよ」

「あっそう。せいぜい頑張れよ」


 そう言って去っていく背中を見て、大してない胸がじくりと痛む。私とリクは軽口を言い合うだけのクラスメイト。

 あいつの好みは笑顔が可愛い胸の大きな、色でいうとサーモンピンクみたいな女の子。私とは正反対の。

 今だって、クラスで一番可愛いサーモンピンクがピッタリの女の子と楽しそうに話してる。


 気持ちを切り替えるように、もう一度絵の具を混ぜる。どんどん汚い色になるそれを直そうと色を入れていけば、またドブ色が完成した。


 はぁ……。


 思わず出たため息。どうして私の色はキレイにならないのか。私はドブ色なのか。



「うわ、またドブ色作ったのか? ほら、これとこれでできるってさ」


 あんな言い方をしてしまったのに、私に向かってリクはピンクと黄色の絵の具を差し出してくれている。


「なんで……」

「あのままじゃ、一生完成しないだろ?」

「いつかできたし」

「そうかぁ?」


 そう言いながら一緒にサーモンピンクを作ってくれる。


「……ありがと」


 どうにか絞り出した言葉にリクは「どういたしまして」と笑う。


 理想の色ができたのに、私の心のなかは浮かれたサーモンピンクと汚いドブ色でぐちゃぐちゃだ。

 それでも、キレイなサーモンピンクを目指して混ぜ続けるのだ。ぐちゃぐちゃと。

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