呪われたぬいぐるみ【KAC20232】第1回「ぬいぐるみ」(読み切り短編)

ライキリト⚡

ある日


 森の中でぬいぐるみに出会った。


 布が裂け、綿が飛び出し、ボタンの目が緩んで揺れていた。

 ボロボロのクマのぬいぐるみだ。


(あら……? なんでこんな森にぬいぐるみが……?)


 正直に言うと気味が悪かった。

 

「えっ?」


 見間違いだろうか。

 いま、ぬいぐるみの手が動いた気がした。


「ア゛」


「えぇっ!?」


 気のせいだろうか。

 いま、ぬいぐるみから声が聞こえた気がした。


 それも地獄の底から響くような恐ろしい声が……


「気のせい……ですわよね……」


「いや気のせいじゃないっす」


「きゃあああああああああ!?!?」


 やっぱり喋ってる!!

 っていうかなんかノリ軽くない!?


「あの、自分ちょっと困ってて。一発キスしてもらっても良いっすか?」


「えええええええええええええええええええ!?!?!?」


 いくらなんでも軽すぎますわよ!?


「まぁ別にいいですけど」


 私も軽かった。


「あざっす。マジ感謝っす」


 正直、もうどうでも良かったのだ。


 今朝、急に婚約者から婚約を破棄されて死刑宣告を受けた私はなんとか城から逃げ出してこの森までやってきたのだ。

 私は幼い頃から仲良しだと思っていた妹に全てを奪われたのである。


 もう何もかもがどうでも良かった。


 Chu!


 クマのぬいぐるみの鼻に口をつけると、なにやらすごいことになってクマは超絶美形イケメンに変化した。


「マジ感謝……キミのおかげで呪いが解けたぜ。俺はこの国の真の王子……悪い魔女の呪いでぬいぐるみにされていたんだぜ!! 結婚しようぜ!」


 なんか別の方向でノリがおかしくなった超絶美形イケメンはそのまま国に戻り正統な王位を継いだ。

 そして王子と結婚した私は王妃になった。


 私を死刑にしようとした婚約者と妹は死刑になったし、国の景気は良くなり民衆の支持は歴代最高になって全ての人たちから愛された。


 そして私たちは末永く幸せに暮らしましたとさ。


 めでたしめでたし……








それが私が最後に見た夢だった。

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