第9話 模擬戦の続き

「それじゃあ、いつぞやの続きをしましょうか」


 魔剣を構えるレティシア。


 マジかよ……。


 さっきの今で連戦か。


 蠱惑的な笑みを浮かべるレティシアの背後で、子グモが音もなく忍び寄る。


「あなたのスキルを見せてもらったんだもの。私も見せないとフェアじゃないわね」


 レティシアの魔剣の宝玉から禍々しい光が放たれる。


「<邪神礼讃>」


 レティシアの影がゆらりとうごめく。


 影の中から無数の手が伸びると、子グモたちに襲い掛かった。


 音もなく握りつぶし、引き裂き、押しつぶす。


 圧倒的な手数による、一方的な蹂躙。


 これが、レティシアの魔剣……。


『面倒なことになったな』


 普段は傲慢なベリアルからも、どこか焦りの色が見える。


 単純な手数もさることながら、レティシア本人の剣術もなかなかの腕前だ。


 連戦であることを差し引いても、勝てるかどうか……。


『<超重領域>で天井を崩せば、逃げられるかもな』


 いくら相手が手練れとはいえ、逃げに徹すればまだ芽はあるかもしれない。


 先ほどまでここで戦っていたのだ。


 地形は把握しているし、そうでなくとも<超重領域>で壁なり天井を崩せば、あるいは逃げ延びることができるかもしれない。


 ベリアルの言う通り、この場は逃げに徹するのがベストな選択なのかもしれない。


 だが……


「……逃げて、どうするんだよ」


『……なに?』


「逃げて逃げて逃げ続けて、その後はどうする。こっちが万全じゃないから。相手が強そうだから。勝てなさそうだから。そうやって逃げ出した先に、俺たちの求めるものがあるのか?」


『お前……』


 いまここで逃げ出してしまっては、きっと俺は一生言い訳をし続ける。


 調子が悪かった。時期が悪かった。まだ力が足りないから。


 そうやって自分に言い訳を重ね、機会を逃がし続ける。


 だから逃げ出すわけにはいかない。


 最強の魔剣使いになるという目標を掲げている以上、ここで背を向けるわけにはいかない。


 覚悟を決めると、キッとレティシアを睨みつけた。


「作戦は決まったのかしら?」


「ああ。おかげさまでバッチリだ」


『待て。なんのことだ。聞いてないぞ!』


 俺の軽口にベリアルが抗議する。


 こちらは連戦で疲弊しており、魔力と体力は残り少ない。


 対して、相手は気力体力共に万全の状態で、長期戦でも戦えるだけの力を持っている。


 ならば、こちらがとれる選択肢はただ一つ。


 ……最初から全力で、速攻で倒す!


 俺が剣を構えると、レティシアも剣を構える。


 俺とレティシア、両者がにらみ合いを続ける中、風にさらわれた枝葉から一滴の水滴がこぼれ落ちた。


「<邪神礼讃>」


「<超重領域>」

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