盲点だった
「鈴々菜、気持ちいい?」
美菜璃が私の頭を洗いながら、そう聞いてきた。
「……普通」
楽ではあるけど、自分で洗うのと特に変わりはないと思ったので、そう答えた。
ただ、瑠奈に洗ってもらうよりは気持ちいいかな。……瑠奈の方が下手とかそういう話じゃなくて、私の気持ちの問題で、あの時はそういうことを考えてる暇がなかったから。……嬉しさで言ったら圧倒的に瑠奈にしてもらう方がいいけど。
「んー、終わったから流すね」
「ん」
そう言われた私は、目を閉じてシャンプーが目に入らないようにする。
「じゃあ、次は体洗ってあげるね」
「……背中だけだから」
「分かってるよ」
分かってるなら、体を洗うなんて言わないで欲しい。普通に背中を洗うでいいでしょ。……美菜璃のことだから、訂正しなかったらほんとに前まで洗われてたかもしれない……危なかった。
そう考えながら私は、タオルを自分の体から取った。……まぁ、友達だし、見られても恥ずかしくない。
ふと、タオルを取った私は美菜璃の方を見ると、美菜璃は自分の手にボディソープをつけ出していた。
「え……手で洗うの?」
「そうだけど……逆に何で洗うの?」
「……洗うタオルみたいなやつ」
洗うタオルみたいなやつって意味わかんないことを言ってるかもだけど、なんとなくは分かってくれてるはず。
「ないけど。鈴々菜は持ってきてるの?」
「いや……」
どうしよう。普段お風呂屋さんとか来ないから、完全に盲点だった。
普通のタオルは貸してくれてるみたいだけど、洗う様の奴は貸してくれてたりしないもんね。
「……やっぱり自分で洗う」
「え……」
流石にそれはまずいと思った私は自分で洗うことにしたんだけど、何故か美菜璃は不満そうだった。
「……何」
「いや、だって、せっかく鈴々菜の背中洗えると思ったのに」
「……自分の背中を洗えばいいでしょ」
「友達と背中洗いっこがしたいって言ったじゃん。……それに、鈴々菜の背中綺麗だから、触ってみたいと思ったんだよ」
美菜璃は何を言ってるんだろう。……私の背中が綺麗って……綺麗の基準低すぎでしょ。
「……ともかく、自分で洗うから」
「……洗いっこは?」
「しない」
「……でも、背中触るだけだよ?」
それはそうなんだけどさ。……瑠奈にバレたら――てのはもう今更か。
……美菜璃に対する上手い言い訳も思い浮かばないし、もういいや。……美菜璃の表情が、なんか凄い悲しそうだし。……そんなに洗いあいっこがしたかったのか。……私以外に友達作ればいいのに……と思わないでもないけど、なにか事情があるかもしれないし。
「……もうさっさと洗って」
「いいの?」
「ん」
私が頷くと、ボディソープを塗った美菜璃の手が、私の背中に触れ、洗ってくれる。
……くすぐったい。早く終わんないかな。
そう考えていると、美菜璃は人差し指一本で私の背中を下から上になぞるようにしてきた。
思わず私は背筋が伸びてしまう。
「……何、してるの」
「いや、鈴々菜が何か我慢してるみたいだったから、くすぐったいのかなと思って」
全然理由になってないし。
「……もう終わりってことでいい?」
「もうちょっと」
はぁ。……ため息を履いて、美菜璃にまた背中を洗ってもらう。
「鈴々菜ってくすぐりとか弱いの?」
「知らない」
くすぐられたこととか無いし。
「終わったよ。前は自分で洗うんだよね」
「当たり前でしょ」
「じゃあ、私は頭洗っとくね。終わったら、背中洗ってよ」
「分かった」
美菜璃が隣に座ったのを見た私は、自分の手にボディソープをつけ、自分の体を洗った。
胸を洗う際に、瑠奈に触られたことを思い出して恥ずかしくなったのは、美菜璃にバレてないはず。
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