罪悪感

 瑠奈に見送ってもらい、家に帰った私は直ぐに着替えを持ってもう一度家を出た。お風呂屋さんに向かうためだ。

 

 お風呂屋さんに向かって歩いていると、ポケットに入れてあるスマホが震えた。……瑠奈からのメッセージかもしれないから、直ぐにスマホを取り出して確認した。

 別に瑠奈からのメッセージじゃなくても直ぐに確認するけどさ。気がついてたらだけど。


【もう帰れた? ……電話していい?】


 そう、瑠奈からメッセージが来てた。

 今日……と言うか、今じゃなかったら嬉しかったんだけどな。

 ……なんて返そう。まだ着いてないって言う? だめだ。そんなこと言ったら、着いたら電話してって言われちゃう。


【着いたけど、電話は無理】


 色々考えた結果、今は断ることにした。


【なんで?】

【夜ならいいよ】

【なんで今はだめなの?】

【お母さんの手伝い】

【……じゃあ、夜にかけるね】


 罪悪感が……瑠奈に嘘をついた罪悪感が。……そもそも罪悪感以前に、また嘘がバレたら変な勘違いされたり、怒られたりしそうだなぁ。……やっぱり正直に言おうかな。でも、もういっぱい嘘ついちゃったしな……


 そうやって、色々と考え、自分に言い訳してるうちにお風呂屋さんに着いた。

 

「あ、鈴々菜」


 お風呂屋さんに着いた私に、そうやって美菜璃が声をかけてきた。


「え、美菜璃……なんで?」

「なんでって、お風呂に入りに来たんだけど」


 ……瑠奈にバレたら、刺されそう。……だってこんなところで美菜璃に会ったら、たまたまなんだけど、瑠奈から見たら完全に浮気じゃん。

 いや、友達とお風呂に入るだけって考えれば……だめそうだね。


「鈴々菜は?」

「……私もお風呂」

「奇遇だね。よく来るの?」

「いや、今日はたまたま」

「ふーん。まぁいいや、じゃあ一緒に入ろ」


 瑠奈のことを考えると断りたい。でもここで断ったら、美菜璃がお風呂を上がるまで待たなくちゃいけなくなっちゃう。……私が断って、美菜璃に私が上がるまで待ってもらうなんてありえないし。


「……分かったけど、瑠奈には言わないで」

「古沢さんに? 別にいいけど」


 私がそう言うと、美菜璃は不思議そうにしながらも頷いてくれた。

 私が言わなくても、瑠奈が美菜璃を一方的に嫌ってるから、喋ることなんてなく大丈夫だとは思ったけど、一応そう言っておいた。


 美菜璃と一緒にお風呂屋さんの中に入った私は、脱衣所で服を脱ぐ。その隣では美菜璃が服を脱いでいる。

 瑠奈の前……好きな人の前だと恥ずかしいけど、美菜璃の前……友達の前だといくら見られようと恥ずかしくは無い。


「鈴々菜の胸、綺麗な形してるね」


 ……見られること自体は恥ずかしく無いけど、そんなこと言われたら、少しだけ恥ずかしいんだけど。

 そう思った私は、特に何も言わずにタオルを体に巻いた。……多分上手く巻けたと思う。


「あ〜」

「変な声上げないでよ」

「いや、隠すから」

「……隠すでしょ。そういう趣味ないし」

「まぁいいや。早く入ろ。背中洗ってあげるよ」

「自分で洗うけど」

「友達と背中洗いっこってのしてみたいんだよね」

「……はぁ。じゃあ、背中洗わせてあげるから、頭も洗って」

「分かった」


 楽だからと思ってそう言った。……美菜璃は友達だし、瑠奈の時みたいに恥ずかしいっていう感情は出てこないだろうけど、本当に浮気をしているような気がしてくる。


 ごめん、瑠奈。

 そう心の中で瑠奈に謝りながら、明日会った時は優しくしようと私は思った。

 

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