1『彼女がチート過ぎる』

第1話 主人公の俺よりもチートな彼女

「……ん、ん?」


 なぜか、気付いたら見知らぬ森の中で寝ていた。


「どこだ、ここ?」

「ん? ふぁー、おはよ〜、あきくん」

「おはよう、じゃないよ」

「あれ? ここどこ?」

「森、だな。全く記憶にない森だ」


 どうして、俺たち森なんかにいるんだ? 確か、俺たちは卒業式を終えて、記念にどこかに二人で食べに行っていたはずだ。……そうだ! 思い出した。ヒビだ。あの超常現象のようなヒビに吸い込まれて……あれ、そういや、吸い込まれる前、誰かの声が聞こえてたような?


 記憶を辿り色々思い出していると、隣で優奈が騒いでいた。


「見てみて、あきくん。なんか突然半透明な板が現れた」


 そう言われ、優奈が指差す方を見るが、俺には木しか見えない。


「寝ぼけているのか?」

「見えないの? なんで? あっ! もしかして、これをこうしたら……どう?」

「だから、見え……た! なにこれ!?」


 木しか見えなかった視界に、突然半透明な板が映った。

 そこには、『名前』『種族』『魔術』『加護』と映し出されていた。

 どこかで、こういうのを見た記憶がある。確か――


「ステータス。おっ!」


 そう言うと、俺の前にも優奈と同じ半透明の板……ステータス画面が映し出された。優奈には、俺のステータス画面が見えていないらしく、優奈に教えて貰い、優奈にも見えるようにした。

 どうやら、何もしないかったら、他人にはステータス画面が見られないらしいな。


「なんか……俺と優奈違うな」


 具体的に言えば、能力は俺の方が多い、がしかし、優奈の能力は一つしかないが、閃きさえあれば幾らでも増やせそう能力だった。

 そして、加護の数だ。優奈は俺の倍以上に加護を持っていた。

 なんというか……俺はモブで、優奈は主人公と言った感じだ。

 あれ? おかしいな、この小説の主人公は一応俺のはずなのに。


「ほんとだね、なんか私の方が特別感あるね」

「なんだよ、魔術創作って。思いっきりチートじゃねーか。それに、加護の効果も豪華過ぎだろ」


==========

〔ステータス画面:晃の場合〕

名前:赤石晃 性別:男 年齢:十八

種族:人間

魔術:火球・水球・風球・雷球・地球・回復・鑑定

加護:魔力の鬼・怠惰の心・虚飾の心


〔加護効果〕

魔力の鬼:人より何倍も魔力が多くなる

怠惰の心:怠惰の悪魔の力。魔力回復が人より早くなる

虚飾の心:虚飾の悪魔の力。敵意を見抜く



〔ステータス画面:優奈の場合〕

名前:蒼羽優奈 性別:女 年齢:十八

種族:人間

魔術:魔術創作

加護:魔術の女神・愛の化身・嫉妬の心・憤怒の心・色欲の心・傲慢の心・強欲の心・暴食の心・憂鬱の心


〔加護効果〕

魔術の女神:オリジナル魔術を創れる

愛の化身:恋人または伴侶・僧侶がいると全体ステータス大幅アップ

嫉妬の心:嫉妬の悪魔の力。水属性の威力上昇

憤怒の心:憤怒の悪魔の力。火属性の威力上昇

色欲の心:色欲の悪魔の力。性属性の威力上昇

傲慢の心:傲慢の悪魔の力。地属性の威力上昇

強欲の心:強欲の悪魔の力。風属性の威力上昇

暴食の心:暴食の悪魔の力。魔力吸収が可能になる

憂鬱の心:憂鬱の悪魔の力。雷属性の威力上昇

==========


 と、言った感じだ。改めて、見てもらって分かると思うが、俺よりチートであり、ザ・主人公なのだ。

 これは、あれか、優秀さか。頭の良さか。確かに、優奈は頭も良いし、運動もできる。それに比べ、俺は頭は平均で、運動は無理ゲー。


 まさか、異世界で、しかもこんな形で比べられることになるとは思いもしなかった。ま、そもそも、異世界に転移するなんて思いもしなかったけど。


「なんか、名前を押したら、さらに出てきたよ。えーと『魔術才能:超人』だって。あきくんはどう……えーっと、才能は頑張れば伸びるよ! うん!」


 珍しく、いつも俺が何を言っても肯定する優奈が、反応に困っている。無理もないだろ。だって、俺の魔術の才能――『魔術才能:努力』だもん。

 なんだよ努力って。“凡人”ですらない、“努力”だ。もう、意味が分からん。


「はぁー」


 最初は、何がなんやらで頭がこんがらがって何も理解出来なかったけど、ここが異世界で、剣と魔法の世界だと分かった時は、内心少しワクワクしていた。

 漫画、アニメ、ラノベ二次元の中だけだと思っていた出来事が、実際に起きたのだから。

 これから、チートをバンバン使って、恐ろしい魔獣を倒したり、厄災を止めたり、魔王なんて倒して世界の勇者なんかになれると思ったりした。


 けど、現実はそう甘くなかった。

 ステータスを見てみれば、魔術は初歩も初歩中の魔術だけで、加護も少ないし、その効果も役に立つのかよく分からん。

 なんだよ、人より魔力が多いって。初歩中の初歩魔術で、そんなに魔力消費しないだろ。

 なんだよ、人より魔力回復が早くなるって。対して減りもしない魔力の回復が早くなったって意味ないだろ。

 なんだよ、敵意を見抜くって。見抜いたからなんだよ。仮に敵意があったとしても、俺に倒せないだろ。


「はぁー」


 さっきから、ずっと溜息ばかり出ている。優奈も困っているし、ちょっと一人で考えよう。

 こんな暗い気持ちでいても、優奈を困らせるだけだ。


「ちょっと一人になってくる」

「危ないよ? 私も一緒に」

「大丈夫だよ」

「でも、もし、怖い魔獣とかいたら……」

「弱い俺には倒せないってか?」

「え? ちが、違うよ」

「優奈はいいよな。魔術の才能があって、オリジナルの魔術を造れて、加護も豪華で……ほんと、ズルい」

「あきくん……」


 最低な彼氏だ。これは、完全に八つ当たりだ。嫉妬だ。

 流石の優奈も、こんな俺に幻滅しただろうな。はぁー、はは……ほんと、異世界に来てから溜息しか出ていないや。


♡♡♡


 優奈一人残し、俺は頭を冷やそうと森の中を歩いていた。

 川を見つけ、手で水を掬い、口に含んだ。


「ふぅー」


 喉も潤い、だいぶ頭が冷えた。よし、優奈の所に戻って、ちゃんと謝ろう。


 現実を受け入れ、優奈の所に戻ると、そこに優奈の姿はなかった。


「優奈?」


 まさか、本気で俺に呆れて、一人でどこかに行ってしまったのか……?


「は、はは……」


 仕方ないよな。どんな彼女だって、自分勝手でこんな訳も分からない場所に放置するような彼氏なんていらないだろ。


「しゃーない、一人でがんば……」

「きゃー!!」

「優奈!!」


 離れた所から優奈の悲鳴が聞こえてきた。何かあったのか!! 急がないと!!

 嫌われていても、もう顔も見たくないと思われていても、見損なわれてもいい、優奈は俺が守るんだ!


 急いで悲鳴が聞こえてきた方に向かうと、優奈の姿はすぐに見つかり、優奈は猪の魔獣に襲われそうになっていた。


「優奈!」

「あきくん!」

「フゴフゴッ」

「なんで、スキルを使わないんだよ!」


 魔術創作なら、どんな魔術も創れるはずだ。それに、魔術才能も超人ときた。なら、こんな猪ぐらい倒せるはずだ。

 それなのに、どうして優奈は魔術を使わない。


「使えないの」

「使えない? どういうことだ?」

「なんか、使おうとしたら、魔力? が足りないって」


 魔力が足りないだと? 確かに、スキルを使うには魔力が必要だ。優奈レベルのスキルなら、多くの魔力を消費しそうだが、それなら、それ相応の魔力量を持っているはずだ。

 いや、待てよ。もし、優奈が俺の逆だとすれば、どうだ?

 つまり、俺は魔力は大量にあるのに、魔術の才能がなくて初歩の魔術しか使えない。それの逆――魔術の才能はあるのに、それに見合う魔力量を持っていない。だから、どんな最上級魔術が使えようと、魔力が無ければただの飾りだ。


「お互い、足りない部分を持っていたのか」


 なら、その足りない部分をお互い補うことができないだろうか?

 俺が持て余した大量の魔力を優奈に与え、優奈が持て余した魔術を放つ。


 どうすればいい、よく考えろ。こういうのは俺の得意分野だろ。

 俺はここに来てからの記憶を脳内で再生し、どこかにこの場を突破するヒントが隠されていないか探す。


 ステータス、能力、加護……加護! 確か、優奈の加護に魔力を吸収できる加護があったはずだ。


「優奈! どうにかして、俺の魔力を吸収できないか!」

「わかんないよ、あきくん。どうしたらいいの」

「どうしたらって……」


 吸血鬼なら噛み付いて吸収ドレインするものがあるが、優奈は人間だ。

 他には、魔力を吸収する魔術を使って吸収する方法があるが、そもそも持っていない。


 魔力吸収が可能になる――加護は、スキルと違って、常時発動している力だ。なら、どうにかすれば、勝手に魔力を吸収してくれるのではないか?

 どうやって? 直接俺から優奈に魔力を流す、吸収させるには……キス?

 昔、何かのアニメで、キスで味方に力を分け与えるのを見たことがある。試してみるか?


「優奈、こんな状況だけど……キス、していいか?」 

「……うん! 私は、あきくんが求むなら何時でも何処でもどんなときでも応えるよ」

「ありがとう」


 俺は優奈にキスをした。猪に襲われそうになっているからか、すごくドキドキするキスだった。


「んちゅ……なんだろ、力が、湧いてくる」

「多分、それが俺から吸収した魔力だ。今なら、使えると思うぞ」

「わかった」

「ふごふごふご!!」

「湧き上がる恋の炎――ラブフレイム!!」


 なんちゅー、スキル名だよ。けど、その火力は凄ましかった。

 優奈から放たれた炎を正面で食らった猪は、丸焼けとなり即死だ。


「やった! 倒したよ! あきくん!」

「ああ、やったな。優奈」

「あきくんのお陰だよ。助けてくれて、ありがとう」

「俺は別に……それより、こんな危険な森に放置して、危険な目に遭わした俺を嫌いになってないのか?」

「うん? どうして、私があきくんを嫌いなんかになるの? 私は、笑っているあきくんも、怒っているあきくんも、拗ねているあきくんも、どんなあきくんも大好きだよ♡」

「優奈……。ごめん、それからありがとう」

「うん!」


 仲直り、と言っても、多分優奈に喧嘩していたつもりはないだろうが、取り敢えず仲直りという形になり、俺たちは改めてこの異世界をどう生きるか、そしてどうすれば元の世界に帰れるか考えることにした。

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