テイク5 神という大きな存在

(対面で告白じゃなくても良いのかよ! 無駄に大声出しただけで死んだんだが?)


 今度は向き合って話さずとも死ぬと来た。嗣の視界に入っていない状態であってもその声を聞いたら死んでしまう。これがゲームなのだとしたら難易度の激ムズ設定を軽く超えているよね。


 暗闇に立つ嗣はぼーっと目の前の映像を眺めた。


『惜しかったの~』


 死ぬ度に神に嘲笑われる。五回目にもなれば嗣は慣れたものだ。


「はいはい。そうだね、惜しかった、惜しかった」


 忙しい母親が子供を適当にあしらうように嗣も神を相手にしなかった。棒読みで大人な対応を見せる。

 嗣は自分の世界へと入り、対策を練るようにした。


『おい! おい! おい! 無視すな! コラ! コラって! おい!』

 嗣が無視を貫くと、神の語気が段々と荒くなっていくのが分かる。何だか子供っぽくておかしい。

「ぶっ、まじで神かよ?」


 かまちょ過ぎて嗣は思わず噴き出して笑った。認めたくないけど、何か……可愛らしい部分があるようにも思える。いや、自分自身をこんな目に遭わせてる神が可愛いとか認めない。

 ——嗣は結局そう結論付けた。


(何の話だったっけ?)

『わしはいつでもお前を生き返らせないように出来るのだぞ?』

「はい、すみませんでした」


 神の脅しに嗣は急いで座って正座した。土下座までして許しを請う。命を盾にしてくるなんて卑怯だ。嗣は神に従順になるしかなくなる。


『ふふーん。それで良いのだ! わしにひれ伏せバカ者がっ!』


 神はそれで満足したのか、ニヤッと気色の悪い笑みを浮かべて偉そうに胸を張った。

 嗣は内心黙れクズ神が、と思いつつも神につき従う。神の機嫌を損ねれば嗣には命はないので、仕方のないことである。いつか仕返し出来ればなんて淡い期待を思い描きながら再び土下座した。


(ああ、まじで腹立つこのじじい。早く死なないかな)


 心の中で何を思っても自由だ。嗣は唯一ストレスが発散できる心で思う存分吐いた。外には出せないので、自分の中にもやもやが留まったままなのだけど、そればかりはしょうがない。


「それでそろそろ……」

『ああ、分かっておるわい。そう焦るな』


 嗣は早く現実世界で生きたくて生きたくて仕方がなかった。よく分からない暗闇の世界で嫌いな神と二人喋っていても何にもならない。どころか気分を害する。

 だから早く現実世界に戻りたかった。そこで生きる糸口を見つけて生き延びられたのなら尚良いことだ。それが一番の目標である。


(俺は負けない。誰一人として)

『カチカチカチ』


 また時計の音。



———



 すぐに起き上がった嗣はもう一度大声で場を支配することにした。最初は上手くいったのだ。彼女らを支配すれさえ出来れば上手くいくのではないかと考えていた。

 いつの間にか教卓に教師がいなかった。時刻九時三十分。


(あれ?)


 ふと嗣は付近を一周見渡した。本当に付近。体に触れるものがあったからだ。


「え? 何で?」

「「「「嗣君がこっち見た~。可愛い~! きゃーー」」」」


 黄色い声援、視線が近くで飛び交った。これは…………まずい。非常に。


「「「「好きです! 付き合って下さい!」」」」


 止めようとしたが、間に合わない。何も抵抗も出来なかった。


「あ……」


【バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】

 

 情けなく漏れ出た一文字だけをその場に残し、いつの間にか近くにいた彼女らに告白されて死亡した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る