テイク3 天国の世界

(え? え? 同時に告白を受ける事での死亡じゃないのか?)


 新情報に嗣はパニックになった。

 あまりにも呆気ない。その時間僅か三秒にも満たなかった。生存時間が三秒ってなんでしょうか? それこそ頭おかしいんじゃないでしょうか?

 テイク2で分かったこともある。おそらく何人であっても付き合ってください、と言われた瞬間、死亡が確定するのだろう。


『あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、さっきよりすぐ死んだじゃないか。あー面白いぞ』

「また、あんたか」


 再び嫌な顔の神が現れた。手を叩きながら無様に笑っている。

 性格も最悪。この神は能力が凄いだけなのか。

『もう一回チャンスをくれてやる。もっとわしを楽しませてくれ』

 もう完全神は嗣を遊びの道具として見ている。圧倒的力の前に屈服するしか生きる術がない。まだ二回目にして生に対する意欲が湧き上がってくるのを感じ取る。


「良いよ。何回でも挑戦する」

『いいね~。そうこなくちゃ』

 神は口角を上げて、楽しそうに嗤った。

『カチカチカチ』

 時計の音が静かな空間に響く。



———



 いつの間にか一人の煌びやかな女性が嗣の目の前に立っていた。

 ここはて、天国? 綺麗な澄んだ空気と一面白色の別世界の景色。天界で見た景色。そういった部分から今度こそ自分は死に、天国にやってきたと思った。

 神の声すらも聞こえない。

 本当の本当に嗣は死んでしまったらしい。

 女性の艶艶の黒髪ボブだ。背中に翼が生えて弓矢を持っている。


「何て……美しい」


 ここが天国なら、目の前にいるのが天使だ。嗣は手を伸ばす。


「あなたが好きです」


 嗣から漏れた言葉は告白だった。もう死んだのから何をしても良いと頭の中が勝手に判断を下したのだ。でも嗣はまだ生きている。


 その証拠に斜め右前の紫頭の男子生徒が心配そうな、怒っているようなそんなどっちとも取れる目で嗣を見つめていた。耳にピアスまで開けてみるからにチャラいその男はその後、すぐに別の席に視線を移す。


 前の席の鈴川初音(すずかわはつね)はとても嬉しそうに瞳を輝かせる。嗣の手を両手で包むようにして優しく握った。


(や、やわっ!)


 綺麗な彼女の手は新雪のように白く輝いており、新雪のように柔らかい。

 初音は嗣の顔をじっと見つめて、


「ええ! 本当ですか! では私と付き合って下さい!」


【パーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン】

 

 そして嗣は天国と現実も区別できずに大きな破裂音を鳴らして死亡した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る