閑話

2,クゥとミルの冒険者登録・後編


「なんじゃこりゃ~~~~~~~!」

 ミルのランクカードを見たギルド職員のシータが叫ぶ。

「もっと女の子らしい叫び方でした!」

「わぁってる、わぁってる。ほんの軽い冗談だ」

「ではこちらも何かの冗談ですよね」

 シータはランクカードの一部を指さして迫って来る。

「神官ランクEXって教皇だって頭下げるレベルですよ。そんな聖人がなんでこの辺鄙な町に。てかミルさんて何者ですか!」

 凄まじい気迫で問いただしてくるシータにダンテはヘラヘラと答える。

「家庭の事情ってやつですよ」

「何ですか。その取ってつけたような誤魔化し」

「いやいやそれがほんとなんだよ」

「そうなんですかミルさん」

「はい……」

 シータはダンテからミルに矛先を変えるがその間にダンテが割り込む。

「まぁまぁ、ミルはな光の奇跡って言うギフトを生まれつき持っている」

「ギフト持ち。しかも光の奇跡って、完全に聖女じゃないですか」

「そうだろ」

「彼女、東門のT字教団の神父でしたわね」

「流石シータさん。ご存じで」

「一応神官ならヒーラーとして有事の際に召集できますからね。目は付けてました。まさかギフト持ちとは思いませんでしたが」

「この件は内密にな」

「ふーむ、T字教団に聖女が産まれたなんて話聞きませんし教団自体が公言してない。訳アリってことですか」

「そうそう。そうゆう事」

「なんでダンテさんがそんなことを知ってるんですか」

「まあ、当時T字教団の総本山に居て事件に巻き込まれた当事者の一人ですから」

「ふーん。総本山にですか。いい加減ダンテさんも正体明かしてくださいよ」

「だから、落ちぶれた元凄腕冒険者で稼いだ金で余生を過ごす独身貴族!」

 右手で顔を隠し指の隙間から灼眼をのぞかせて喋るダンテはバッと腕を広げてポーズをとる。

「パパー、ミルママと婚約したからもう独身じゃないよ」

 その背中にクゥの一言が突き刺さる。

「……クゥよ。パパは独身なんだよ」

「往生際が悪いねパパ。エイラお姉ちゃんも大変だ」

「そう言えばダンテさん、エイラ姫様とも親しいらしいですね。ただの庶民じゃありませんよね」

「そうだオレは庶民じゃない――――


庶民以下の浮浪者だ!実際家も燃やされリアルホームレス!」


 どうだ参ったか。そう言わんばかりに腰に手を当て胸を張るダンテ。

 それに頭を抱えてため息をつくシータ。

「まったくダンテさんは――――それが無ければなぁ」

「ん?なんか言ったか」

「いいえ。それより確かにそれだけのギフト持ちならゾンビの1万くらい――――あぁ、だから彼女を中心に少数精鋭でのコア狙いですか」

「そういう事」

 そう言っていたらダンテの裾をおずおずと引く手があった。

 クゥだ。

「ねぇパパ。お話終わった?私のランクカード作ってくれる」

「あっ、あったりまえだろう。こらシータさん、無駄話なんてしてないで早くクゥの鑑定を始めたまえ」

 いつもは聞き分けよく笑顔が絶えないクゥだったが、よほど冒険者登録が楽しみだったのか、大人たちの無駄な会話に放置されていたのが辛かったのか、少し涙目でダンテに訴えかけるもんだからダンテは焦ってシータに詰め寄る。

「ダンテさんが親バカ化してきてる」

「うるせー。そんなことよりクゥの鑑定」

「ハイハイ分りました。それじゃあクゥちゃんこの水晶に手を置いて、行くわよ――――


神髄開帳「オデッセイ・アナライズ」」


 シータさんの呪文で装置が操作され、部屋に光が灯りその光はクゥの体に吸い込まれていった。

 そしてミルと同じくクゥの体も光りはじめてそこから光り輝く文字の帯が出てきて一か所に集まる。

 しかし、

「アレ?もう終わり」

 クゥの文字の帯は短く、あっという間にカードになってしまった。

「ミルママみたいにブワーってならなかった」

「あーそれはだな」

「ダンテさん、ここは私が説明します」

 ダンテが残念そうにしているクゥに説明しようとしたら、シータがそれを引き継いだ。

「あのねクゥちゃん。この「オデッセイ・アナライズ」は鑑定する人の情報を読み取るものなの。だから若い人よりより濃密な人生を送った人の方が多くの情報があり光の帯も多くなるの。だから生まれたばかりのクゥちゃんだと少ししか出ないの」

「クゥはまだ生まれて2日だからな」

「そっか、私じゃこれだけなんだ」

「安心しろ。ランクアップを申請するときにまた鑑定してもらうからな。それまでにいっぱい経験すればブワッと光が出るからな」

「そうなの」

「そうですよ」

「分かった。頑張って冒険する」

「そうしろそうしろ」

「それでは内容の確認をしましょうか。—————流石ドラゴンですね。レベル1でこのステータスですか」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


クゥ:レベル1


冒険者ランク:H/9


種族:ホモサピエンス/ドラゴン


メインジョブ:冒険者見習い


筋力:289

頑強:387

知恵:35

俊敏:126

魔力:298

幸運:187


開示スキル:なし


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 レベルと言うものはその者の生命力を数値化したものと前回説明したことがあったが、生まれたばかりの者は最初はレベル1である。

 これに生きていくにおいて絶対不可欠な何かを経験するということで得られる経験値でレベルアップして成長していく。

 しかし、レベルアップに必要な経験値は種族や才能、職業などで得られる数値は変動するがレベルが上がるにつれて、必要な経験値は増えていくものだ。このレベルアップに必要な経験値が一定期間貯められなければ体は老化していき、より経験値を得づらくなる。

 そしてヒューマンの全盛期は普通の才能を持ち普通の生活をすれば20代~30代にレベルも20~30くらいに至る。

 そこから下り坂でありその時の平均ステータスは20ちょいとされている。

 ちなみにこの下り坂の種族的平均を超えてもレベルが上がり、若さを保つものを超越者と呼ばれる。

 その為、経験値を稼ぎやすい冒険者には超越者が多い。

 その中でもステータスが100を超えるものは中堅といえる。

 そうしてみるとクゥのステータスはヒューマン/ドラゴンとか訳わかんない種族になってるけど超越者に成りうるステータスをして居る。

 ダビで求められるステータスの基準を軽く超えている。


 シータさんがため息を突きながら納得している。

「これだけのステータスを持っていたらダビは絶好の狩場ですね」

「そういうつもりはないんだけどな」

「パパ、パパ。私ってすごい」

「あぁ、すごいぞ。なんならミルと見比べてみろ」

「え⁉」

「ミルママ見せて~」

 クゥにねだられてどうしようかと周りを見渡すミルだが味方がいないことに気が付いて仕方なしにクゥにクラスカードを見せる。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


T・ミルクセーキ:レベル21


冒険者ランク:H/9


種族:ホモサピエンス


メインジョブ:聖神官EX


腕力:38

頑強:27

知恵:279

俊敏:56

法力:2375

幸運:99


開示スキル:なし


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「む~~、このママと私で魔力と法力の違いがあるけど?」

「あぁ、それはな――――

「いや意味は分かるけど。」

 本当に普通の人より頭いいよな。クゥの奴文字も普通に読めるみたいだし。

「それでもミルママの法力が桁外れ過ぎるんだけど」

「それはミルのギフトによるモノだからな」

「それでも法力が魔力と対比になってるなら、この数値は町すら破壊するんじゃないのかな」

「それについては私が説明します」

 横からミルが顔を出して胸に手を当てクゥに笑いかける。

「ミルママが教えてくれるの?」

「はい。いいですか、魔力と法力には根本的な力の法則性が違います。魔力には理に干渉して神に近い力を行使します。対して法力は理を司る神々の敷いた法の元に力を行使します」

「つまり魔力の方が強い?」

「単純にそういう話ではありません。魔法使いは理を理解するのが至上ですので魔力の方が強くなります。対して法力は神の信仰を基にするので弱い力でも神のサポートで大きな力を発揮できます。加えて、魔力は単純な破壊力などには秀でますが、法力は神の敷いたルールにのっとる限り多彩な性能を発揮できます」

「つまり魔力が脳筋で法力が理屈派なんだね」

「う~~~ん。クゥちゃんの理屈は極端な気がします」

「それについては諦めろ」

 ダンテはミルに分かりやすいクゥとの付き合い方を教えた。


「それでしつもーん」

 クゥが手を上げ背伸びをしながら質問してきた。

 答えるのはやはりまずシータだ。

「どれが気に成りますか?」

「これ。この冒険者ランクの横にある数字って何?」

 クゥがランクカードの該当部分を指さして聞いてくる。

「これはランクレベルと言うものですよ」

「ランクレベル?」

 クゥだけじゃなくミルも聞き覚えが無かったので話に耳を傾ける。

「ランクレベルはEXからHまで存在する冒険者ランクの中でもステータスや仕事の出来高で上がり、9に上がったものがランクアップ試験を受けれるの」

「じゃぁ、私もミルママもすぐにランクアップ試験を受けられるんだ」

「焦らないの。試験を受けるなら最低一つはクエストを受けてからじゃないとできないわ」

「そうなんだ」

「落ち込まないで。ランクアップ試験には飛び級もあるし受けたクエストで活躍してたらいくつもランクアップするわよ」

「それは楽しみ~~~」

 喜ぶクゥをしり目に「デビュー戦が難易度Sランクならいくつランクが上がるのかしら」と目線を逸らしてシータはつぶやくのだった。


「ところでパパのランクはドンナノなの」

「うん?見てみるか」

「うんうん。見る見る」

「これが俺のランクカードだ」

 と自慢げに繰り出したダンテのランクカードだったが。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ダンデ■■■■・■■■■■■■■・■■■■■■:レベル■■■


冒険者ランク:■■■/7


種族:ホモサピエンス/ドラコニア


メインジョブ:■■■■■■■


筋力:■■■

頑強:■■

知恵:■■■

俊敏:■■

魔力:■■■

幸運:■


開示スキル:教練、鑑定、宮廷作法。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「どうだ」

「パパ、全然読めない」

「何ですかコレ文字化けしてるのですか」

 自信満々で突き出したダンテのランクカードを見た二人から不満が出る。

 それに助け舟を出したのが以外にもシータだった。

「ダンテさんは呪を受けていて、それでランクカードもバグだらけなのよ」

「まっ、オッサンが落ちぶれている訳も分かっただろ。ダビ攻略はお前らが肝だ。期待してるぜ」

 そう言われても納得のいかない2人はジト目でダンテを見つめるのだった。

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