時計台

田村隆

時計台

一人の子供が大きな時計台の前に立っていた。

彼は、昔私が小さかった時に大変お世話になった人だった。

しかし、その時と姿形は変わってなかったのに怪訝と思いつつ彼ならば仕方がないと思えた。私は彼に声を掛けようとした瞬間に不思議なことに

(今、何時だろうか?)

急に私は、時間が気になってたまらなくなった。

しかし、腕時計やスマートフォンなど時間を把握するものを持ってなかったため、それがわからなかった。

仕方なく時間を知るために時計台を覗こうとするが、彼が邪魔で見ることが出来ない。

私はため息をつきつつ昔とは逆に彼を見下ろすように

「久しぶりですね。どいてくれませんか?」と言う。

すると彼は、私の声に驚いて振り向くと私を見上げて

「驚いた。君がこんなところに来るとは………。」

彼は、会えたことを喜んでいるのが見て取れた。

だが、私は時間を知りたかったので、昔話でもしそうな彼を制した。

「今何時か教えてくれませんか?」と私は聞いた。

だが不思議なことに、彼は私の言葉に一瞬ポカンと口を開けると、

「そんなことが、今重要なことなのかね………?」

驚き、あきれた様子でつぶやいた。

それは、まるで私を馬鹿にする様子が見てとれた。

私は、もう一度、

「私はとても気になります。」

我慢強く言うと彼は、ため息をついた。それはまるで私が今言うべきではないことを言っているかのようだった。

彼は、大きく息を吐くと私を見上げて、

「本当に、そんなことが必要ことなのか?」

彼は、幼子に言い聞かせるように見て取れて私は腹が立ったが今はそんな時ではないと思った。

しかし心と体とは別で

「重要かそうでないかはあなたが決めることではない!!時間が知りたいのだ!!」

と力の限り叫んでしまった。すると彼は、今までのどこか馬鹿にした姿から真剣な様子に変化した。

そして、私の目を見た。その姿は、ヒールをはいた私の高い背丈を感じさせないどころか私より大きな佇まいがあった。私は、驚き圧倒された。だが、ここで引く事は出来なかった。

「あなたには重要なことではないかもしれないが………。私には重要なのです。」

震える体を彼に感じ取られないように言うと、

「そんなに怯えなくてもいいよ。しょうがない。教えるよ。」

彼は、私が不安になるような、意味深な笑いを浮かべつつ、

「今、一つの星が終わった時だよ。そう、地球という星が終わった時だよ。」

私は聞いた途端足から力が抜けるような気がした。

「そう、地球……。そう、君が終わった時だよ…………。これは地球の時間を刻んでいた時計だよ。」

私は自分が死んだことに今気付いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時計台 田村隆 @farm-taka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ