口も態度も少し悪いけど実は幼馴染みのことがめちゃくちゃ大好きな不器用な女の子の話

ハイブリッジ

第1話

「まだ準備できないの?」


 幼馴染である井ノ上楓いのうえかえでちゃんが玄関の前で腕を組んで待っている。


「おまたせ」


「体操服持った?」


「あっ……忘れてた」


「はぁ……。あんたって本当にどんくさい」


 楓ちゃんはしっかりしていてとても頼りなる。頭も良くて美人さんでクラスの男子も楓ちゃんのことを好きな人が多い。


 楓ちゃんとは小中高と同じでもう何年も毎日一緒に学校に行っている。


「ごめんね。いつも待たせちゃって」


「別に。いつものことだし」


「待ってもらうの申し訳ないから楓ちゃんだけ先に行っててもいいのに」


「は? 今日も私がいなかったら体操服忘れてたくせに」


「そ、それは……」


「あんたには私が必要なの。わかったら変なこと言わないで」


「う、うん。ごめんね」


 楓ちゃんに迷惑がかかるので何回か別々で学校に行くことを提案しているのだが有無を言わさず断られている。


「そうだ。あのね今度の休みに遊びに行かないかって誘われたんだ」


「へえ。誰に?」


「鉄平たちに」


 鉄平は中学からの友達で別々の高校になってからもよく遊びに誘ってくれる。


「ふーん。……それって女子もいるの?」


「え? え、えっと……」


「いるんだ」


「……うん。鉄平が頑張って誘ったんだって」


「あっそ。じゃあその誘い断って」


「えっ」


「そんなところに行ったらあんたに変な虫が付いちゃうから。それにその日は私の買い物に付き合ってもらおうと思ってたし。だから断って」


「で、でも」


「なに?」


「ううん何でもない。鉄平に遊びに行けないって連絡しとく」


「それでいいの。あんたは私の言うことだけを聞いて入ればいいんだから」


「うん」


 遊びに行く時、女子がいると話すと楓ちゃんはすごく不機嫌になる。理由を聞いても教えてくれないしよくわからない。


「今日だけど加奈たちとカラオケに行くから一緒に帰れない」


「そうなんだ。楽しんできてね」


「あんたは寄り道せず帰って。最近は危ない人とか多いから。あと心配だから家に着いたら連絡入れて」




 ◻️■◻️



<カラオケ>



「ねえねえ楓。楓といつも一緒にいる子とはいったいどういう関係なの??」


 カラオケに来たのはいいが歌わずにスマホをいじっていると友人の加奈かなから涼について聞かれる。


「どういう関係って……ただの幼馴染みだけど」


「幼馴染み! いいなー憧れるなー。でもただの幼馴染みにしてはずっと一緒にいるね? 登下校も一緒だし、ご飯もよく一緒に食べてるじゃん」


「それは放っておけないから。よく転んで怪我とかするし、忘れ物もよくするし、結構抜けてるところもあるし……。だから仕方なく一緒にいてあげてるだけ」


「そうなんだー。でもでも見た目結構可愛くない?」


「…………そうかな」


「そうだよー。なんか小動物みたいなー……なんとなくリスに似てるかも」


 リス……。確かにご飯を食べてる時は少し似ているかもしれない。


「いいなー私もあんな幼馴染み欲しかったなー」


「止めといた方がいいよ。あいつは私以外の女子だとあたふたしちゃって迷惑かけるから」


「そっかー」


「なになに? なんの話してるの?」


 加奈との会話に割り込んできたのは一緒にカラオケに来ていた同じ高校の男子生徒。名前は憶えていない。興味がないから。


 加奈たちだけかと思っていたのに何人か男子も一緒だった。なんでも男子の方からどうしてもとお願いをされて断れなかったらしい。……知っていたら来ていなかった。


「楓の幼馴染みの話をしてたんだー」


「井ノ上さん幼馴染みいるんだ! どんな人なの?」


「○○くんと同じクラスの子だよ。鈴本涼すずもとりょうくん」


「鈴本…………。あーあいつか」


 あいつ?


 イラついてしまい持っていたスマホを強く握ってしまう。


「鈴本と井ノ上さん幼馴染みだったんだ。羨ましいなあ。俺が井ノ上さんの幼馴染みだったら毎日テンション爆上げだけどな」


 勝手に何言ってんだこいつ。こんなうるさいだけの人と幼馴染みとか最悪過ぎる。こいつじゃなくて涼が幼馴染みでよかった。


「楓、今度涼くんに私のこと紹介してよー。仲良くしたいからさー」


「嫌。さっきも言ったけどあいつは私以外の女子と話すとあたふたするし加奈に迷惑かけるだけだから」


「はははっ。確かに井ノ上さんの言う通りあいつってオドオドしてるかも。そこはちょっと気持ち悪いよなー」


「…………は?」


 小馬鹿にした様子で涼の悪口を言った男に我慢できず、鋭く睨み付ける。


「今何て言った?」


「え?」


「涼のこと気持ち悪いって言った?」


「えっとその……ま、まあ」


「言っとくけどあんたの方がマジ気持ち悪いから」


「な、なに急にどうしたの井ノ上さん?」


「涼はすごく可愛いから。たまに見せてくる笑顔とか私を殺そうとしてるのかなってくらい可愛い。だから笑顔は他の人なんかに見せてほしくない。ご飯を食べる時も一口が小さくて、大好きなハンバーグが作ってあげたらキラキラした目で見つめるところも本当に愛らしい。


 でも可愛いだけじゃなくて私が困ってたら誰よりも早く助けてくれるカッコいいところもある。私がこんな性格だし口も悪いから色んな人と口論になることあるけど涼は絶対に私を庇ってくれる。涼は完璧なの。涼がいないと私は生きていけない。涼以外の男なんてどうでもいい。涼のことを馬鹿にするやつは私が絶対に許せない」


「え、えーと………………」


「今度涼のこと悪く言ったらあんたのこと殺すから。二度と近づかないで」


「は、はいっ!! すいませんでしたっ!!」


 涙目になりながら男子生徒は男友達と思われる人と一緒に部屋から逃げて行った。


 男子生徒がいなくなり、部屋の中はカラオケ屋さんにも関わらず静まり返ってしまった。


「……………………はぁ。ごめん空気悪くした」


「ううん全然だよ。今の楓めちゃくちゃカッコよかったー」


 胸元でパチパチと拍手をする加奈。


「楓って涼くんのこと本当に大好きなんだねー」


「別に。普通でしょこれくらい」


「いやー普通の人はあんな据わった目で幼馴染みの好きなところを語らないし、スマホの待ち受けを幼馴染みの写真にはしないと思うなー」


「…………………………………………そうなの?」




 ◻️■◻️




<朝>



「おはよう」


「遅い。もっと余裕を持って行動したら」


「ご、ごめんね」


「ほら行くよ。のんびりし過ぎると遅刻する」


 数分ほど歩いた後、僕は少し緊張しながら楓ちゃんに話かける。


「か、楓ちゃん」


「なに」


「その……いつもありがとうね」


「は? 急にどうしたの?」


 立ち止まる楓ちゃん。


「昨日一人で帰ってる時にそういえば楓ちゃんにはいっぱい助けてもらってるのにちゃんとお礼を言ってないなって思ったから。今日会ったら絶対に伝えようって考えてたんだ」


「…………」


「楓ちゃんには本当に感謝してるんだ。こんな僕にいつも話しかけてくれるし、助けてくれる。いつも優しい楓ちゃんが大好き。本当にありがとうね」


 拙い言葉しか出てこないが今思っている感謝の気持ちを精一杯伝える。


「…………卒業するまで我慢するって決めてたのにそんなこと言われたら我慢できなくなるじゃん」


「え? なにか言った?」


「言ってない。あとこっち見るな」


「わ、わかった」


 そう言って楓ちゃんは顔を背ける。チラッと楓ちゃんを見ると耳がほんのり赤くなっている。


 もしかしたら登校の途中のこんなタイミングで感謝の気持ちを伝えてしまったことに怒ってしまったのかもしれない。


「……そうだっ! 僕も何か楓ちゃんのために何かしたいんだ」


「別にいい。いつも通りでいいから」


「それだと僕が嫌なんだ。僕、なんでもするよ!」


「………………なんでも?」


 僕の言葉にピクッと反応する楓ちゃん。


「うん。なんでもいいよ。どこどこ行くから買い物付き合ってーとか家の掃除を手伝────」


 提案をしている途中、突然楓ちゃんに両手を握られる。


「か、楓ちゃん? どうしたの?」


「なんでもするって言ったよね?」


「う、うん。僕にできることなら」


 楓ちゃんが真っすぐ僕の顔を見つめる。な、なんか楓ちゃんと出会ってから一番の圧を感じる。











「じゃあ…………私と結婚してください」


「…………………………………………えっ?」





 終わり


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