第23話 旦那様の魅了



「も、もしかして今も魅了を使ってますか?」

「え?使ってないよ?今は俺の可愛い奥さんを愛でてるだけ」


そう言ってつむぎを思いっきり抱きしめた。


ーーっ。こ、こちらの方が心臓によくないです!


あまりに魅力的なリヒトの笑顔に、つむぎは耐えきれなかった。リヒトの腕の中から必死に逃げ出して、あまねの後ろに隠れた。

 それがショックだったのだろう。

 リヒトからは悲壮感があふれていた。


「ど、どうして……逃げるんだ?」


愛しの妻から逃げられたリヒトを、あまねは哀れに思うと同時に、自業自得だとも思った。後ろに隠れているつむぎなんて顔だけではなく手まで真っ赤になっている。

 つむぎは声を震わせながら、答えた。


「だっ、旦那様は……魅了なんて使わなくても充分魅力的です」


そんな可愛い事を言うつむぎに、あまねは天を仰ぎたくなった。


「ぐっ」


リヒトの持病が発作を起こすのも無理はない。天然でこれを言うのだからつむぎにリヒトが敵うわけもない。こればかりはあまねもリヒトに同情したい。


「旦那様!?大丈夫ですか?」


あまねの後ろからつむぎが心配そうに声をかける。優しいつむぎが駆け寄ろうとしていたので、あまねはつむぎの手を引いて止めた。

 これ以上近付いたらリヒトは身が持たないだろう。


 リヒトは深呼吸して何とか気持ちの整えた。

 そしてふと、ある事に気がついた。

 リヒトの母はダンピールだ。しかも吸血鬼の中でもかなり力を持った血族だったので、ダンピールと言えどかなり強い力を持っていた。そんな母の血を引くリヒトも当然、強力な吸血鬼の力を持っていた。

 そんなリヒトの魅了が、つむぎには効かない。

 あやかしよりも強い力を持っていなければ出来ない事である。暴走したあやかしを止めるためにも術師にはあやかしよりも強い力を持つことが理想とされる。しかしそういった術師は数少ない。大抵の術師はあやかしの力から身を守る術を身につけるものなのだ。

 だがつむぎにはまだそういった術はない。

 だからこそ、リヒトの魅了を無効化したのはつむぎ自身の才能だと言える。


ーー凄いな。俺の魅了が効かないなんて。まあ、魅了できれば、もう少しイチャイチャできたかもしれないんだけどな。


つむぎに術師としての才能があることはとても嬉しいし誇らしい事だが、その力が強すぎるのも問題だな、とリヒトは頭を抱えた。


「旦那様?」


心配そうに見つめてくれるつむぎを、これ以上不安にさせるのも心苦しい。


「ああ。大丈夫だ」


つむぎがようやくあまねの後ろから出てきてくれた。と、言ってもまだまだリヒトとの距離はある。


「とにかく。これは俺の同胞の後始末でもあるんだ。ここは俺に任せて帰りなさい」


横を向くと、あまねも優しく見守ってくれている。リヒトのために、術師として、この事件に少しでも貢献したかったところだが、それはどうやら叶わないようだと、つむぎは悟った。


「はい」


そして素直に頷くのであった。

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