4-11 初仕事

 早速城へ向かうと決めたユシャリーノは、朝早くからミルトカルドの手を引いて拠点を出た。

 ユシャリーノの拠点から街道へ出ると、道の反対側に見覚えのある机と人物が目に入った。


「おや、少年じゃないか。今日も早いねえ」


 つかつかと早歩きをしていたユシャリーノは、聞き覚えのある声に足を止められた。


「おばさんだ! おはよう……お店、うちの目の前だったっけ?」

「場所なんぞ適当じゃ。どこにおっても来るものは来るし、来ないものは来ない。それより、その娘は何者じゃ?」


 店と言っても、紫色のテーブルクロスが掛けられ、機能しているのかは不明な水晶の玉が乗せられた机と、占い師の着衣で隠れた椅子だけだ。

 屋根など雨風をしのぐ物はないため、晴天のみの営業である。

 占い師は、座ったままミルトカルドを見つめることで、知りたい人物を示した。


「パーティーのメンバーだよ。おばさんに紹介するつもりだったからちょうどよかった」


 ユシャリーノは、つないでいる手を占い師に向けた。

 ミルトカルドは、思いもしなかった方向へ腕が動いて少し驚いたが、ユシャリーノがさせようとしたことをすぐに汲み取った。

 手を離して姿勢を正すと、丁寧にあいさつをした。


「初めまして、ミルトカルドと申します」


 両手を軽く組み、膝を曲げると共に、脚を前後にして礼をしたミルトカルド。

 いわゆる、カーテシーをして見せた。


「おやおや、あたしなんぞにすることじゃあないよ。やめとくれ」


 占い師は、片手を目の前に出すと、弱弱しく振って目線を横へ反らした。


「いえ、これぐらいはさせていただかないと」

「あんたたちも相変わらず面倒臭い生活をしているねえ。まあ、それが仕事だからしかたがないんじゃが。ところで、何をしに行くんだい?」


 首を傾げてミルトカルドを見ていたユシャリーノは、占い師から問いかけられて、意識を城へと戻した。


「勇者として、最初にやることがわかったんだ。早速それを片付けに行くところさ」

「ほほう。王都に魔物が出たという話は聞こえてきていないが、何かあったのかい?」

「最近起きたことじゃなくて、すでに起きていたことなんだ。でもちょっと修正すれば済む話だから、さっさと終わらせてくるよ」

「おや、頼もしいことを言うじゃないか。なんにせよ、前に進む理由が見つかったのは良かったねえ。戻ったらぜひ詳しく聞かせておくれ」

「もちろんさ」


 ユシャリーノは、結果報告をする約束を受けた合図として、片手を胸に当てた。

 ミルトカルドから改めて手をつかまれたユシャリーノは、握り返すと足を城へと向けてその場を後にした。


「どうやら少年は気付いていないようじゃが、よい相棒が出来たのう。思っているより面白くなりそうで楽しみだねえ」


 城へと向かうユシャリーノたちの背中を見ながら、占い師は笑みを浮かべていた。



 城の謁見部屋まであっさりと通されたユシャリーノたちは、玉座に座る王の前で礼をした。


「勇者なのだから、そろそろ堅苦しい礼儀は抜きでかまわん。それより、話とはなんだ」


 いつも通り、王様は秘書に任せて、ユシャリーノたちとの会話を避けようとしていた。

 しかし、直接話がしたいというユシャリーノからの要請があった。

 それだけなら王様は振り切るところなのだが、珍しく、秘書から今回は耳を貸すように促されたため、王様は謁見部屋にとどまっている。


「提案したいことがあるので、お伝えに来たんです」

「提案……内容は?」

「もしかして、王様はどなたかと結ばれたいのに、先代勇者が決めたことのせいで阻まれているのではないですか?」

「うっ……」


 王様は、力を込めて指を広げると、自分の頭をがっちりと掴んでうな垂れた。


「やっぱり。千年前の勇者が決めたことなんて気にしなくていいですよ。世の中は一年もあれば激変するってのに、千年なんて時間があったらまったくの別物。いいですか、今から現勇者が決めます」


 ユシャリーノの妙な勢いを感じて、指の力が抜けた王様は、ユシャリーノをじっと見た」


「何をするつもりだ」

「勇者の力を使うんですよ。秘書さん、記録の方、よろしくお願いします」


 秘書は、突然振られてビクっとしたが、手元に用意していた筆記用具を出来るだけ冷静に持って構えた。


「どうぞ」


 秘書の合図をきっかけにして、ユシャリーノは口を開いた。


「今から、マルスロウ王国において、王の婚姻を解禁します」

「なん……だと!?」


 ユシャリーノは、目を見開く王様と秘書を前にして、少しドヤ顔を作ってみた。


「どうかな、勇者らしくキマったかな。カッコいいかな」

「ユシャ、どちらかというと、ニヤニヤしているわ。がんばって真顔にしてよ」

「マジ!? キマってないのかよ」


 残念がるユシャリーノをよそに、王様と秘書は感激をどう表現したらよいかわからないながらも、笑顔で見つめ合っていた。

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