ゲーセンのぬいぐるみの御話

ゴローさん

ゲーセンのぬいぐるみ

 皆さんはぬいぐるみをどこで見ることが多いだろうか。


 おもちゃ屋さん?

 ネット通販の画面?

 某人気動画配信者の家?


 色々な答えがあると思うけど、一番多いと思われるのは

『ゲームセンターにあるクレーンゲームの中』


 そう、これはゲームセンターに置いてあるクレーンゲームの中にいるぬいぐるみのお話。

          ◇◇◇

「ねー、あのぬいぐるみ見てよwまじウケるんだけどw」

「ん?なにが?あー、耳がもげちゃってるじゃん。なんでああなったのか気になるな」

「だって。あのぬいぐるみ無駄に耳をアームに引っ掛けやすそうだもん。みんながあそこを狙ったんじゃないの?」

「なるほどね。かわいそうだね」

「…あんたって優しいね。そういうとこ、好き。」

「えへへ、ありがとうね。」


 クレーンゲームの中の俺を見ながら高校生くらいのカップルが仲睦まじく俺の前を通っていく。


 そんなカップルに向かって、心のなかで少しだけ訂正する。


 違うよ。これは俺の努力の勲章なんだぞ。と――


 世の中にはクレーンゲームは何回か挑戦しないと景品が取れないという噂がまことしやかに囁かれているらしい。

 いわゆる確率機というやつだ。


 でも、そんなのは嘘である。

 俺を引っ張ってくるアームの力はいつもおんなじくらい強いのだ。


 じゃあ、なんで、一回で取れないのかって?

 それはね――


「この耳が取れてるぬいぐるみ欲しい!」

「なんで?」

「だって、これ、かわいいから!」

「わかった!しーちゃんのためにパパがとってあげるからな!」

「やったー!」


 おっと、俺を狙う一般客たちが来たようだ。

 丁度いいから、この機会を使って説明することにしよう。


「これでどうだ!」

「ぱぱ!じょうずー」


 寸分の違いも来ずにクレーンのアームが俺の耳をめがけてやってくる。

 この角度、普通なら持っていかれる角度だ。


 普通なら。


「ぐぐぐっ」


 だが、俺はこんな家族に取られるわけにはいかない。

 自らの野望を叶えるためっ!


 俺は手の力を使って、必死に持っていかれないように力を込める。


 5秒ほど格闘した後、アームが諦めて俺の耳から離れていく。

 それとともに、お父さんの悔しそうな声が聞こえてきた。


 ――どんなもんだい!


 俺は小さく胸を張る。

 これでアームに対して10連勝である。


「早く可愛いJK来ないかなぁ」


 そう、俺の野望ってのは…


 かわいいJKに取られて、夜寝るときに抱きついてもらうんだ!――


 その願いを持って俺は来る日も来る日も粘り続ける。

 俺好みのJKが来るまで……


 ――さっきの子が将来モデル級の超SS級美女になるなんて、まだ知ることもなく…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゲーセンのぬいぐるみの御話 ゴローさん @unberagorou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説