💖第9話 1人の時って何してたっけ

「失礼しまーす……」


 恐る恐るドアを開けて中へ入ると視線がいくつか集まった。


 今日は入部届を提出する為、お昼休みに職員室へ。

 ざっと見まわし、顧問の先生を見つけて席まで向かう。


 先生たちもお弁当を食べたりしているのを見ると、リアルな一面を知れて私らと同じような人間なんだなーって思った。


「あの~先生、私たち写真部に入部しようかなと思って入部届持ってきたんですけど……」


 そう言って先生に入部届を手渡す。


「おお、そうですか。2人も来てくれるなんて嬉しいですね」


 先生が眼鏡を額にあげ、入部届の用紙に目を通す。


「えー、佐倉さくら彩朱花あすかさんと汐留しおどめ千賀ちかさんですね、分かりました。じゃあ今日の放課後から早速部室に来てくださいね」

「はーい」

「分かりました」


 その日の放課後。


「今日から新しく1年生の部員が2人増えたので、先輩として仲良くしてあげて下さいね」

「佐倉彩朱花です、仲良くしてもらえたら嬉しいです!」

「汐留千賀です、よろしくお願いします」


 まばらにしかいない先輩に軽く挨拶をする。

 先輩達が部室に来る時は、フォトショを使う時とか現像しに来た時とか、カメラ借りに来たとかそんな程度らしい。


 細かい活動とか、カメラの使い方とかを先生に教わる為に1年生はなるべく部室に通った方が良いみたいで、今日から早速カメラの事を教えてもらった。

 スマホのカメラ機能もちゃんと使いこなせばすごい写真が撮れるんだって。



 翌日。

 今日は私のバイトの面接があるから、下校途中で千賀と解散する。


「それじゃあ私あっちだから。行ってくるね!」

「うん、頑張って。応援してる」


 千賀が『がんばれ』のキスをする。

 それだけで私のテンションのギアは一段階上がって、どんな面接でも突破できる気がしてきた。


 公衆の面前だけど、たぶん見られては無いと思う。たぶん。


 私が面接を受けに来たのは、オシャレなカフェ。

 と言ってもこの間千賀と行った純喫茶な感じのお店じゃなくて、もっと若者向けなところ。


 最近オープンしたばっかりみたいで、パンケーキとか食べに行ってみたいなって思ってた。


「それじゃあそちら席座ってもらって。宜しくお願いします」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「あはは、そんな緊張しなくてもいいよ」


 面接してくれたのは、大人なお姉さんって感じの素敵な店長さんって感じの方だった!


「それじゃあまずは志望動機から聞かせてもらえるかな?」


 そうして初めての面接が始まった。


「……うん、ハキハキ答えられてるしこのまま採用でいいかな」

「え、ほんとですか!?」

「佐倉さんがこのままここで働く意思があるなら、親御さんに連絡だけさせてもらって早速シフト表を書いてもらおうかなって」

「は、はい!ありがとうございます!」


 面接って言うから、高校受験の時の面接みたいにガチガチかと思いきや、終始ラフな感じで話しかけてくれた。

 私もなるべくその雰囲気に合わせてニコニコしながら受け答えしたつもりだったのに、緊張はほとんど抜けなかったけど。


 初めての面接でいきなり受かって、ルンルン気分のまま帰宅する。


「千賀ー!私採用されたよ!」

「ほんと?よかった。まぁそうだよね、彩朱花が面接に来るなら私だって顔パスで採用するもん」

「それは贔屓目ひいきめが過ぎない?」


 あとは千賀の番!頑張れ!



 その更にまた後日のこと。

 今日は千賀が面接日だってことで、下校途中で千賀と別れて1人で帰って来た。


 もちろん、『がんばれ』のキスをしてから。


「家に自分1人って、中学生の時ぶりだなぁー」


 暇だし適当に時間潰そうっと。

 ……1人の時って何してたっけ。


 普通にスマホ触るとか……宿題するとか?


 多分そんな感じだったとは思うけど、具体的な記憶が出てこない。


 とりあえずベッドに寝転んでスマホを触る。


「千賀大丈夫かな。私より器用だけど、あんまり愛想よくとかしないからなぁ」


 違うバイトにしようって言ったのは私なんだけど、いざこれから別々なんだって考えたら千賀が心配だし私も寂しい。


「千賀……」


 最近、この間のお風呂でのことをよく思い出す。

 そんなつもりじゃないんだけど、授業中とか1人で考えられる時間が出来るとどうしてもその記憶が脳裏にちらついて仕方がない。


 ……でも、今日は1人。いつもなら必ず千賀がいるけど、今日は本当に1人だ。


 気が付くと私は指でショーツをなぞっていた。


「ん……ふぅっ……千賀……」


 今までしたことが無いから、恐る恐る探るような手つき。


 この間いっぱいキスしたから、もしかすると欲求が溜まっていたのかもしれない。


「千賀……そんなとこ触っちゃだめだよ……」


 妄想の中ですら素直に気持ちよくして欲しいと言えない自分がもどかしい。


 そのもどかしさが波及してか、それとも単に初めてだからか、自分で触ってもあまり気持ちよくなれない。


「して……ねぇ、もっといっぱいしてよお……」


 素直に吐き出してしまえば、私の中の千賀が甘やかしてくれるかと思ったけど、そんなことはなくて。


「はぁ……」


 虚しさが上回ったところで手を止め、綺麗に洗い流すためトイレへ向かう。


 トイレを出て部屋に戻ろうとしたところで、玄関がガチャッと開いた。


「あ、千賀おかえり」

「ただいま、彩朱花」


 面接どうだった?って聞こうと思ったけど、一瞬目が合った後すぐに逸らして、少しだけ悲しそうな表情をしたのを私は見逃さなかった。

 ……ダメだったのかな。


「あの、彩朱花」

「そうだ、前に観たいねって言ってた映画そろそろ配信開始されたんじゃなかったっけ?観る?」

「あ……うん」


 また頑張ればいいからね、千賀。

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