ぬいぐるみの作り方

澤田啓

第1話 おとのないせかい

 アナタ様、こんな山奥まで私のようなモノの益体もない話を聴きに来られるなんて、よっぽどお暇な御仁なのでしょうな……。


 えっ?暇などではない?成る程アナタ様はK新聞の記者さんであると……そうして私の棲まうこの寂れ果て、朽ちかけてしまったA村の取材に来られたのですか……それはまぁご苦労なことでございましたね。


 ご覧のとおり、このA村はなんの名物やら特産品もありはせぬ……凡庸な田舎の寒村でありますれば、アナタ様のような立派な方のお眼鏡にかなうお話がありますでしょうか。


 ふむ……アナタ様はこのA村に棲んでいる人形作家を訪ねて来られたと、そうしてくだんのモノが創造する『ぬいぐるみ』の取材をされたいとおっしゃられますか。


 はぁはぁ、それならば私の話を聴かれるのが良いでしょう……一応は私めがその人形作家と呼ばれているモノでありますれば。


 ところでアナタ様『ぬいぐるみ』とは、いかような言の葉で構成されて居るかご存じですかな?


 そそ、そのとおり『縫う』と『くるむ』の二つで『ぬいぐるみ』と云う存在は、この地平に存在することを許容されて居る不確かなモノであるのです。


 アナタ様は私の話を信じてはくれて居らんようですな、さすればアナタ様には『ぬいぐるみ』の本質をお教えいたしましょうか。


 そもそも『ぬいぐるみ』とは、表の皮が『縫われる』そして内容物が『くるまれる』受動的行為によって成立せしめている存在なのです。


 しかしながら『ぬいぐるみ』の名前から察するに、その主人公は『縫い』そして『くるむ』を能動的行為により構成させる製作者であり、創造主である私のようなモノになってしまうのですね。


 この愛くるしい姿の『ぬいぐるみ』の主人公が、私のような醜悪なモノであってはならんと考え……私は『ぬいぐるみ』が受動的な存在から脱け出せるよう、『ぬいぐるみ』を作成したのですよ。

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ぬいぐるみの作り方 澤田啓 @Kei_Sawada4247

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