思い出はぬいぐるみの中に

桜桃

第1話 ぬいぐるみの実の中には――……

『私、必ず成都せいとと結婚するの!!! 幸せになろうね!』




 昔の私は、そんなことを普通に幼馴染に言っていた。小さい頃は本当に自由で、何でも言い合えて。楽しかったなぁ。

 まぁ、子供だから時間もたくさんあって、たくさん遊べて。今みたいに学校とか、勉強や塾とか部活。色々と時間がとられてしまう事はなかった。

 同じ学校、同じ部活、同じ塾に通っていても、全然一緒にいる事が出来ない。


 昔、成都は私に誕生日のプレゼントと言って兎のぬいぐるみをくれた。心から嬉しくて、幸せで。私がお礼を言うと、唖然としたような顔を浮かべていたっけ。きっと、私の嬉しそうな顔に見惚れてしまったのだろう。

 その日から私はそのぬいぐるみに「星奈」という名前を付け、四六時中ずっと一緒に居た。


 ごはんの時も、買い物の時も、学校にも連れて行っていた。周りからは変な目で見られていたけど関係ない。私は一緒に居たいから、ずっと抱きしめていたいから。だから持って行くの。


 まぁ、四六時中一緒にいたから、今はもうボロボロ。何度も何度も縫い直したりしているから、もうつぎはぎだらけになってしまっている。その中で、今私が手にしているぬいぐるみの星奈の縫い目は、背中が一番目立つ。赤色だからかなぁ。


 ぬいぐるみを抱えている私の左手の薬指には、シルバーの指輪。これは本物ではなく、昔成都からもらったおもちゃの指輪。これは、クリスマスのプレゼント交換で私がもらったもの。そして、私も成都に同じ指輪を送った。


 本当に、昔は幸せだったのに、幸せだったのに。なのに、なんで今は、こんなにも距離が離れてしまったのか。今の私にはもうわからない。

 でも、わからなくていいの、わからなくて。だって、今はずっと一緒だもん。これからは離れたくても離れられない、私とずっと一緒だよ。


「ごふっ…………。これからは、ずっと…………」


 地面に体をたたきつけ、意識が遠のく。私の右手には、薬指のない左手が重ねられている。


 あぁ、幸せだ。ずっと、ずっと――……


 ☆


「無理心中だって、今回の事件」

「私、聞いたんだけど。今回の事件、女性の方。昔から変だったらしいよ」

「あぁ、なんか。今回一緒に死んだ男性の事が好きすぎて、いつも付きまとっていたみたいだよね。兎のぬいぐるみを奪い取ったり、おもちゃの指輪を取り上げ、押し付けるように自分の指輪を渡したり。迷惑行為が絶えなかったみたい」

「それに、学校や部活、塾まで一緒の所に通うようになって、男性の方はノイローゼ気味だったみたい。可哀そうに…………」

「でも、女性の方は幸せだったのかな」

「なんで?」

「だって、ニュースで流れていたでしょ? 女性は口元に笑みを浮かべ倒れていた。近くには、つぎはぎだらけの兎のぬいぐるみ。背中が赤く染まっていたみたいだから中を開けてみると、入っていたのは、人の指。しかも、おもちゃの指輪が無理やり嵌められていた薬指。もしかしたら大事な思い出を、ぬいぐるみの中に入れて、一緒に持っていこうとしたのかな。自分の好きを、独り占めするために」

「うわぁ、それが本当だったら最悪じゃん」

「本人の幸せが、一番だったんだろうね…………」

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