残されし文字は「ぬいぐるみ」

司弐紘

1.

「『ぬいぐるみ』で思いつくもの適当に並べろ」

「そんな感じで良いんですか?」


「いいんだよ。ブレストってこういうものだから」

「ブレスト? ブレストファイアー?」


「違う! ブレインストーミングの略だ。例えばそうだな……人の名前とか。ぬいぐ・るみ、って感じで切る場所考えれば、そういう風にも見える」

「なるほど。そういう感じですか。るみはわかりますけど“ぬいぐ”はさっぱりですね」


「だから……例えば姓が『縫具』とか」

「はぁ、“縫い”ってそういう漢字なんですね。初めて知りました」


「……お前ちゃんと資料読めてるか? そもそもなんでお前が資料を――」

「でも、そんな姓なのに“るみ”とか名前つける親も親ですね。ぬいぐるみ確定じゃないですか」


「だからそれは結婚とか……」

「ああ、その可能性はありますか。でも、そもそも『縫』っていう名前は無いみたいですよ」


「お前、躊躇いなくスマホ取り出すなよ――で、無いんだ?」

「無いですね」


「じゃあ……ぬ・いぐるみ、という感じで切ってみる」

「切ってみると……“いぐるみ”ってのは、どうにかなりそうですけど」


「そうだろう。いぐるみ……こう……その場で座り込む感じがする」

「なんとなくわかりますが、それを伝えようとしますかね?」


「だから、もっと長くて『ぬいぐるみ』の前に色々あったんだよ」

「あ」


「“あ”?」

「――そういえば、そういう跡があったみたいですよ」


「お前資料を、どう読んでるんだ!?」

「タブレットもスマホも満足に使えない人に言われたくないなぁ」


「なんだと!?」

「そんな風に大声出しても、どうしようもないでしょ? ええと、ああ、ありました。前の方は雑に消されてたみたいです」


「……今更それか……で、『ぬいぐるみ』の後ろにはそういった跡が無いんだな?」

「ええ。そこで終わってますね」


「どうも、色々不足してる気がする。これを書き残した奴に関わりがある、人とか

会社とか……俺に見せろ!」

「だから、使えないでしょ?」


「そういう画像を出して俺に見せれば良いだろ」

「はいはい。でもそれぐらい……ええと、たなかようすけ、すずきいちろう、株式会社レートク、ふちか興産、たかはしこうよう――」


「おい」

「だから今、それっぽいページを……」


「“ふちか”って、お前それ『不知火』って書いてないか?」

「ああ、そうですよ。ね? わざわざ確認する意味は無いでしょ?」


「いや確認の意味はある。お前の漢字がヤバいのはちゃんと伝えておかないとな」

「いきなりなんなんですか」


「『不知火』って書いて、それは“しらぬい”って読むんだよ」

「え?」


「ということは……『――ぬいぐるみ』……不知火興産ぐるみで何かやらかしてるって事か」

「それを伝えたかったんですね」


「よし、行くか」

「行きましょう」

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残されし文字は「ぬいぐるみ」 司弐紘 @gnoinori

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